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23 それぞれの思惑

「……いやはや、なんとも大した物ですな」

凱旋したヒサメ達と面会した、ギルドマスターであるイラーサの第一声がそれであった。

「いやいや、それほどでも」

ヒサメは言葉では謙遜しつつ、その表情はどんなもんだと言わんばかりの笑顔である。

だが、そうなるのも無理はない。まさに自慢してもよいだけの戦績なのだから。


(正直、この依頼で彼等のうち誰かは死ぬと思っていた。が、全員無事に戻って来るとは……)

表面に出した驚きよりも、イラーサは内心でより大きな衝撃を受けていた。

アンデッドの軍勢だけならともかく、その主であるゴースト・ヒョウリンマールは犠牲なしで倒せる相手ではないと践んでおり、その犠牲になるのはおそらくユウゴかフェルリアだろうと予想していた。

だが、戻って来てみれば誰も怪我らしい怪我も負っていない。

それどころか、ヒョウリンマールの後をつけ回していた魔物の群れまで討伐してきたというのだから、まさに開いた口が塞がらないというものだ。


「ところで、そちらのお嬢さんは?」

胸の内を隠しながら、イラーサはヒサメ達が出発する前にはいなかった、見慣れぬ顔について問いかける。

「はい! (わたくし)は、ヒサメ姉様の妹でマールと申しますです!」

元気よく答えた少女の言葉に、ギルドマスターは「ほぅ……」と少し驚いたような声を漏らす。

「ちょうど師匠と戦う前に、たまたま合流しましてね。この子も戦力として申し分ないので、手伝ってもらいました」

姉の言葉に、誇らしげな笑みを浮かべるマールという少女。

ヒサメの妹とらしいその少女は、確かに彼女とよく似ていた。

まだ十代前半くらいにしか見えないが、『特級』持ちのヒサメが戦力になると判断したのだから、見た目では計れぬ実力があるのだろう。


「そうですか、私はこの【ギルド】本部を治めるギルドマスターのイラーサ・オランサンです。よろしくお願いします、マールさん」

「こちらこそ、よろしくお願いしますです!」

挨拶をしながら、二人は握手を交わす。

「この子は少し、大人びた事に憧れていまして。妙な事を言っても気にしないでください」

肩をすくめてから、ヒサメがこっそりと小声で伝えてきた。

「ハハハ、このくらいの年頃なら憧れた大人の真似をしたがるものでしょう」

イラーサにも覚えがある。さしずめ、マールは姉であるヒサメに憧れて、大人っぽくあろうとしているのだろう。


「さて、本題だ。依頼を果たしたんだから、フェルリアを正式に【ギルド】メンバーとして扱ってもらえるんだよな?」

社交辞令的な挨拶を済ませたタイミングで、ユウゴが話題を変える。

「ええ、もちろんです」

正直な所、フェルリアが死んでいてくれれば面倒がなくて良かったとは思う。だが、戻って来た以上は約束を守るつもりだ。

「それと、こちらの裁量でチームのメンバーを引き入れる事ができるっていうのも……」

「はい、構いません……って、もしかして」

「ああ、マールを俺達のチームに入れようと思う」

この場に彼女を連れてきた時点で、ひょっとしたらとは思っていたが、まさか本当に提案してくるとは。

少し困ったように、イラーサは苦笑した。


「確かに【ギルド】の規定からするとマールは若すぎます。しかし、実力は折り紙つきですよ」

聞けば、ヒョウリンマールとの戦いの後に、魔物の群れを殲滅したのは彼女だという。

「そ、そうなんですか。その若さで、末恐ろしいですね」

若すぎるという点を差し引いても、それだけの力があるなら、【ギルド】へ多大な貢献をしてくれるに違いない。

今後の事も考えれば、若い才能を取り込んでおけるチャンスとも言えた。

「わかりました。特例ということで、マールさんの加入を認めましょう」

ギルドマスターの了承を得て、ユウゴ達は安堵の表情を浮かべる。

そしてギルドマスターも表には出さずにほくそ笑んでいた。


「さて、大変な依頼を遂行したので、さぞやお疲れでしょう。手続きはこちらで済ませておきますので、今日の所はゆっくりと休んでください」

イラーサからにこやかに提案され、ユウゴ達もそれに同意する。

「それではお手数ですが、また明日の昼頃にこちらへお出でください」

それまでに準備を整えておきますと、ギルドマスターの秘書は伝えながら、金貨の入った小袋を手渡してくる。

「些少ながら、本日の宿代はこちらでもたせていただきます。お疲れさまでした」

小袋を受け取り、わぁいと喜びの声をあげながらユウゴ達は部屋を後にしていった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


扉が閉められ、ユウゴ達が出ていった室内に残されたイラーサと秘書は、何かを示し会わせるように目配せをした。

「では、彼等のチームを『特級』に昇格させる手続きを頼みます」

「はい」

「それと例の件てすが、彼等で行こうと思っています」

「了解しました。そちらの方も準備をしておきます」

「うん、よろしくお願いしますね」

秘書はギルドマスターに一礼すると、音もなく別の扉から出ていった。

「ふぅ……」

一人になったイラーサは、ギシリと背もたれを軋ませながら深く椅子に体を預ける。

「【ギルド】、【教会】、【騎士団】……三つの組織による、合同作戦か……」

机の引き出しから、大まかな作戦要項の書かれた紙の束を取り出して、もう一度目を通す。

そこには【ギルド】の負担する最低条件として、『特級』のチームを参加させるべしと記されていた。

(……先の事を考えれば、『炎剣(かれら)』を出すわけにはいかない。成り立ての『特級』でも条件は満たしているから問題はないでしょう)

また、小さくため息を吐いて、イラーサは机の上に書類を放り投げた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


【ギルド】本部の建物から出たユウゴ達は、宿へと向かう道中で安堵のため息を漏らしていた。

「いやぁ、ヒョウリンマール(マール)の事を深く突っ込まれなくて良かったな」

「はい。内心ドキドキでした……」

マールは自らの胸を押さえて、ホッと息を吐く。

その仕草は可憐な美少女その物で、中身が嫉妬に狂った爺である事を知るユウゴ達からすれば違和感を感じずにはいられない。

「なんつーか、若干気持ち悪いな……」

「なんじゃ、やるからには徹底しとかんとマズイじゃろうが」

ポツリと漏らしたユウゴに、マールは素が出たのかドスの効いた口調で抗議した。

「やめないかマール。あと、ユウゴも早く慣れなさい」

「あ、ああ。すまん……」

「ごめんなさい、ヒサメ姉様……」

ヒサメに諌められ、ユウゴとマールは素直に詫びをいれた。

つい昨日までヒサメはヒョウリンマールの事を師匠として敬意を払っていたのに、マールとなってからはすっかりに妹扱いだ。

そんなヒサメの順応の早さに感心しつつ、今後もこのパーティでやっていくなら、言われた通り早く慣れるしかないなと、ユウゴは気持ち悪さを棚上げする努力をする事にした。


「それにしても、予想以上にすんなりマールの参入が認められたのう」

あまりにもあっさり話が進んだのが気になるのか、フェルリアが胡散臭げに呟く。

「確かにな……あのギルドマスター、なんか裏がありそうだし」

ユウゴもフェルリアに同意する。

「とはいえ、実績を積んでいけば『神人類』とかち合う機会は増えるだろうし、俺達の世界に帰る日が早くなるのも確かだ」

「ああ、私達の目的を遂げるチャンスは多い方がいい。今回の依頼解決の名声も役に立つだろう」

ヒサメとユウゴは故郷への帰還の可能性が高まった事を実感し、フェルリアとマールは異世界への想いを馳せる。

「ふふ……ユウゴ達の世界か。楽しみじゃな」

「はい。『魂も引き裂く極寒の地獄』……とっても楽しみです!」

「ま、まぁ、目的はそれぞれだからな……」

クフフと含み笑いをしながら地獄に堕ちたいという、マールの言動に若干引きながら、ユウゴ達はこれからの予定について話し合う。


「しかし、そろそろ回復役が欲しい所だな」

「そうじゃのう、なんせ戦力として攻撃力だけは上がっておるが、守備や回復は今一つじゃしな」

未だ魔法薬(ポーション)だよりの現状に、ふむう……と考え込んで、ユウゴは顎をさする。

「つーか、氷雪魔法特化って辺りもバランス悪いよな」

ポツリと漏らしたその一言に、ヒサメとマールが反応した!

「やれやれ、氷雪魔法の万能性を知らないとは。これだから素人は……」

「まったくです。ユウゴ兄様の脳筋っぷりと、見識に甘さには困ったものです」

ちょっと呟いただけなのにそこまで言われ、さすがにユウゴもムッとする。

「そうは言っても氷雪って属性のひとつだろ? どこが万能なんだよ」

ユウゴは反論するも、雪女達は肩をすくめてため息を吐く。

「いいかい、氷雪魔法は炎系を防ぐ事ができるし、水魔法を封じ込められる。大地を凍らせれば土魔法も阻害できるんだ」

「それに夏場は涼を取れますし、食材の冷凍・冷蔵ができます。さらに氷を販売すれば一財産を築けますし、高い冷気耐性は冬場でも普段通りのパフォーマンスを発揮できますです!」

「他にも……」

「それから……」

そうして小一時間ほど怒濤のような氷雪魔法讃歌を聞かされ、ユウゴは大いに後悔し、フェルリアは迂闊に地雷を踏まぬよう心に刻むのであった。


「さて……とりあえず、素材屋に預けてきた冷凍魔物の査定も終わっているだろうし、そっちに行ってみようこ」

ようやくユウゴを解放し、街中の大時計で時間を確認したヒサメが皆を促す。

「んじゃ、そこで得た資金でもってパーっとやるか!」

「そうだね。宿代も浮いたし、マールの歓迎と打ち上げ、あとは景気づけの意味を込めて存分にやろう」

おーっ!と元気のよい声があがる。

彼等はわいわいと盛り上がりながら、王都の雑踏の中へと紛れていく。

これから、さらなる大変な事件に巻き込まれる運命を、今は知らないままに……。

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