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22 妖怪転生

『答えは決まっておる。儂はその方法を受け入れるぞ!』

全く躊躇する事なく、ヒョウリンマールはヒサメの提案を飲む事を受諾した。

「……わかりました。それでは……」

師の意思が固い事を確認したヒサメが、胸の前で両手を構えると、その間に小さな雪の塊が生まれる。

その雪玉に更なる冷気を送り込み、みるみる育って行ったそれは、やがて子供の大きさほどの雪だるまとなって、ちょこんとその姿を現した。

「さあ、師匠。この雪だるまの中に入ってください」

『う、うむ……』

すでに死んでいる身とはいえ、やはり人ならざる者になるのは緊張するのか。

それとも雪だるまに入れと言われたアホな状況に戸惑っているのか。だが、それでもヒョウリンマールはソッと雪だるまに近づく。

そうして亡霊が雪だるまに触れた瞬間、まるで吸い込まれるようにしてその姿が消えていってしまった!


「消えた!?」

「いや、この雪だるまの中に入ったんだ」

驚くフェルリアに、ヒサメは静かに説明する。

「この雪だるまは、言わば蛹だね。師匠の魂は、この中で生まれ変わるんだ」

その説明を聞いて、ユウゴがポンと手を打った。

「ああ、雪ん子か!」

「そういうこと」

別世界の住人達が納得しているそばで、こちらの世界の住人であるフェルリアが頭の上に「?」を浮かべている。

「あー、つまりな。ヒサメの種族である『雪女』っていうのは、自分の妖気で作った雪人形に人間の魂を込めて自分の眷族を増やす事があるんだ」

ユウゴの言うとおり、一説によればそうやって増えた雪女と雪ん子は、時として家族のように振る舞う事もあるらしい。


「じゃが、ちょっと待て……つまり雪女とやらは、男女の営みをせんということか?」

「いや、するよ?めっちゃする!」

唐突に疑問をぶちこんできたフェルリアに、思わずヒサメが反射的に返してしまう。

「いや、こういう方法で種を増やすのならば、性交渉は必要無いのかと……」

「これはあくまで『妖怪・雪女族』としての増えかたね。でも、普通に人間の姿になってから、別種族と子供を成す事もあるから」

「ほほう、という事は……」

探究心が刺激されたのか、変な方向に向かって二人の話は進んでいく。

アホな下ネタならば適当に相槌をうつ所だが、子供を成す事云々ついて女性が真面目に考察しているのを、茶化す訳にはいかない。

何となく居心地が悪いユウゴは、話題を変えるために、ヒョウリンマールの魂が入った雪だるまについて問いかけた。


「ところで、ヒョウリンマールはどれくらいで雪ん子転生を遂げるんだ?」

「ん? そうだね……師匠の魔力が妖怪の体に定着するまで早くて……」

そう言いかけた矢先に、ビシリと雪だるまにヒビが入る!

「おや? ずいぶん早い」

ビックリだなどと呟いてはいるが、本気で驚いているのか解らないヒサメをよそに、雪だるまのヒビは縦に大きく走った!

やがて真っ二つになったソレから、小さな人影が転がり出てくる。

「っ!?」

予想外のものが出現した驚きに、ヒサメ以外(・・・・・)が呆気とられてしまった。

雪だるまから出てきたのは、老人の亡霊とは似ても似つかぬ可憐な美少女!

その少女は、ヒサメをまんま幼くしたような外見をしており、妹か娘と言っても通じるほどよく似ていた。

まだ意識がはっきりしないのか、ぼんやりとした表情で座り込んでいる姿も、見る者が見ればその愛らしさに感嘆のため息を漏らすだろう。


「お、おい……じいさん?」

恐る恐るユウゴが声をかけると、ヒョウリンマール(?)は顔を上げ、ハッとした顔で返事をしてきた。

「おお、若僧! 儂はうまく転生できたのかの?」

思った以上に可愛らしい声で呼びかけられて、少しだけユウゴは身を引いた。

「……ま、まぁ、外見だけなら完全に別人だぞ」

「ほほぅ、どれどれ……」

うきうきしながらヒョウリンマールは、魔法で鏡のような氷の板を作り出す。

そして、それを覗きこんだ瞬間、氷像のように固まった。


「なんじゃ、こりゃあぁぁぁぁ!」


絶叫をあげ、信じられない物を見るかのように、鏡に写る自分を凝視する!

「こ、この姿はいったい……」

「ですから、師匠の人格の一部を失うかもしれないと、説明したじゃありませんか」

「人格じゃのうて、無くしたのはチ○コではないか! 男をやめる事になるのは、ちょっと予想外なんじゃけど!」

ヒサメの言葉に愕然とするヒョウリンマールを励ますように、ユウゴはわざと明るい口調で話しかける。

「ま、まぁ……幽霊ん時とは違って、可愛いい姿になって良かったじゃねぇか。俺達が元いた世界じゃ、そんな美少女に成りたいって奴は山ほどいたんだぞ?」

「一部の特異な思考の持ち主達を、一般的に語るのはどうかと思うが……」

「バ、バカ! ちょっと黙って……」

「儂は……そんな特殊な趣味の人間に見られていたのか……」

項垂れるヒョウリンマールが悲しげに呟く。

同じ男として、グッバイ・キン○マしてしまった哀しみに溢れる背中を前に、ユウゴはそれ以上なにも言うことができなかった。


「おい、オヌシら! いい加減、いつまでヒョウリンマールを素っ裸にしておくつもりじゃ!」

少し落ち着いたタイミングを見計らって、フェルリアが予備のマントをヒョウリンマールにかけてやる。

「まぁ、気の毒だとは思うが、そうなってしまったからには、気持ちを切り替え……」

落ち込む中身は爺な美少女に声をかけていたフェルリアだったが、突然弾かれたように顔を上げ、周囲を見回すした。

「どうした?」

「何かがこちらに近付いて来ておる……おそらく、大量の魔物の群れじゃ……」

「なにっ!」

ユウゴも即座に警戒体勢となり、周辺の気配を探る。

しかし、鋭敏なエルフの感覚には一歩及ばず、それらしい敵意は感じられなかった。


日も落ちた周辺は、夜の闇がだいぶ濃くなっている。

それに加えて、ヒサメとヒョウリンマールの戦いで辺りを凍らせていた氷が溶け始め、濃密な(もや)となって立ちこめており、視界はかなり悪いものとなっていた。

「そろそろ見えて来るぞ」

深い靄の方を睨みながらフェルリアが呟くと、それに答えるように、いくつかの赤い光がユウゴ達の視線の先で灯り始める。

それは闇夜を見通す魔物達の瞳。次々と灯るその光が、いつしか彼等を取り囲んでいた。


「ちっ! こいつら、一体なんなんだ!?」

「……おそらく、儂の後についてきた連中じゃろう」

舌打ちしたユウゴに答えたのは、ゆらりと立ち上がったヒョウリンマールだ。

「儂が村や町を滅ぼした時、逃げた住民や倉庫などに蓄えてあった食糧を喰らって味を占めたんじゃな……」

つまりは小判鮫のように、おこぼれにあずかりながら着いてきた連中である。

「加えて、目の前のソレ(・・)じゃ。やつらも我慢ができんのじゃろう」

そう言いながら彼(女)が指差したのは、先程ユウゴがバラバラにし、山と積まれたフロストゾンビの残骸だ。

凍っていたことで鮮度が保たれていたそれらは、魔物にとってはご馳走の山なのだろう。

「本来なら補食の関係にある連中まで、一緒になって着いてきていたからのぅ……よほど人間の肉は好みだったとみえる」

いつもならば、ヒョウリンマール達が居なくなってから活動するはずの奴等が今現れたという事は、どうやら彼が敗北、もしくは居なくなった事を悟って最後の晩餐を楽しみに来たといった所だろうか。


「ちょうどよいわ……儂にやらせてくれ」

無数の血に飢えた視線が向けられる中、ヒョウリンマールが一歩踏み出す。

「おい、大丈夫なのかっ!」

慌てるユウゴに、ヒサメが彼を止める。

「なぁに、この体の調子を試すだけよ……」

そう言うが早いか、ヒョウリンマールから噴き出した凍気が、彼(女)の銀色の髪を逆立て巻き上げた!

それと同時に周辺を漂っていた靄も吹き飛ばされ、追撃者達の姿を顕にする。


「こりゃ、また……バラエティー豊富な……」

ユウゴが言葉を失うのも無理はない。

ゴブリンがいた。豚顔鬼(オーク)がいた。人食い鬼(オーガ)がいた。

さらには巨大な狼や二つ頭の魔犬、巨大昆虫などがズラリと勢揃いである。

確かに本来ならゴブリン辺りが真っ先に食い殺されそうな物だが、魔物達の視線はフロストゾンビの残骸にジッと注がれており、それ以外は眼中に無さそうだ。

だが、涎をたらしながら肉に群がろうとする魔物達の前に、ヒョウリンマールが立ちふさがる。

「おっと、飯にありつく前に付き合ってもらうぞ? 儂の慣らしと……八つ当たりになぁ!」

叫びと共に、魔物の群れに向かって放たれた氷雪魔法が大爆発を起こす!

それを合図として、ヒョウリンマールと魔物の群れの戦いが始まった!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……しかし、すげぇなあのじいさん。生まれたての雪ん子だっていうのに、でたらめな強さだ」

呆れるユウゴのとなりで、ヒサメは鼻高々に「そうだろう、そうだろう」と頷いた。

「なんせ、今の私は雪女の能力を統合し、地獄の一部すら召喚できるようになった、いわば『超ヒサメさん』だからね!」

そんな私の力を分けられた『雪ん子』が弱いはずがないよと、嘯くヒサメを置いといて、ユウゴは大暴れするヒョウリンマールの姿を目で追った。


(しかし、本当にすごいな……)

悲しみの涙を流しながらも、ヤケクソ気味に大笑いして魔物を蹂躙していく雪ん子(ヒョウリンマール)に、そのベースとなった雪女(ヒサメ)

(この世界に来てから、チート能力は無いなんて聞いてたけど……)

ユウゴは自分の中にみなぎる力を確かめるように、拳を握る。そして……

(俺達の存在こそ、チートその物なんじゃねぇかな……)

反則級の力を手に入れていた事を改めて自覚して、複雑な気持ちを抱えたまま、自嘲気味に笑った。

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