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17 王都のギルドマスター

「その死霊が、師匠だという証拠は……?」

ヒサメの言葉に、支部長は頷く。

「その死霊が使用した魔法が『凍れる世界を呼ぶ声(フリージアヴォイス)』。これは確か、ヒョウリンマール氏が開発した魔法だったはずだ」

その魔法の名を聞いたヒサメは、軽く唇を噛んで視線を床に落とした。

「私も名を知るだけで見たことはないが、噂に聞くその魔法ならば、町のひとつを凍らせるのも可能なのだろう?」

「ええ……そして、そこに住む全ての命を凍らせる事も」

ヒョウリンマールに師事していたヒサメの証言を聞き、ならばもう間違いはあるまいと、支部長は深く息を吐き出した。


「……とにかく、私達は王都に向かいます。フェルリアを【ギルド】に認めさせるだけでなく、師匠の件も確かめなければいけません」

重苦しい空気に沈む応接室の沈黙を振り払うように、ヒサメが宣言する。

「ああ。万が一、君達が失敗した時には『炎剣』に任せるしかあるまい」

この【ギルド】支部で最強のチーム名を出されたヒサメは、なんとも嫌そうな顔になった。

おそらく、ヒサメと『炎剣』のフォルノはウマが合わないのを見越し、ハッパをかけたのだろう。

この支部長、なかなかやるなと感心していたユウゴ達に、まんまと乗せられたヒサメが立ち上がって声をかける。

「さぁ、善は急げだ!あの熱血バカ達に介入されないように、急いでこの依頼を終わらせよう!」

気合いの入るヒサメに首根っこを捕まれ、ユウゴとフェルリアはズルズルと引きずられながら応接室を後にした。


普段なら乗り合い馬車等を利用するのだが、急を要する今回は空荷の馬車を見つけて、超特急で王都へ向かう。

四日ほどの道のりを半分の二日に短縮し、夕方近くに王都へと到着したユウゴ達は……とある食堂で飯を食べていた。


「……………おい」

なにやら困惑しきったフェルリアの声に、どうしたといった感じでユウゴ達が顔を向ける。

「なんでワシらは飯を食べておるのだ?」

もっともな疑問ではあるが、ユウゴとヒサメは肩をすくめた。

「腹が減っては戦はできぬっていうだろ?」

「それに【ギルド】本部に行けば、即座に駆り出されるだろうから、まともな食事などできなくなるよ。今のうちに食べておかなきゃ」

「あと、せっかく都会に来たんだから、美味い飯を食べたい」

「うん。いつもの食堂の料理もいいけど、たまに遠くに来たのだから田舎では味わえない物を堪能したいね」

手を止める事無くフェルリアに答えた二人は、なにやら雑談を交わす。


「んー、あれだな。異世界だからマヨネーズ無双ができるかと思ったけど、似たような調味料はあるもんだな」

サラダをパクつきながらユウゴが呟いた。

「どの世界でも、食に関する探求は尽きることがないからね。文化は違えど、いずれ似たような物にたどり着いてもおかしくはないさ」

「どこの世界でも人間は食いしん坊ってことか……」

「そのおかげで美味しい料理が食べられるのだから、ありがたいね」

「違いない」

よくわからない事を話し合いながら、ユウゴとヒサメは次々と料理を口に運ぶ。


格上の敵と戦うという大仕事を控え、普通なら緊張でほとんど食事など喉を通らないだろうに、この二人の余裕はなんなのだろう……? もしかしたら、何も考えていないだけかもしれないが。

「おい、フェルリアも食えよ。美味いぞ、この猪肉と野菜の甘辛炒めに、骨付き鳥肉の甘酢煮!」

「こっちの魚介たっぷりのスープと、魚の香草焼きも絶品だよ」

二人に進められた料理が鼻腔をくすぐり、フェルリアの胃を刺激する。

なんだか自分だけ緊張しているのがバカらしくなった彼女は、なかば開き直ってユウゴ達と共に料理に挑んでいった。


その後、いつの間にか酒も入った三人は、なんだかもう今日は面倒だから、【ギルド】は明日にしようぜ! といった流れとなり、予約しておいた宿に向かうまでどんちゃん騒ぎをするのであった……。


翌朝、少し早い時間にザクスン王国【ギルド】本部のドアをユウゴ達は潜る。

時間も時間だけに、まばらにしか人のいない事務所で受付で用件を告げると、即座に最高責任者……ギルドマスターの元へと通された。

支部の応接室よりも広く整然としたその部屋で迎えてくれたのは、支部長よりも少し歳上といった雰囲気を持つ初老の紳士だった。

「ようこそ、【ギルド】本部へ。私がギルドマスターのイラーサ・オランサンと申します」

丁寧な物腰で頭を下げるイラーサに、ユウゴ達も慌てて会釈をして返す。

「よく来てくれました、『氷雪の女王』ヒサメさん。そして彼女のチームメイト、『豪腕』のユウゴさんに『銀狼』のフェルリアさん」

おっと、フェルリアさんはまだ仮でしたねと朗らかに笑い、うっかりしていたと、ギルドマスターは頭をポンと叩いた。

だが、そのおどけた口調や人当たりの良さそうな表情の裏には、初対面だが君達の事は知っているぞといったニュアンスが含まれている。


「しかし、昨日は王都に到着してからすぐに会えると思っていましたが……まさか最初に酒宴とは、いやはや豪気ですな」

「……事が事ですから、まずは英気を養っていました」

「ええ、そうでしょう。そういった細心の注意を払いつつ、剛胆な振る舞いはが似合うのは英雄ならではですな」

頼もしい限りだと(うそぶ)いてはいるが、イラーサは昨夜のユウゴ達の動きについても匂わす事で、彼の目と耳(・・・)が優秀であることを、暗に告げていた。

(なるほど、さすがは組織のトップ。よく知恵の回る狸だな)

見た目の印象に惑わされぬよう、ユウゴは静かにイラーサを観察する。


「さて、支部の方で詳細は聞いているだろうから、さっそくだが本題に入らせてもらいましょう」

言いながら、初老のギルドマスターが一枚の地図を開く。

「これは王都を中心とした近隣の地図、そしてこの印のある場所が、問題の死霊に襲われた町や村になります」

彼が指差した場所には、いくつかの×印がついていた。

「すでに四つの町村が壊滅状態であり、人的被害もかなりの数に登っている……はやく決着をつけねばなりません」

そんな彼の呟きに、ヒサメがちょいと手を挙げる。

「一応、聞いておきますが、今回【騎士団】や【教会】の介入は無いのですか?」

ヒサメの口から出た組織の名に、ユウゴは以前、彼女から聞いていた、この世界の一般常識を思い出す。


この世界、どの国にも共通して三つの大勢力が存在する。

王家直属であり、国家の戦闘集団【騎士団】。

貴族と関わりが深く、宗教的行事や医療関係を執り行う【教会】。

そして、民間の何でも屋【ギルド】である。

基本的にこの三つの組織は、必要以上の干渉はし合わないというのか暗黙のルールだ。

だが、どうしてもそれぞれの組織に近い権力者の思惑が絡んでくる事は避けられない。

また、民間である【ギルド】もその性質上、傭兵部は【騎士団】と、探索部は【教会】と懇意にしている。

しかし、この二つの組織は政治的に折り合いが悪いことが多く、有事以外では犬猿の仲であった。


王都近くで起こっている今回の死霊騒動は、ある意味で国難とも言える。

それゆえ、これらの組織が介入してきてもおかしくはないのだが……イラーサの答えはNOであった。

「正確に言えば、両者の介入はすでにあったのです。しかし討伐には失敗し、小さくない犠牲が出てからは及び腰になってしまいました」

【騎士団】はともかく、悪霊・死霊の相手に馴れている【教会】まで手も足も出ない現状に、ユウゴ達は少しだけ驚いた。

【教会】が弱いのか、死霊が強いのかはわからないが、件の相手は思ったより強敵だと考えた方がいいだろう。


「【ギルド】からもいくつかのチームが全滅する被害が出ています。どうか、君達の力であの死霊……ヒョウリンマール氏を止めてもらいたい」

硬い表情で頼むイラーサに、ヒサメは任せてほしいと力強く頷いた。

「理由はわかりませんが、暴走する師を止めるのも弟子の勤め。私達が(・・・)がなんとかしてみせます!」

「私達」を強調し、だからこっちの要求も解ってるよね? と無言で迫る。

それに対して心得ていると答えると、イラーサは頷き返した。

「この依頼が成功した暁には、そちらのフェルリアさんを当【ギルド】のメンバーとして認めましょう」

ギルドマスターの言質を取り、ユウゴ達に気合いが入る。


「ではヒサメさん、そして仲間の皆さん。死霊ヒョウリンマール氏、及び……」

「及び?」

なぜか標的の後に続くイラーサの言葉に、ユウゴ達は首をかしげる。

「ええ、彼の率いるアンデッド軍団(・・・・・・・)の討伐をお願いします」

アンデッド軍団。

そのイラーサの言葉に、


「「「討伐対象、増えてるー!」」」


ユウゴ達三人のきれいにハモった叫びが部屋の中でこだました。

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