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16 【ギルド】本部からの依頼

「うんうん、良い出来映えだね」

装備を整えると宣言してから三日後。

ヒサメが準備した魔物の素材に加え、割増料金を払ってまで急ピッチで仕上げた新装備で身を包む二人を眺め、彼女は御満悦だった。

「んもぅ、いっつも良質な素材を卸してくれるヒサメちゃんのお願いだから今回は受けたけど、次はないわよっ!」

ご機嫌なヒサメに対して、ぷんぷんと怒ったような話し方で、ある人物が釘を刺す。


武器と防具の店『戦士の花園』の店長であり、ドワーフ鍛冶師であるラーダッタ。

それが彼女……いや、彼の名だ。

ヒサメと同等くらいの身長であるラーダッタの外見は、見事なスキンヘッドに、これまた見事な鋼の筋肉を登載した、ガチガチに武骨な職人そのものである。

しかし彼の口調をはじめ、薄化粧を施した顔に、体をくねらせる仕種は外見とは全くの正反対だ。


「いや、すまなかったね。余った素材はこちらに割安で卸すから、それで勘弁してほしいわ」

「あら嬉しい!ほんと、ヒサメちゃんったら、そういう所は男前だわぁ」

普段なら、なかなか手に入らない魔物の素材が入手できて、機嫌を直したラーダッタは、従業員達に指示を出していく。

「とりあえず、買い取りの素材分、武具の代金を割り引いとくわね♪」

「ええ。で、急だったけど、二人用に作ってもらった武具の出来栄えは?」

「もっちろん! アタシの作る物はいつでも百点よ!」

そんな「オカマは強キャラ、もしくは達人」を地でいくラーダッタの武具を身に付たユウゴ達は、それぞれの感想を口にする。


「はぁ……なんかファンタジーって感じがする……」

うっとりと自身の防具を眺めて、ユウゴは呟いた。

ドラゴンをはじめ、様々な魔物の皮や鱗から作られたハードレザーの軽鎧は、通常の金属鎧よりも防御力に優れ、軽さと動きやすさに至っては雲泥の差だ。何よりこう、中二病を刺激する。

「これなら、格闘技も使いやすそうだな」

具合を試すようにシャドーをしてみたユウゴは、満足気に頷いた。

「武器の方はどうかな?」

「ああ、こっちもいい感じだ!」

彼の両手に握られた、二振りのハンドアクスはドラゴンの牙から削り出された逸品であり、しっくりと手に馴染む。

見た目によらず、並の戦士ならばもて余すほどの重さはあるが、怪力を誇る牛鬼(ユウゴ)にはちょうど良い。

「……ユウゴちゃんは見た目が少し惜しいけど、強そうで良いわね。そういう質実剛健そうな男の人って好きよ♥」

投げキッスをしてくるラーダッタに、そりゃどーも……と、軽く返して、ユウゴは斧を腰に下げたホルダーにしまった。


「ヒ、ヒサメ……少しよいか?」

興奮しているユウゴとは裏腹に、なにやら戸惑い気味なフェルリアが、ヒサメの服を引っ張る。

彼女もまた、魔物の素材で作られたハードレザーの軽鎧で武装していた。

ユウゴの物に比べると、何処と無く曲線の多い女性的な作りをしており、ある意味ペアルックと言える仕様に、そう仕向けたヒサメも仕上げたラーダッタも自信を持っている。

さらに、専用武器を既に持っている彼女のためにと、予備の武器としてワイバーンの毒針を加工した刺突短剣(ショートピック)を用意していた。


「んん? 何か気に入らない所でもあったかな?」

「い、いや……装備の方には問題はないのだが……その、下着が……」

「ああ、特別にセクシーな下着を用意させてもらったよ」

「んふ、アタシの自信作よ」

フェルリアに身に付けさせたのは、竜の皮膜などから作った、デザイン性に優れながらも頑丈な下着である。

良い仕事をしたとばかりに広言するヒサメとラーダッタの口を、フェルリアは隻腕ながら器用に塞いだ。


「お、大声で言うでないわっ!」

「モゴ……ぷはっ! いいえ! 断然、言わせてもらうわ!」

フェルリアの手を振りほどき、ヒサメは握りこぶしを作って力説する!

「だいたい、それなりの歳の女が、サラシにフンドシみたいな布を巻いただけっていうのがおかしい! 今まではそれで良かったかも知れないけれど、私達と共に行くなら身だしなみにも気をつけてもらわなくては!」

「それに戦士でも女の子なんだから、見えない所でもオシャレを忘れちゃダメよ!」

まぁそのうち、誰かさんには見せるかもだけど……と、二人は含み笑いをしてみせた。


「オヌシらの言い分はわかっているのだが……」

「フェルリア……私は君とユウゴの仲を応援しているの。今回の下着はその一環」

「お、応援!?」

慣れない下着の感触もそうだが、ヒサメの言葉にも戸惑っているフェルリアの両肩を、彼女はガッチリと掴んだ。

「とりあえず、下着の有用性というものを知りなさい。一見、動きづらくなりそうなその下着が、男を落とす武器になるのだから」

「武器……」

その一言に、フェルリアの瞳が輝いたのを、ヒサメは見逃さない!


「いいかい、フェルリア。男は視覚的要素から興奮を覚える物なの」

だからこそ、武骨な鎧の下のセクシーな下着というギャップが刺さるのだと、ヒサメは力説する。

ついでにラーダッタも何かを言おうとしたが、従業員に呼ばれて渋々席をはずしていった。

「……確かにワシはそういう事には疎いが、本当にそうなのか?」

「長年男を魅了してきた妖怪『雪女』の名にかけて!」

一応、店の者には聞こえないように小声で、しかし力強くヒサメは囁いた。

相変わらず言葉の意味はよくわからないが、とにかくすごい自信を彼女の言葉から感じて、フェルリアは反論もできない。

だが、やはり内心には「年甲斐もなく気恥ずかしい」といった感情があるようだった。


「しかしなぁ……ワシ、百七十歳にもなってなぁ……」

「おや? フェルリアは私とほとんど同い年なんだね」

エルフの呟きに、当たり前のような顔で返してきた妖怪に、フェルリアはギョッとする。

「話し方が年寄りくさいから、もっと歳上かと思った」

「つーか、俺の半分ぐらいしか生きてない娘さんだったんだな」

いつのまにか話に加わってきたユウゴの言葉に、またもフェルリアは驚愕した。

「娘さんて……というか、ワシの倍以上?」

今まではそんな風に言われた事も無く、また、そんなにも歳の差があった事に、フェルリアはなんと返して良いのかわからず、アワアワと言葉を無くす。


「というか、女同士の秘密の会話に、殿方が突然入って来るのは不粋というものだよ」

これだからおっさんは……と、ヒサメに指摘されて、怯んだユウゴはすごすごと下がっていく。

「……まぁ、あんな感じで、はっきり言葉や態度で示さないとわからない奴だから」

「遠回しな態度は無駄ということか……ふふ、ワシの倍は生きていても、そういった所はかわいい物じゃな」

ヒサメがド直球とも言える扇情的な下着を用意してくれた意味を理解し、フェルリアはフン!と鼻息も荒く気合いを入れ直す。

意外な歳の差にも引く気は無さそうな彼女に、ヒサメは優しげな笑みを向けていた。


その後、従業員との話を済ませてきたラーダッタと支払いの打ち合わせをし、店を後にして宿への帰路につく。

「メンテナンスはしてあげるから、いつでも顔を出してねぇ!」

見送ってくれたラーダッタに手を振り、宿へと向かう。

「……なかなか気持ちの良い連中じゃったな」

エルフであるフェルリアにも親切にしてくれた、店の者達を思い出して彼女は呟く。

「そうだな。願わくば、俺達の目的を達した後も元気にやってもらいたいもんだ」

ユウゴ達の狙いが遂行されれば、その後に訪れるのは混沌である。

そんな彼等の苦難をわずかに憂いている二人に対し、ヒサメだけは心配無いよと断言する。

「むしろ、魔族が群れをなして来たら、珍しい素材が選り取りみどりで喜ぶかも知れない」

その言葉で、頑強な女言葉の職人が倒した魔物の山の上で高笑いする絵面が浮かぶ。

確かにありそうだと吹き出して、いつの間にか足取りも軽くなったユウゴ達は、夕暮れの町を雑談しながら進んでいった。


そんな風に装備を整え、気合いも新たにした彼等の元に、王都にある【ギルド】本部から連絡があったと報せが入ったのは、さらに二日が経過しての事だった。

いよいよ判明する試練の内容を知るべく、ユウゴ達は【ギルド】の支部へ向かう。

到着した彼等に対応してくれた受付嬢に案内され、二階にある応接室に入ると、そこには【ギルド】の支部長が待ち構えていた。


「ああ、よく来てくれた。まぁ、かけなさい」

五十絡みで、頭髪にもかなり白髪の混じる支部長ではあるが、その立ち振舞いには隙が無く、いかにも責任ある者といった雰囲気を纏っている。

彼の薦めに応じて、テーブルを挟んで対面のソファに腰かけたユウゴ達に、早速だがと前置きして、支部長は一枚の手紙を差し出した。

「それが今回、ヒサメ君の申し出を受けて本部が寄越してきた返答だ」

読んでみたまえと言われ、手紙を開いたヒサメは内容に目を通す。

「これは……」

「うむ。今、王都の方ではある問題が起こっているようなのだ」

支部長が重いため息を吐くのにふさわしく、手紙には厄介な内容が書かれていた。

「おい、一体何が書いてあるんだ?」

ユウゴに尋ねられ、ヒサメはその手紙の内容を語りだす。


曰く、現在、王都の周辺で凄まじい冷気を生み出す死霊系モンスターが現れて、猛威を奮っている。

既にいくつかの村や町が壊滅的な被害を受けており、その規模は拡大の一途を辿っているというのだ。

そのため、この死霊を討伐することをヒサメ達に対する試練とする……そういう風に内容は結ばれていた。


「冷気を操る死霊に対して、冷気を操るヒサメをぶつけるのか?」

ユウゴが首を傾げながら呟いた。

彼の常識……というか、ゲーム等の知識からすると、大概アンデッド系の魔物には冷気攻撃は効きづらい。

なおかつ、同系統の魔法を操る相手なら、ヒサメの冷気に対しても高い耐性を持っていてもおかしくないではないか。

しかし、そんな疑問を抱くユウゴとは対照的に、ヒサメもフェルリアも「ふむう……」と指を顎に当て、既に対策を練っているようだ。


(なぁ、こういう時って火とか聖なる光とが定石なんじゃないのか?)

隣のヒサメにこっそりと話しかけると、まぁそうなんだけれどね……と彼女は返してきた。

「でも、逆に考えれば、死霊(むこう)の冷気攻撃もこちらには効きづらいということだからね」

「それにワシの魔術弓(テルミステア)があれば、霊体にもダメージは与えられる」

「ああ、なるほど……」

言われてみればその通りだ。

相手がいかな冷気の使い手であれ、雪女という存在の複合体であるヒサメに防げない冷気を使えるとは思えない。

それなら一方的に攻撃手段のあるユウゴ達の方が有利ではないか。


一転して気楽なムードを醸し出しはじめたユウゴ達だったが、それを嗜めるように、支部長はある情報を彼等に伝えた。

「ヒサメ君……これは対応に当たり、辛うじて生き残った【ギルド】メンバーの証言なんだがね……」

名指しされ、キョトンとする彼女に、支部長は言葉を続ける。

「その証言によれば、彼の死霊は君の名を口にしていたと言うのだ」

「私の……名を?」

意外な言葉に、さすがのヒサメも驚いている。

「そう、その死霊の正体……それは、かつて世界一と謳われた『氷雪系最強魔術師ヒョウリンマール』氏、その人に間違いない!」

「なん……だと……」

失踪していた師との予想外過ぎる再会に、ヒサメは言葉を失った。

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