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13 新たな仲間ができました

「というかさ、なんで食料調達に行ってゴブリンなんかを?」

食べられないわよと忠告するヒサメに、食わねぇよとユウゴは返す。

「いや、森の奥で【ギルド】メンバーらしい死体が二つあってな。ゴブリン(こいつら)が身ぐるみ剥いでパーティー中だった所に、出くわしちまったんだ」

ゴブリンは二十匹前後いたらしく、ユウゴを新たな獲物と見据えて襲いかかってきた。

「まぁ、返り討ちにしたけど」

当然の事のようにユウゴは言う。

そうしてゴブリンを全滅させた後、比較的に損傷の少ない死骸を試しに拾ってきたということらしい。


なんで拾ってくるかな……と、困った子供を見る母親のような態度のヒサメに、ユウゴはこれまたガラクタを自慢する子供のごとく説明をする。

「いや、ゴブリンっていや異世界ファンタジーの中でも超メジャーじゃねぇか!そんなん、とりあえず色々調べたくなるだろう!?」

キラキラした瞳でユウゴは捲し立てるが、この世界の住人であるフェルリアや、ユウゴより先にこちらに来ていたヒサメにとっては珍しくも何ともない。

年齢を問わない、男の子特有の好奇心に突き動かされているユウゴの姿に、女二人は大きなため息をついた……。


「あ、そういやゴブリンどもがこんな物を持ってたんだが……」

そう言ってユウゴが取り出した物を見たフェルリアが、唐突に大きな声をあげる!

「テルミステア!」

誰? と不思議そうな顔をする二人に、フェルリアはその弓の名前だと説明した。

「弓? これが?」

ユウゴが拾ったそれは、どちらかというと弓よりも銃のような形体に近い。

クロスボウと言われればそんな気もするが、矢を装填する場所も弦もなく、銃口(?)付近には小振りの刃が付いていた。

「これは実物の矢ではなく、魔法で風や水を矢として射つ事ができる」

片腕のワシが扱うのに開発した魔法武器だと、フェルリアが少し自慢気に語る。


物珍しそうにテルミステアを見つめるユウゴに気をよくしたしたのか、彼女は試し射ちをしてみると言うと、辺りを見回した。

「そうじゃな……あの木の実を的にしよう」

彼等のいる場所から三十メートルほど離れた所に生っている、リンゴのような木の実に向かってフェルリアが武器を向ける。

「風!」

フェルリアの一言に、テルミステアから半透明の矢のような空気の塊が発射された!

それは本物の矢のごとく突き進み……標的に当たることなく、飛んでいってしまった。


「……………………」

「違うんじゃ!」

微妙な空気が流れる中、フェルリアは必死で弁解する!

「さ、先の戦いで、あの連中から毒の目潰しを受けたんじゃ! まだその影響で目が霞むから、そのせいで……」

「ちょっと待った! 毒の目潰し?」

怪訝そうな顔で口を挟んだヒサメに、フェルリアは頷いく。

「それは……まずいかもしれない。洗い流しても効果が消えないという事は、メイシツ草の毒? だとすれば、この後も視力が落ちていく可能性があるわね」

「な、何じゃと!」

「視力低下だけならまだいいけど、下手をすれば失明なんて事も……」

「ばかな……」

フェルリアの表情がみるみる曇っていく。が、無理もないだろう。

弓を主力武器とするエルフにとって、カバーする武器があるとはいえ隻腕というだけでも命取りであったハズだ。

そしてこの上失明まですれば、この厳しい世界ではどう足掻こうと死は免れない。

生き長らえるには、運が良くて好事家に愛玩動物として飼われくらいだろうか。

しかし、プライド高いエルフ……その中でも、一段階プライドが高い彼女(フェルリア)に、そんな生き方は不可能だ。

「なんという……ことじゃ……」

青ざめて、ガクリとへたり込みそうになるフェルリアをヒサメが支える。


「それは魔法とかで治したり出来ないのか?」

ユウゴのもっともな疑問に、ヒサメは難しい顔になった。

「もちろん、すぐに治療すればこれ以上の視力低下は防げると思う。だけど、肝心なその魔法を私は使えないし、解毒の魔法薬(ポーション)も手持ちに無いの……」

妖怪であるユウゴ達に、毒は通じない。それ故の失態である。

「人里まで丸一日以上はかかるし、その時間経過でどれくらい症状が悪化してしまうか……」

射手の命ともいえる視力が、ジリジリと減っていく。この状況に、フェルリアの心は折れそうになっていた。

だが!


「なら、俺がどうにかするしかないな」

事も無げにユウゴが言ってみせる。

その言葉に、まるで闇夜の月明かりを見たような心持ちで、フェルリアが顔を上げた。

「どうにかって……何か手はあるのかい?」

「ああ」

答えながら、ユウゴは上着を脱いで上半身のみ裸になった。

「ヒサメ、治療用の魔法薬(ポーション)ってまだ持ってたよな?」

「え? ああ、あるけれど……」

用意しておいてくれと頼み、ユウゴはナイフを抜く。

「俺の……というか、牛鬼の伝説に、その肝を溶かした水で目を洗ったら眼病が治ったって物がある」

福井県に伝わる昔ばなしの一つを語り、ユウゴは一気に自分の胴体にナイフを突き立てた!


「何をしているんじゃ!」

「だから、俺の肝で目を治せるか試すんだよ……。大丈夫だ、妖怪はこのぐらいじゃ死なねぇ」

慌てるフェルリアに、ユウゴは平然と返す。

「くっ……んん……」

クイクイとナイフを動かし、傷口を開いて抜き出したその刃の先に、小さな肉片が付着していた。

「これを……水で溶いて目を洗ってみろ」

ユウゴにナイフごと渡された肝の欠片を受け取り、フェルリアは泣きそうな、それでいて怒っているような微妙な表情になる。

「馬鹿者! そんな深傷を自ら負うことはないじゃろう!」

「おいおい、こちとら大妖怪の牛鬼さんだぞ!? この程度の傷、屁の突っ張りにもならねぇよ」

「言葉の意味はわからんが、無茶をしよって……」

そう言いながらも、小さく礼を言ってフェルリアは彼等に背を向けて、川の方へと歩いていった。


……彼女の姿が見えなくなった頃、ユウゴは脂汗を流しながらヒサメに魔法薬(ポーション)を要求する。

「いたい……超いたい……魔法薬(ポーション)、早く……」

「フェルリアの前では格好つけてたくせに……やっぱりやせ我慢だったわけだね」

「いや、格好つけた以上は、最後まで、な……」

これから一緒にやっていく仲間とはいえ、ある程度の上下関係は必要である。

ここでユウゴが頼れるリーダーであるとの認識を持ってもらえば、今後も色々とスムーズに行くだろう。

「それにしたって過剰演出と言うか……」

「いいから、はやく! ぽーしょんちょうだい! やくめでしょ!」

痛みのあまり幼児化したような口調で魔法薬(ポーション)を欲するユウゴの姿に、頼れるリーダー等という雰囲気はカケラもありはしなかった……。


「ユウゴ! オヌシの肝はすごいな!」

戻ってきたフェルリアの第一声がこれであった。

どうやら昔ばなしのとおり、牛鬼の肝は効いたらしく、彼女の瞳はキラキラと輝いている。

「ふふ、目が癒えたなら何よりだ」

「よかったね、フェルリア」

笑顔で答えてくれる二人に、フェルリアの顔も綻ぶ。

彼女がこんなにも穏やかな気持ちを抱けたのは、何年ぶりの事だろう。いや、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。

(今日はなんという日なのか……)

『生まれて初めて』な経験を何度も味わったこの日を、フェルリアは忘れる事はないだろう。

そして、彼女は決断をした。


「ユウゴ、ヒサメ……ヌシらはワシを仲間に引き入れたいと誘ってくれた。じゃが、ワシの方から頼む! ヌシらの仲間にしてくれ!」

ペコリと頭を下げてフェルリアは続ける。

「そして……厚かましいかもしれんが、事が成った後にはワシも異世界に連れていってほしい!」

顔をあげたフェルリアは、ユウゴの目をじっと見詰めた。

「こことは違う世界に……オヌシに付いていきたいのじゃ……」

同族からも疎まれ、人間からも忌み嫌われた彼女を綺麗だと言ってくれた……そして女として見てくれた初めての男。

文字通り、その身を削ってまでフェルリアの目を癒してくれたこの男に、彼女は自分でもコントロールできないほどの想いを抱いていた。

うっすらその心境を察していたヒサメからすれば、フェルリアの申し出は愛の告白にしか聞こえない。

ユウゴがどう返答するのか、ワクワクしながら見守っていると、彼は「ああ、よろしくな」とだけ答えて右手を差し出さしていた。

握手を交わし、満面の笑みを浮かべるフェルリアに対して、ユウゴの表情はちょっと機嫌が良さそうくらいにしか見えない。

そのあっさりし過ぎる態度に、彼が特に何も考えていない事をヒサメは悟っていた。


「ちょっと、安請け合いして大丈夫?」

小声でユウゴに問いかけると、もちろん大丈夫だと頷き返す。

「まぁ、ツテのある『隠れ里』はいくつかあるからな」

彼の答えに、ヒサメはあからさまにため息を吐いてみせた。

この男、フェルリアがユウゴに(・・・・)付いていきたい(・・・・・・・)と言った理由に全く気付いていない。

こんな男に惹かれる彼女も、なにかと苦労しそうだな……などと、エルフの未来を憂いて、ヒサメはもう一度ため息を吐いた。

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