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11 エルフ危機一髪

「おらっ! やっと捕まえたぞ!」

「ぐっ! 離せっ!」

とある森の一角に、数人の男とそれに逆らう女の声が響く!

「誰が逃がすか……よっと!」

一人が女の足を押さえつけ、もう一人は馬乗りになって下に組伏せた女の顔面を殴りつけた!

「がっ!」

「このっ! クソがっ! 手こずらせやがって!」

ゴッ、ゴッ! としばらくの間、殴り付ける音と女の短い苦鳴が、嫌な不協和音を奏でる。

ようやく大人しくなった女を見下ろしながら、殴っていた男は荒い息を吐いた。


「気持ちはわかるが、その辺にしておけ。生け捕りで引き渡した方が報奨金は高くなるからな」

「んな事はわかってるよ! だがなぁ、こっちはゴスとヌアーが殺られてるんだ!」

仲間の言葉に理解は示すが感情が納まらない。

殴っていた男は「くそエルフがっ!」と罵ると、女に唾を吐きかけた。


エルフ──。

男が言ったとおり、組伏せられている女は人間ではない。

一見すれば獣人のように見えるが、それらに見られる獣のような耳や尻尾は彼女にはついていなかった。

だが、薄汚れているとはいえ、銀色の毛並みに包まれた彼女の肢体は、美しい一匹の獣を思わせる。

その美獣がゼェゼェと苦しげな呼吸をしている姿に、馬乗りになっていた男は、少しだけ冷静になったようだった。


「手負いだからって優しくしてやろうかと思ってたら、調子に乗りやがって……」

男がチラリと彼女に視線を落とす。

その視線の先、組伏せられたエルフの女には左腕が無かった。

弓を持たせればかなりの強さを誇るエルフとはいえ、隻腕の女が相手ならば、彼等が甘く見るのも無理はない。

しかし、そんなポツリと呟いた男の言葉に、苦しげだったエルフの口元が笑みの形に歪む。


「かっ……ワシの……見てくれに油断した、ヌシらが間抜け……な、だけじゃろう……が」

見た目よりも老齢な口調のエルフに嘲られ、再び男の頭に血が登った!

「うるせぇ! このババアエルフがっ!」

またも男はエルフに殴りかかる!

「おい、もうよせ!」

数発殴りつけた所で仲間に止められるが、変わらず不敵な笑みを浮かべるエルフ。そんな彼女を憎々しげに見下ろしながらも、男はなぜかニヤリと笑った。

「そうだな……こういう奴には肉体的な痛みよりも、精神的な痛みの方が効くかもしれねぇ……」

言うなり、男はエルフの胸元の衣服を乱暴に千切り取った!

柔らかな毛に覆われた形の良い乳房が顕になり、初めてエルフの顔に驚愕の表情が現れる!


「なっ!?」

「ひゃはは! やっと良い顔してくれたじゃねぇか!」

慌てて胸を隠そうとするエルフの腕を、男は素早く押さえつけた!

「な、何をする気だ貴様!」

「何をするって、ナニをするんだよ! テメェみてえなくそ生意気なメスは、こうやって躾てやるのが一番だからな!」

「ふ、ふざけな! 離せっ、ケダモノが!」

「テメェの方がケダモノっぽいじゃねぇか!」

下卑た笑い声をあげながら、男はエルフの下腹部の衣服を剥ぎ取ろうとする。

「手伝ってやるから、さっさと済ませろ」

押さえつける役を代わった仲間に促され、男はエルフに見せつけるようにベルトの金具を外す。

「や、やめろ……やめろおぉぉぉ!」

怯えを含んだエルフの悲鳴が、森に木霊した!

その時!


十八禁行為(エッチなのはいけ)禁止項目(ないとおもいます)!」

雄叫びと同時に木陰から飛び出した影が、エルフを押さえていた男を強襲する!

勢いよく吹き飛ばされた男はそのまま一本の木に激突し、骨や肉の砕ける音と共に人だった物(・・・・・)へと成り果てた。

「……は?」

あまりにも唐突すぎて、エルフを犯そうとしていた男の理解が追い付かない。

「ミノタウ……ロス……?」

辛うじて出た言葉は、襲撃してきた魔物の事だけだった。


何故、こんな魔物が飛び込んで来たのかはわからない。

しかし、唸り声をあげながらこちらに顔を向けるミノタウロスに、男は下ろしかけたズボンを履き直すよりも脱ぎ捨てる事を選んだ!

一瞬の判断で、半端に履き直したズボンが戦闘中の邪魔になる可能性を排除した男の選択は正しい。

だが、男がミノタウロスに身構えるよりも先に、彼の下半身に激痛が走った!

「っ!」

「レディの前でいきなりフル○ンになるとは、マナー違反が過ぎるんじゃないかな?」

背後からかけられた女の声に、男は振り返ろうとした。だが、なぜか体から感覚が消え、じわじわと動かなくなっていく。

気がつけば、下半身の痛みも麻痺してしまっているようだ。

感じられるのは……全身が凍りつくような寒いという感覚のみ。


「な、にが……」

真冬でもないのに白い息を吐きながら、なんとか男は自分の背後に立つ者の姿を捉える。

そこには、銀の髪に青い肌の美しい妖精が、妖艶な笑みを湛えていた。

「凍りなさい」

妖精の呟きを聞いたのを最後に、男の意識と生命活動は終わりを迎える。

その姿はまるで、精巧な氷細工のようであった。


「……取り敢えず殺ったのは二人か。あと、何人いるんだっけ?」

「たしか『アニモーファックス』は五人のチームだったと思うんだけど……」

辛うじて意識を保っていたエルフの耳に、乱入してきた魔物達の会話が聞こえる。

こいつらは何者だろう。しかし、自分を襲ってきた奴等と敵対する連中のようだ。

そう判断したエルフは、残る力を振り絞って上体を持ち上げた。

「ワシが……すでに……二人……始末、してる……」

か細い声ではあったが、彼女の言葉は魔物達に届いたようだ。

じゃあ、あと一人か……という声を聞き、エルフは安堵の息を漏らした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


すでに二人倒していた事を告げて、がっくりと倒れ込んだエルフに、ユウゴはあわてて駆け寄る。

「おい、大丈夫……」

声をかけようとしたその時、森の中で赤く光る物が視界に入った。

咄嗟にエルフを庇って抱きかかえたユウゴの背中で、攻撃魔法の炎が爆発する!

「ってぇ! くそっ、またかよ!」

以前、顔面に食らった火球の魔法よりも強力な炎だったが、背中で受けた事と妖気によるガードが間に合ったおかげで酷いダメージは受けていない。

それでもかなり痛かった事には変わりなかった。

怒りに燃えるユウゴが森の方に目を凝らすと、舌打ちをする魔術師らしき女を発見する。


(あいつかっ!)

反撃のためにユウゴは立ち上がったが、敵に慌てた様子はない。

相手とはまだ距離が開いている事から、ユウゴが近づくよりも早く魔法を打ち込めると思っているのだろう。

「これでも食らいやがれ!」

ユウゴは駆け寄る事なく、立ち上がる際に拾った石ころを魔術師に向かって投げつける!

恐るべき牛鬼の膂力で放たれたそれは、砲弾のごとき威力をもって、着弾した魔術師の頭を吹き飛ばした!

「っしゃあ!」

ガッツポーズをとるユウゴを、エルフはただ驚きの表情で見つめていた。


「────ふぅ」

ユウゴ達からもらった魔法薬(ポーション)を飲み、ひとまず回復を果たしたエルフがため息を吐く。

そんなエルフの様子を見ながら、ユウゴとヒサメはひそひそと話し合っていた。

「ど、どうする……あの左腕はさすがに治らんよな?」

「き、傷は塞がると思うけど、腕が生えてきたりはしないと思うよ……」

「ワシが左腕を失ったのはだいぶ前の話じゃ。今さら気にしておらんから、心配せんでもいい」

一応、気を使ってはいたがエルフの聴力には筒抜けだったようで、そんな答えが返ってきた。

「お、おう。それならいいんだが……」

ポリポリと頭を掻きながら、ユウゴは改めてエルフを観察してみる。


確かに、耳が尖っている所と芸術品のように整った顔立ちは、彼の知っているエルフを思わせる。

だが、彼女の全身を覆う銀の毛並みは、一見するなら獣人その物だ。

「ふん……」

自分をジッと見つめてくるユウゴに対して、エルフは目を(こす)りながら睨み返す。

「……助けてくれた事には礼を言う。しかし、お主らは何者じゃ?」

彼女のもっともな問いかけに、しかし目の前の魔物達は顔を見合わせた。

「ど、どうする? なんて説明したら仲間に勧誘できる?」

「うーん、ここはストレートに目的を告げた方がいいんじゃないかな?」

仲間? 勧誘?

今まで自分に向けられた事のない単語。しかもそれを、魔物が言ってくる事にエルフは戸惑う。

そんな彼女にユウゴは正面から向き合うと、一礼して右手を差し出した。

「第一印象から決めてました! どうか『神人類』をぶっ殺すために力を貸してください!」

「はあぁぁ??」

突拍子もないユウゴのお誘いに、エルフは混乱した声をあげるのであった。

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