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10 仲間を求めて

「オイオイ、なんだかワクワクが止まらねぇな!」

エルフとドワーフの名を聞いて、少年のように興奮するユウゴを、落ち着きたまえとヒサメが諌めた。

「ちょっと質問なんだけど、エルフと聞いてどんな種族を思い浮かべる?」

そんなヒサメの問いかけに、ユウゴは頭に「?」を掲げながらも、思い付く単語をあげていく。


曰く……耳長、美男美女、森の住人、プライドが高い、弓の名手、水や風の魔法の使い手。

「そうだね、そこに『毛むくじゃら』が加わり……」

「ちょっと待て」

ユウゴがヒサメの言葉を遮る。

眉間に指を当てて、ふー……と一呼吸ついてから問い返す。

「何か今、明らかにおかしなワードを加えなかったか?」

「……『毛むくじゃら』?」

「それだよ!」

彼が想像したエルフ像に相応しくない単語に、思わずヒサメを指差す。

「なんだよ、『毛むくじゃら』って。エルフのイメージから一番遠いじゃねぇか」

「あー、ほら……某妖怪漫画の御大も、子供向け妖怪百科事典にそういうエルフ描いてたし……」

「……あのエルフに近いの?」

ユウゴの脳裏に、とあるイラストが浮かぶ。

それは暗い洞窟の中、毛むくじゃらで丸い形の怪しい生き物が、骨を掲げて不気味な笑みを浮かべているという物だ。

そうして、その解説文には『エルフ』と紹介されているのである。初めて見た時のインパクトは忘れられない。


「まぁ、あそこまで極端じゃないけど、どっちかと言えば見た目は獣人に近いかな」

「……なんで、そんな事に」

「この世界のエルフは極力、火を使わない事を是としているのよ。そうなると、冬の寒さに適応するため、体毛を蓄えるよう進化した……そう考えられているわね」

「ぬぅ……理には叶っている……」

なるほど、エルフが火を極力使わず自然の近く暮らすというのなら、そういった特徴になっていくのも理解できる。

空想した物とは違うが、異世界の住人ともなれば予想を大きく外すこともあるだろう。

むしろそんな外見なのに、彼の知るエルフとそこそこ共通点がある事の方が奇跡的と言っていい。


「ちなみに……ドワーフはどうなんだ?」

おそるおそる尋ねるユウゴに、ヒサメは「それも君が想像してるのとだいたい合ってる」と告げた。

「ただ、髭は伸ばして無いし、体毛も薄いけど」

「んんん……」

またもよく知るドワーフとの外見的特徴の違いに、ユウゴは腕組みして難しい顔をする。

「熱が篭りやすい鉱山や地下で暮らしてるから、体毛も薄くなったんだろうね」

言われてみれば確かにそうだ。

「ちなみにドワーフの女性は、ベリショな髪型、褐色の肌、ムチプリな体型から、略して『ベッカム』と私は呼んでるわ!」

どうでもいい情報をさらりと流して、ユウゴは考えをまとめる。

「そうか……こっちの世界のエルフやドワーフは、妖精というより生物としての面が強いんだな……」

ユウゴが知るファンタジーの住人達は、ある意味妖怪に近い存在だった。

それを基にした自分の常識が通じない所に、改めて異世界の奥深さを感じてユウゴは思わず「すごいな……」と呟いていた。


「で、話を戻すけど、これを見てほしい」

言いながら、ヒサメが宿のテーブルに地図を広げる。

「前にも見せたけど、これはこの大陸の地図だね。ご覧のとおり、東西南北に四つ、人間の王国がある」

私達がいるのは、北の王国ザクスンだと説明しながら、彼女がその名を記された場所を指差す。

「そして、エルフとドワーフが住むのは、大陸のほぼ中央に位置する、ギスハーブン大森林とガハサ大山脈」

ヒサメは、四つの国の国境が交わる辺りに広がる巨大な森と、同じく国境にまたがるように伸びる山脈を指した。


「エルフとドワーフの国は、何度となく人間の国と小競り合いを繰り返してる。大きな争いに発展しなかったのは、人間の国同士が互いに隙を窺っているからだろうね」

エルフの森やドワーフの鉱山は手に入れたい。

しかし、大規模な進行をして本国が手薄になれば、隣国に攻められてしまう。

そんな微妙なパワーバランスの上に、これらの国は成り立っているようだ。


「うーん、そういう事なら確かに人間とは戦うかもしれないな……。しかし、魔族に雇われてる俺達に協力してくれるものかな?」

『神人類』を殺し、人間の勢力が弱まるのは歓迎されるだろう。しかし、魔族の勢力が高まるとなれば、彼等からの協力が得られる可能性は低いと言わざるをえないだろう。

しかし、ヒサメは「チッチッチッ」と舌を鳴らしながら指を振って見せる。

「なぁに、エルフ全体の力を借りる必要はないのさ。要は、私達の目的に協力してくれる個人を見つければいい」

「あ、なるほど……」

人間ならば引き入れる事は絶対に不可能だが、エルフやドワーフなら個人的にユウゴ達に賛同する者もいるかもしれない。

そういった連中を勧誘し、パーティを強化すれば『炎剣』のような『神人類』パーティに対抗する事も可能だ。


「そして、私はすでに目ぼしいエルフの存在を見つけてあるのさ」

どーんと胸を張るヒサメに、ユウゴは素直に感心した。

「マジか!? すごいな!」

「フフフ、まぁね。おっと?サインなら後でね」

調子に乗った台詞を口にしつつ、彼女は懐から一枚の紙を取り出す。

「これは傭兵部に出されていた依頼書の写しだけどさ……見て」

言われて依頼書に目を通すと、そこには『はぐれエルフの討伐』の文字が記されていた。

「はぐれエルフ……?」

「うん」

エルフの国の犯罪者は、国から追放されるのがこの世界の習わしなのだそうだ。

そうして行き場の無くなったエルフは人間の国に流れて行き、地元の者と衝突して問題になる事が多い。

並の『はぐれエルフ』ならば領主が抱える騎士団辺りで対処できるのだが、それが手強い場合は【ギルド】に討伐依頼が持ち込まれるともあるのだという。


「この依頼を受けられるのは二級のパーティから……それぐらい、手強いエルフだと、私達に相応しいと思わないかい?」

単独で二級パーティに匹敵するというエルフ……確かにそそる物がある。

「ああ、申し分無さそうだ。だが、俺達にその依頼が受けられるのか?」

ユウゴはまだ駆け出しの五級という身分である。

二級パーティから、しかも傭兵部の依頼を彼等が引き受けられるのかと、懸念するのも当然であった。


「うふふふ! 目の前にいる美女の等級を、一体なんだと思っているのかね? ついでに『炎剣』のフォルノのお墨付きだよ、君は」

特級二人に認められているのだから、余裕だとヒサメは笑う。

そんな彼女とは裏腹に、ユウゴは顎に手を当てて何かを思案していた。

「どうしたのかな?」

「……討伐成功の証明はどうする?」

まさか、『特級』とはいえ、はぐれエルフを倒しましたと口だけで報告しても、報奨金が発生する以上、信用されないはしないだろう。

つまりは何らかの物理的な証拠が必要にあるということだ。

「ああ、そうだねぇ……その時は、適当なエルフの首でも取ってこようか?」

冗談でも何でもなく、本気でそうしようとしているのが、声の調子や目付きでわかる。

雪女らしい鋭利で冷たい提案だったが、それを受けた牛鬼も平然と頷いた。

化け物の本性をチラリと見せた二人は、その後もあれこれと打ち合わせをする。

そうしている内に夜もふけていき、部屋の真ん中に衝立を置くと、彼等はそれぞれのベッドに潜り込んだ……。


「──ええと、その依頼でしたら、すでに受けた方々がおりますね」

翌日、昼頃に【ギルド】の事務所を訪れた二人に、受付嬢はそう返事を返した。

「はい?」

思わぬ事態に、ついヒサメが間抜けな声を漏らしてしまう。

「すまんが、だれがその依頼を受けたか判るか?」

「ええと、今朝に二級チームの『アニモーファックス』が依頼を受けて出発してはずです」

あまりにも動揺するヒサメの様子に、狼狽えた受付嬢はユウゴの問いにあっさり答えた。

「今朝か……なら、まだ間に合うかもしれないな」

「そうね! ねぇ、私達もこの依頼を受けるわ!」

ユウゴの言葉で正気に戻ったヒサメが、受付嬢に詰め寄る。

「え、ええ!? ですが……」

「もちろん、先に手を着けたチームが失敗するか全滅するまで、私達は手出ししないわ!」


こういった同じ依頼に複数のチームが手を挙げた場合、【ギルド】では共闘するか、順番に挑む……そんなルールが制定されている。

共闘ならば分け前が減るし、順番に挑むなら後手に回った時に無駄足になる可能性が高い。

だが、それでも依頼内容が魅力的なら受けようとする者が被る事は常なので、チーム同士の争いを避けるため、そういったルールが設けられているのだ。


「ですがヒサメさんほどの方が……」

「私は魔術師よ? そして獲物はエルフ……後はわかるわね?」

『特級』が介入するほどの依頼ではないと思った受付嬢が何かを言いかけると、ヒサメその言葉を遮って妖艶に微笑んだ。

その言葉にハッとした受付嬢は、お気をつけてと一言告げて彼女達を送り出してくれた。

後手には回ったが無事に依頼を取り付けたユウゴ達は、さっそく依頼が出ていた地方へと向かう。

目的地は徒歩で四日ほどの道のりだ。

ほとんどのチームは徒歩なので、そこまで大きく離される事はないだろう。


その途中、ユウゴは少し気になっていた事をヒサメに問いかけた。

「なぁ、なんで魔術師だとエルフの討伐を受けたがるんだ?」

「ああ、エルフの体は、ある部位が魔術研究の材料になってたりするの。だから魔術師の間では、エルフの死体が高額で取引されたりするんだよ」

一般のエルフを襲撃すれば大問題に発展しかねないが、はぐれエルフの死体ならばどこからも文句はでない。

受付嬢があっさり引き下がったのも、そんなお宝を魔術師が欲しがるのは当然と思われたからだろう。

「ふうん、そういう事か」

「ほら、そんなことより急ぎましょう。場合によっては、先に行ったチームを消さなきゃなら(・・・・・・・)ないんだからね(・・・・・・・)

「ああ、そうだな」

はぐれエルフを殺させる訳にはいかない彼等からしてみれば、先に行った『アニモーファックス』の連中が作戦失敗するか、全滅してくれるのが一番都合がいい。

もしも連中が上手く行っていた場合は、彼等に不幸な事故(・・・・・)が降りかかる事になるだろう。


「ま、できれば失敗して撤退しててくれよな、二級の皆さんよ……」

小さく祈るユウゴの言葉が、吹き付けた一陣の風に飲まれて消えていった……。

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