【1話】記憶の復活(化け物side.1)
ボクが、自分の前世を人間である、と理解したのはいつだろう。
常に襲われる亡者故の生への憎悪や執着、暗い暗い洞窟の奥深くでひっそりと生者を待ちわびるだけの異形の存在。
それが、ボクだった。
今まで、ボクはどれほどの生者を葬って来ただろうか。
その数は100や200なんて数ではすまない、それはもう、数えるのも億劫になる数だ。
もしかしたら、その中にはボクの前世と同じ人間だっていたかもしれない。
だけど、その時のことはあんまり記憶にはない、その時はひたすらに、がむしゃらに殺し、喰らいつくすことだけしか頭になかった本能だけで動く亡者だったのだ。
ボクが今のように人間の記憶が戻ったのは...ボクがこの身体になる前の最後の戦いがきっかけだった。
__________
「...なぁ、やっぱり変じゃないか?俺たちはここに魔物討伐に来たんじゃないのか?」
騎士鎧の動きと共に、ガチャガチャと騒がしい音を立てながら歩く兵士達。
その中の一人がこっそりと隣の兵士に話しかける。
「まぁまぁ。寧ろ何もいなくてよかったじゃないか、これで帰っても報酬はもらえるんだぜ?楽な仕事だろ」
隣の兵士はまるで危機感がないように鼻で笑って堪える
「いや、でもなぁ...ここに来る前の森、【ナチアラの森】でもそうだったが___」
「あぁ。魔物が一匹もいない、それどころか生物すら俺は見ていない」
先の兵士がその先の言葉を言う前に別の兵士が言葉をかぶせる。
「お前もか、だが、目的の洞窟には何もいなかったんだよな、あそこが魔物の住処だって言われてたのだが...」
「何かがいた痕跡もなかったしな」
「あぁ...今からの帰還で何もないといいのだが」
兵士の男達は少し気が重くなりつつ帰還する準備を持ちながら集合のかかっているところへ向かう。
「あっ、俺ちょっとしょんべん行ってくるから、お前ら先行っといてくれ」
「おっけー」
「わかった、遅れないようにな」
そうして、騎士たちの中の一人は少し離れた茂みに向かっていった。
そして、騎士二人は集合場所へ向かった。
・・・・・・・・
「大隊!整列!!」
声高な声が草原に響き、兵士たちが足を揃える音がそれに伴い響く。
先まではキャンプ地であったとは思えないほど殺風景な光景は、国王の命により遣わされた優秀な騎士団の見事な手際によって片付けられたのだ。
だが、その精鋭揃いの騎士団にも、帰還際ともあり多少の疲労感が出ている。
それもそのはず、このあたりにある洞窟にいる強大で邪悪な魔物を滅するため気合いを入れてきたのだが、肝心なその洞窟がもぬけの殻であったのだ。
そして、自分たちの襲撃を察知して身を隠しているという可能性が高いと判断したため、騎士団には常に緊張感の漂った空気の中で探索期間を延長し続けていた。
この探索期間の延期も、もともとあった食糧を節約しながら延期したこともあッたため、皆が疲れているのも無理はない。
さらに今回の作戦は、目的の魔物を討伐できていないため成果としては失敗だ、それも相まって、この場にあまり優れた表情をした者はいない
「皆!此度の作戦はご苦労であった!今回の成果は残念ながら得られなかった!だが、そのことについては私がうまくいっておくから気にする必要はない!」
大隊長は大きな声を出し気にする必要はないということを強調する。
すると一部の兵士たちは多少不安そうな顔をやめ、安心したように息をついた。
「皆も疲れていることだろう!点呼を取り次第早急に帰るぞ!」
「「「おぉ!!」」」
雄々しい掛け声とともに、大隊に属する小隊長たちが点呼を取り始める。
「1班、異常なし!!」
「2班、異常なし!!」
「3班、異常なし!!」
「4班、隊員1名の姿が見当たりません!」
きっと、このまま異常なく帰ることができると思っていた全員がざわめきだす。
「なに?一体誰だ?」
そしてそう思っていた一人であった大隊長が、少し不機嫌そうに声のトーンを落として問いかける。
小隊長はなかなか言い出しづらい雰囲気の中で、勇気を出して答える。
「ティール・アレフスです。途中まで一緒に来ていたトールとケイレフの話によりますと、どうやら用を足すといい森の方へと進んだようです。その後、数十分たってもついてこないことを心配して捜索したそうですが見つからなかったそうです。ただすれ違ったという可能性もあったため、この集合場所に戻ったそうです」
大隊長はその話を聞き、4班の隊員たちを見る、確かに一人足りていないようだ。
「そうか...他に誰かティール・アルフスを見たものは?」
「...」
隊長がそう尋ねても、皆が首をかしげるばかりで答えるものはいなかった。
「......ん?あれは?」
行方不明になった隊員とともに来た兵士の一人、ケイレフは、こちらへ来る一つの影を見つけそう言った。
その言葉に反応したもう一人の兵士、トールの方もケイレフの向いている方向に視線を移し目を凝らす。
少し遠いところにある木、そこに隠れているのだろうが、木とは別の影が見える。
「人だな...」
「ティール!!あれはティールだ!!」
ケイレフが声を上げる。
「おい、ティール!!隠れてなんていないで出てこいよ!お前が遅れてるせいで俺たち待たされて___っ!?」
「ケイレフ...まて、あれがケイレフだという確証はない」
大声で叫ぶケイレフに対し、トールは声を低くしてそれを手で止める。
その声には、トールの激しい警戒心が浮き出ていた。
「っなんだよ!?ここらに俺たち以外の生き物なんていなかったじゃねぇか!!あれがティール以外の何だっていうんだ!!」
「そうだ、ここらには俺たち以外に何もいなかった、だからこのタイミングで隠れてるアレは...もしかしたら...」
トールは、何か嫌な予感を感じてるようで、腰にある剣に手を添えながら木に見える影に対して警戒心を強める。
「そんなわけあるかよ!あれはティールだ!!」
「...」
トールは、何も言わない。
「ティール!!!出てこい!!!怒ってないからさぁ!!」
ケイレフが、乱暴な口調で木陰に向かって叫ぶ。
すると、木陰に潜んでいた影が動いた、それと同時にトールは姿勢を低くし、ケイレフも少しひきつった表情で後づ去りそうになっていた。
「ごめんな、少しかラかいすぎたようだネ」
ティール特有の少し高い男声が聞こえ、それと同時に出てきたのは、歴戦の古傷が色濃く残る鎧を着たティールだった。
「ほら見ろ!やっぱティールだ!!」
「ふぅ...だが警戒に越したことはないからな」
現れたティールに対し、トールも安心したように息を吐いた。
「小隊長、ティールです!あの野郎とことこと戻ってきました!」
安心したように笑いながら、ケイレフは小隊長に報告をする
「アイツ、いったいどこまでションベンに言ってやがったんだ!?」
こっちへ向かってくるティールに対し、小隊長も安心したように悪態をついた。
そして、ティールはこちらへ向かってくる。
ティールがすぐそこまで来て、その異変に気付いたのは、ティールから一番遠くにいた大隊長だった。
「ん...?」
大隊長が気づいたのは、歩き方だ、どこかぎこちなくまるで何かが取り付いてるかのような...
「ッ!!」
そこまで考え、大隊長に何やらおぞましい悪寒が走った
すぐさまティールという隊員の姿をくまなく凝視する。
そして、大隊長は気づいた
彼の眼には、生者に灯る光というものがなかったのだ、アレは、戦場では誰しもが目にすることになる、死者の眼だ。
それに気づいたとたん、大隊長の体は跳ねるように動き出した。
「総員ッ!!警戒態勢!!!アレはもう生者の眼をしていない!!!ティールではない!!」
隊列を組み整列していた兵士達の間を潜り抜け、大隊長はケイレフのすぐそばまで来ていたティールのような何かに対して剣を抜き走り出す。
大隊の隊員たちも、状況をよく理解できていないながらも、大隊長の命令に従いすぐさま後を追う。
だが、大隊長の言葉に対して、少し反応の遅れた兵士がいた、ケイレフだ。
ティールに一番近い位置にいたケイレフは、言われたことを理解すれど、どう行動すべきか判断ができなかった。
ケイレフも同じような状況だった。
「っ!どけっ!!!」
大隊長は走り抜け、瞬時にケイレフとトールを押しのける
そして、持っていた剣で、ティールに化けている何かを切ろうと腕に力を込め_______
そこまでの行動を実行していた時、大隊長の身体は、空高くまで打ち上げられた。
何が起こったのかわからなかったが『空に打ち上げられた』と理解した大隊長は、すぐさま受け身を取ろうとした。
だが、受け身を取ろうと考え、体に力を入れようとするが体の感覚はなかった
大隊長は、体の神経がやられたと考えただろう。
そして彼は意識の中で死を覚悟した。
しかし、その時飛ばされているのが、元より彼の体ではなく、頭であったといういう事実を知ることができたのは
それをマジかで見ていた大隊の隊員たちとケイレフとトール、それに____
いつの間にかティールの姿ではなくなっていた、異形の生物だけであった。
不定期投稿ですがよろしくです。
ちなみにこれが初投稿ではありません。
今は捨てたアカウントで昔は別の作品を書いておりました。
久しぶりすぎてあまりすらすらとは書けませんでしたw