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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

超短編

正義の名の下に振りかざされる聖剣は

作者: ミーケん

Twitter企画番外編

 できることなんてひとつもないと言われた。

 君はただそこにいればいい。いたくないならさっさと消えろと言われた。

 そんな暴言を僕は受け入れた。

 意味がないなら仕様がない。

 僕自身もすこしわかっていたのだから。

 僕を嫌う人はごまんといる。みんな僕を気持ち悪いと言って蔑み、嫌い、避ける。

 理由なんてない。


 ─いじめに明確な理由があるとすればそれは人が集まったからだ。ある集団と1人ができたからいじめが始まる。

 集団の中の1人が軽く1人の人にちょっかいをかける。するとそれは集団全体に伝播し、やがてそれはエスカレートする。

 いじめは集団心理が招く悲劇だ。人間の社会性によっていつまでも消えない人間の汚点だ。

 その汚れは消えることなどなく、染み込んで人間に守られて存在し続ける。

 たとえ孤独ないじめられた人が訴えてもそれはなかったことにされる。責任は直接関係のない偉い人に負わせ、いじめた人たちは訴えられたことに激昂し、より執拗にいじめる。─

 

 僕はいじめられてはいない。

 僕はいじめなんて許せない。

 僕はいじめた人たちとは友達だった。

 友達だった。

 だった。


 ─いじめを始めると集団は次第に団結力を増していく。表面上の仲の良さは異常だ。集団の個人個人がターゲットを一致している間はそんな平和が訪れる。

 周りと一緒に。同じように。間違えないように。

 そうやって自分に言い聞かせていじめる。

 誰かが死ねと言えば彼女も死ねと言う。

 誰かが買えと言えば彼も買えと言う。

 そうやって集団のなかで一番になろうともがく。あがいて上に上ろうとする。

 自分の正しさを認めさせるため。自分で認めるために。─


 友達だったあの子をいじめるとみんなもいじめるのが当然になっていた。

 でもいじめじゃない。これはいじめじゃなくてあの子を目立たさせるための方法なんだ。

 あの子はすこし地味だから。目立って人気者になるために私はあの子をいじめた。

 すこし靴を取ってやった。返すつもりだった。

 でも男の子が燃やしてしまった。

 謝ってもダメだった。許してくれるわけなかった。

 だから謝らなかった。許してくれないなら謝ったって無駄なんだから。

 でも、あの子が許さないのは男の子の方に決まってる。だって私はあの子の友達なんだから。親友なんだから。


 ─いじめられてた子が自殺にまで追い込まれるケースは存外多い。いじめが起こりやすいのは比較的思春期の若者に多いためである。

 思春期の少年少女は自分の悩みを打ち明けることをしない傾向にある。

 自身のキャラを、アイデンティティーの拡散を防ぐためである。

 この時期になると人は自身の在り方を問われることになる。自分はこれからどうやって生きていけばいいのか。自分のことは自分でやらなければいけないのではないか。こう思っているのは自分だけなのではないか。

 不思議なことに人はこんな疑問を自身に問いかけることになるのだ。

 そしてそれは周囲との同調を自己防衛とすることで保留とする。

 いじめられていても言えない。言わない。言いたくない。

 それは周囲との同調を崩さないための手段であった。

 しかしそんな風に抱え込んでいけば、それは抱えきれないなってくる。結果訪れるのは自己による破滅。自殺いう結末のみ。─


 友達だったあの子は僕を徹底的にいじめた。影では僕に君とためとか嘯いていたが、実際はただのストレスの捌け口にしたかっただけだろう。

 靴を燃やしたのだってそうだ。

 男の子はあの子から靴を取ったりはしたが、燃やそうとはしてなかった。ちょっとどこかに隠そうとしていただけだった。

 でも、そこにあの子は現れて男の子を押した。

 ドンと押された男の子は靴を放してよろめいた。そしたらあの子は靴を蹴った。靴はそのまま先生の棄てたタバコの灰ガラに触れ、残っていた火が引火し、炎を上げた。

 あのときのあの子はとても清清しい顔をしていた。

 僕はそれをただ見ていた。目から血が出るほど必死に目に焼き付けた。この気持ちをわすれないように。


 ─いじめられた人にだって真っ当な理由がある。圧倒的正義によった完全に正当な理由がある。

 一方面から見ればだめなのかもしれない。でも、他方面から見ればいい感じに見える。

 物事とは不思議なもので、完全な悪や完全な正義などは存在しないのが道理であるらしい。

 だからいじめだって正義なのだ。いじめられている人からすれば悪だ。

 でも、それはいじめてる人からすれば正義てしかないのだ。

 正義の名の下に行われる行為は多少の罪悪感など簡単に塗りつぶす。

 正義の塗料はすべての色をあわせ持つ真っ黒な絵の具なのだ。─


 もうなにも出来ないのだ。私にはなにもできない。

 あの子はもう私を信用してない。信頼なんてなにもない。ただ恨んでいる。憎悪が渦巻いている目をこちらに向けてくる。

 見るな。見るな。見るな。見るな。見るな。見るな。見るな。

 お前なんて死んでしまえ。


 ─いじめというのはすべてに平等に降り注ぐ雨のようなものだ。

 避けようとしても無駄。満遍なく降り注ぐ雨から身を守るには傘が無くてはいけない。留め金を外して開かなければいけない。

 その間に多少濡れてしまうのは仕方ない。多少の犠牲を払ってようやく自身の平穏が訪れる。

 つまりはそういうことだ。

 いじめとはつまりその雨そのものだ。

 なにも持たぬものは打たれるしかない。雨に打たれ続ける他なにもできないのだ。だれも悪くない。悪いのはそんな風に世界を作った神様か、神様を作った人間かのいずれか、もしくはどちらもだ。

 いじめる人だっていじめることに一生懸命なんだ。

 彼らはいじめることで心地よく感じている節がある。しかし、それは他者をいじめているからではない。

 自身が守られていると自覚出来ているからだ。

 こうしている間だけは、いじめている間だけは傘に守られていると自覚できる。しかし、いつのまにか傘がなくなっているかもしれない。

 だから彼らは定期的にいじめる。─


 僕は自殺する。

 みんなが理想とする僕になってあげることにした。

 みんなは毎日のように僕に言った。

 ばかとか。死ねとか。キモいとか。消えろとか。

 だから消えてあげることにした。死んであげることにした。

 彼らはそれを望んでいるらしいし、僕もすこし死にたくなってきたからお互い様。利害の一致ということだ。

 靴を脱いで屋上の柵を越える。

 突然風が吹いた。それによって僕の髪が荒れる。長く目の見えないようにした僕の前髪が風邪によって吹き上がり、僕にそれを見せた。

 きれいな空だ。白と青とのまだら模様がきれいに奥まで広がっていた。

 こんな天気に死ねるなんてなんて幸運だろう。

 そうして僕は足を1歩進めた。

 浮遊感を得た直後。僕は何かの潰れる音を聞いた。


 ─もし、この世界に絶対的な正義が存在したらそれはどれほど理不尽でどれほど非常なのか考えたことはあるだろうか。

 絶対的な正義がなんなのか。そもそも正義とはなんなのか。

 奇妙なことに正義という言葉はそこかしこで言われている一般的な名詞だが、そこに具体的な意味はない。なにか難しいことばかり書かれてあって肝心なことは誤魔化していたりする。

 だから具体的に正義とは?と言われればその時自分のなかで1番に思い付くものを自然と正義に当てはめてみるのがいいと思う。

 例えば警察だ。

 国家権力で、様々な違反を許さない。殺人や誘拐、脅迫など正しくない、間違った行動を法律のもとに取り締まる。

 では、警察は絶対的な正義であるか?

 答えは簡単だ。違反を取り締まる機関であっても正義ではないし、絶対なんてもってのほかである。

 機関としては正しく行動するものであるが、その機関を構成する個人の正義はないに等しい。

 違反を取り締まり、手柄を貰おうとする者や、法で取り締まる身でありながら法を犯す物もいる。

 そんな者たちが含まれている警察が絶対的な正義であるなどありえない。

 では、AIはどうだろう。

 人が作り、知性を与えられ、自ら思考するAIというのが最近の技術で格段に進歩してきた。

 では、人から受けた知性を独自の力で進化させるAIは絶対的な正義であるか。

 それはどちらにでもなるというのが正しい。

 人がAIに要らないことをしなければいずれAIは絶対的な正義になりうるだろう。人よりも優れた脳を持ち、人のように自分の感情を持たず、常に正しくあり続ける。

 それが正義でないはずがない。

 圧倒的な正義。正しいだけの正義だ。

 正しいが故になにも許さない。なにも許容せず、妥協せず、間違ったものを罰していく。

 正義とは残酷なのだ。

 だったら正義なんて必要ないんじゃないだろうか。

 そんな不必要なモノに固執するからいじめが起きるし、冤罪が成立するし、殺人が出来るような人が出てきてしまうんだ。

 同族同士で殺し合いをするのは人間だけだという。

 決まりなんて守ってるからだめなんだ。決まりなんて作るからだめなんだ。

 最初からなにもしなければ自殺なんて出てこなかったはずなのに。─


 私はあの子を救えなかった。

 いいや。救おうとさえしなかった。あの子がいじめられているのをただ見ていた。傍観していた。

 私には関係ない。私は悪くない。私はなにもしてない。

 だからだろうか。

 あの子が死んで3日ほどたった頃。懲りずに彼らはいじめをしていた。

 あの子の代わりになったのは私だった。

 殴られ、蹴られ、机を壊され、シャーペンで刺され、金を盗まれ、自転車を奪われた。


 ─いじめは殺人だ。正義の名の下に魔王に振りかざされる聖剣だってそれの延長でしかない。

 魔王にだって事情がある。

 ある一方からみればそれはとても許されるべきではない殺戮なのかと知れない。だからと言ってそれが完全に悪いという理由を以てして魔王の手下を殺すのは正しいのだろうか。

 魔王を殺すのはいいことなのだろうか。

 正義なんて一面においてのみ都合のいいそれはもはや正しさなどどうでもいいように感じる。

 そこにあるのはどこまでも卑怯で愚劣で最低で意地悪で汚い人間の心しかないのではないだろうか。

 人間がいる限り正義は行われるが、正しい正義などどこにも存在しないことをいじめは象徴しているのだ。─


 私も死のうかな。

 カッターを握りしめながら私は震えた。悲しみと哀れみと憎しみと不条理に泣いた。

ども。

今月最初で最後の小説です。

テーマはいじめです。

もう、小説内で結構語り尽くしてしまったのでこれでおしまいです。

また、次の機会にどうぞ。

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