その1
「やっぱりこれ、大きいわねぇ・・・私たちの税金で建てたのよね・・・」
天野が神妙な顔で市民会館を見上げ独り言のようにつぶやく。
「そうだな、東京ドーム三つ分のデカサだって聞いたときは驚いたよ、たしか公園もかなりの大きさじゃなかったか?」
この学園都市にはこの市民会館の他に市民公園と言われる運動施設の団地的な物があり東京ドーム一つ分の大きさの施設が密集していて市長が
「とりあえず東京ドーム級の建て物建てればいいや」
と思ってるに違いないデカさになっている。
とにかく、
「市」の付いてる建物が大きいのはこの都市の特徴だ。
「何だかナットクいかないなぁ・・・」
「・・・」
市民会館を見つめる天野を放置し僕は歩きだす。
天野は一度考えだすと納得いくまで考え続ける癖を持っている。しかも、大体がどうでもいい疑問だ。
みの○んたは何故色黒なのかを三日三晩考え(その間講義を休み飲まず食わず)導きだした結論は日サロ通いというお粗末さ。
だから僕はこいつが考え始めたときは放っておく事にしている。
館内に入ると中は思った程の熱気に包まれているわけでもなく皆タキシードやドレスを来てはいるがそれ程堅苦しい雰囲気ではない。テーブルに乗せられた料理をつつきワイングラスを持って歩くボーイにおかわり頂戴したりなんだか建物が広いと妙な解放感を感じる。
デザートが乗ってるテーブルでオレンジジュースを啜りながらボンヤリと人の流れを見ていた。
「このぉ!」
「ぐ・・・!」
後ろからいきなり天野に殴られる。
「何で黙ってどっかに行っちゃうの?ヒドイよ!」
さらにもう一発と身構える天野。
「待てよ、お前がいつまでもつまらない事考えてるからだろ?」必死で反論を試みる。
「そんな事ありませんよ?」
「?!」
なんだ?誰の声だ?後ろには誰もいないし・・・。
「ボクたちの納めている血税の行方を辿る・・・今時の若者がそんな事するなんて素晴らしい事じゃないですか?」
「・・・」
どこだ?どこから声が?
「イテッ?」
回りを見回しているといきなり脛に痛みが走る。
「さっきから君は人の話を聞いてるのですか?」
下を見ると小学生ぐらいの女の子が腕組をして僕を見上げていた。黒髪に蒼い瞳をしていて顔立ちは日本人とは違い外国人みたいで黒を基調にしたフリフリのドレスを着ている。
「天野この子は誰だ?こんな可愛い子がお前の家系から出てくるわけがないし・・・」
少女の顔をまじまじと見る。見れば見るほど・・・
「失礼だな!コーチャンは!アタシの親見た事無いくせに!エイッ」
何かに目覚めかけた瞬間天野に殴られ正気(?)に戻った。
「じゃあこの子は誰なんだ?」
僕の疑問に答えたのは天野じゃなかった。
「ボクは、第二十六代目芥川の黒川エルザですよろしく」
ドレスの端を摘み微笑む少女の顔は夢から覚めた子供のような冷たい何かを放っているように思えた。
登場人物名・黒川エルザ・くろかわえるざ