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魔導学校の悪魔使い  作者: ヒロ
第一章
9/42

『8』

 翌日の昼休み、俺は屋上のベンチに座りながら結衣と昼食を摂っていた。


「全く。昨日は散々な目にあったぜ」

「ご、ごめんなさい」


 優等生の結衣が成績最底辺の俺に謝罪している。なかなかに珍しい光景だ。


 なぜこんなことになっているかというと、原因は昨日行われた結衣と織城先輩との魔導戦だ。

 それでグラウンドはめちゃくちゃ、部費は大幅に削減、終いには校舎の修理代を残りの部費から出せと教師陣から言われた。


「あんなところで魔法を使うなんてお前らアホなのか」

「本当にごめんなさい。……でも、あれは元はと言えば蓮人くんのせいで」

「俺のせい? いやいや、完全にお前らが悪いだろ」


 どうして二人の喧嘩に一切関与していない俺が発端みたいになるんだよ。

 いくらバカで成績が悪くてもそんな扱いはあんまりだ。


「……もういいよ。蓮人くんのバカ」


 逆に怒られてしまった。

 これ俺のせいなの? 理不尽すぎない?


「でもなんで昨日、急に魔法が使えなくなっちゃったんだろう」


 昨日の魔導戦。最終的には二人の魔法が使用不能になって引き分けに終わった。


 結衣はそのことを言っているのだろう。


「さあな。だが、今日はもう使えるんだろ?」

「うん。今朝怪我をしていた小鳥に治癒魔法を使ったけど、大丈夫だったよ」


 なにそのシチュエーション。ディ○ニーアニメに出てくるお姫さまキャラみたいだな。


「そうか。たぶん昨日のは不慮の事故みたいなもんだったんだろ」


 実際、魔導士でも時々魔法が使えなくなることがある。

 それはメンタル面から来るものであったり、身体のダメージから来るものであったり原因は様々だ。


 今回もその中のどれかなのだろう。


「そうかなぁ……」


 なんだかすっきりしない顔をしている結衣。


「きっとそうだろ」


 そんな彼女に言い聞かせるように俺はそう言った。


 その後、やや静寂が続くと急に俺の足元が暗くなる。

 上を向くと、そこにはつい最近見たばかりの顔があった。


「そこの愚民ども。席をどいてもらえますか?」


 そして、つい最近聞いたことがあるようなセリフ。


 目の前に立っているのはエレナ・ルーベンス。ベルギー王国の王の娘であり、次期王女であり、生徒を見れば愚民と悪態をつく口が悪いお嬢様。


「は、はい。申し訳ありません」


 当然のように結衣は席をお嬢様に譲ろうと立ち上がる。


「そこの愚民も、さっさとどいもらえますか? でないと、わたくしが昼食を食べられないでしょう」


 これを言われるのも通算二回目だ。この女は普段同じセリフを使いまわして会話してるんじゃないか。


「僭越ながら、それはお断りさせていただきます」

「っ!」


 王女相手なのでちょっと丁寧に答えてみたが、王女様はお気に召してないみたいだ。


 顔がゆでだこみたいになっている。


「あなた……今なんと?」

「もう一度言わなければなりませんか? そのくらいあなたはバカなのでしょうか?」


 同じことを繰り返すのは面倒なので、丁寧語で罵倒するということをやってみたが、どうやら成功のようだ。

 王女様は全身を震わせながら、物凄いキレている。


「そうですか、わかりました。ではあなたは死になさい」


 そう言って、詠唱に入る王女様。

 だが、


「ちょっとストップ」


 それを手で制すと王女様は途中で詠唱を止めた。


「なんですか? 命乞いですか?」

「いいや違う」

「? ならなんですか?」

「俺と魔導戦をしよう」


 そう言うと、僅かな間が空いた。そののち、王女様がバカにするように大きく笑った。


「面白い。わたくし相手に魔導戦ですって」

「あぁ。そうだ」


 俺が真剣な表情で見つめると、王女様は笑うことを止めた。


「どうやら本気みたいですね。ですがいいのですか? わたくしは――」

「ベルギー王国の次期王女で、魔導士級に魔法を使いこなせるスーパー優等生ってことだろ? 知ってるよ」

「そ、その通りです……」


 王女様は悔しそうにこちらを睨んでいる。

 どうやら彼女が言いたかったことを俺に取られ、怒っているようだ。


「それでも俺はあんたと魔導戦をやる。これは俺の中で決めたことだ。どうだ。受けるか?」


 挑発するように問うと、それに王女様は「もちろんです」と返す。


「あなたのような愚民など息の根を止めて差し上げます」

「おぉ、そりゃ恐い」


 そんなやり取りのあと、俺と王女様は魔導戦の日時と場所を決め、王女様は校舎の中へと入っていった。


「なにやってるの!」


 突然の空手チョップ。脳天が死ぬほど痛い。


「いってーな。なにすんだよ」

「それはこっちのセリフだよ! 王女様に喧嘩売るなんて!」


 信じられない! と言わんばかりの結衣の表情。

 そんなに怒らなくてもいいのに。


「別にいいだろ。お前には関係のないことだし」

「関係なくない! だって、蓮人くんは私の……」


 さっきまで怒っていたと思っていたら、今度は急に泣き出した。忙しいやつだな。


「大丈夫だよ。ちょっと魔導戦するだけじゃないか」

「大丈夫じゃないよ。だって、蓮人くん。絶望的に弱いんだもん」


 ぐふ。

 泣いているのになんて一言をぶち込んできやがるんだ。今のはかなり響いた。主に心に。


「だ、大丈夫だって。それに公式の魔導戦なら死ぬことはないし。 な?」


 頭を撫で宥めると、ようやく結衣が泣き止んだ。


「……そうだね。死にはしないね」


 それ逆に言えば、死に近いくらいの負証をするってことだよね。俺ってどんだけ信用されてないんだ。


「そ、そうだな。だからとりあえず今は昼飯を食べよう。次の授業に遅れるぞ」


 そう言うと、結衣はうんと頷いた。


 妹がいたらこんな感じなのだろうか。

 この一連のやり取りでそんなことを思った俺だった。


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