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魔導学校の悪魔使い  作者: ヒロ
第一章
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『7』

「なぜ依頼が来ない!」


 またいつかのように織城先輩が激おこぷんぷん丸していた。

 今回は依頼者が来ないことを怒っているようだ。


「つい二日前に来たばかりじゃないですか。そりゃなかなか来ませんよ」


 『対悪魔特務機関』に対する依頼内容はほとんどが『悪魔退治』だ。


 しかし、その依頼自体の頻度は決して高くない。


 何故なら普段出てくる悪魔は各エリアに配属されている魔導士によって倒されてしまうのだ。


 つまり俺たちに『悪魔退治』の依頼が回ってくるのは、現れる悪魔が魔導士によって処理しきれない時、緊急事態の時のみだ。


 よって、依頼が来ない日が多く、ぶっちゃけ部活動中は暇してることが大半。

 今なんか俺、ソファの上で寝転んでいるだけだし。もう寝そうだし。


「蓮人くん。寝ちゃだめだよ」


 瞑りかかっている目に頬を膨らませている結衣が映った。


「寝ねぇよ。ただ目を閉じて、意識を失わせようとしていただけだ」

「それ絶対寝ようとしてるよね!?」


 適格なツッコミを頂いたところで、俺は起き上がる。すると、ジッと織城先輩が俺を見つめていた。


「なんですか?」

「れ、蓮人。お前、しっかりと着けてるんだろうな」


 若干強張った顔つきで訊ねる織城先輩。


「あぁ、はい。身につけてますよ。ほら」


 俺は左手を見せる。すると、薬指から僅かながら輝きが放たれていた。


「ほ、ほう、約束はきっちりと守っているようだな。さすがだ」


 何がさすがなのかはわからないが、俺が褒められたぞ、嬉しい。


「ち、ちなみに私も持ってきたぞ」


 織城先輩も左手を見せると、俺と同じように薬指から光が発している。


「やっぱり似合ってますね」

「そ、そうか! まあお前が選んだものだしな。……それと……傍から見たら私たちは……ふ、ふふ夫婦に――」

「なんですかそれ!?」


 結衣は横から大きく声を上げると、それはうるさく耳に響いた。


「どうしたんだよ急に。鼓膜が破れたかと思ったぞ」

「だって、あれ! あれって指輪でしょ!」


 目を見開かせて指をさす先にはしk城先輩の薬指にはめられた指輪。


「あぁ、そうだ。これは蓮人に選んでもらった指輪だ」


 その質問に答えたのは何故か織城先輩。

 なんか嬉しそう。


「なんでですか! なんで織城先輩が蓮人くんに指輪を――!」


 ギロリ。

 なんで俺は結衣に睨まれているんだろう。

 そいで、すごく恐いんですけど。


「昨日、結衣が学園長の所に言っている間、織城先輩と魔導武器屋に行っていたんだよ。その時に先輩に選んだんだ。指輪は戦闘にも使えるし」


 ずっと睥睨されているのは嫌なので、仕方がなく俺は事情を説明する。

 しかし、結衣の怒りは収まらないようで、


「戦闘にも? ってことは、他にも理由があるのかな?」

「っ! べ、別にねぇよ!」


 織城先輩がロリキャラとしてさらに可愛くなるからなんて絶対言えない。


「ふーん。怪しいなぁ」


 結衣は目を細めて疑うような視線を向ける。

 俺はお前の彼女か! とツッコんでやりたいけど自意識過剰だと思われるのが恐いからやめとこ。

 俺があと五段階くらいイケメンになっていたら言ってたわ。


「おい! 私を無視するな!」


 そう言った織城先輩はレザーチェアの上に立って、子供のように両手をグーにして突き上げていた。


「すみません織城先輩。結衣がうるさくて」

「うるさいってなにさ。私は蓮人くんが悪い女に引っかからないように心配して……」

「ちょっと待て結衣。私は今聞き捨てならないことを聞いてしまったぞ」


 横から織城先輩の鋭い声が耳に入る。

 これは知っている。彼女がキレているときのトーンだ。


「結衣。誰が悪い女だと?」


 織城先輩が訊ねる。

 身長が小さい彼女だが、今はレザーチェアからデスクの上に移動しているため、結衣と俺を見下ろす形になっていた。

 小さい子に見下されるのってなんだか不思議な気分だな。


「もちろん織城先輩です」


 ピキッ。


 これはいけない。織城先輩の堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた。戦争の予感しかしない。


「おい結衣。お前はいつからそんなに偉くなったんだ」

「別にそんなつもりはないですけど、後輩の部員をたぶらかすのはどうかと」


 結衣はあまり感情を出さずに、一方織城先輩は前面に感情を表に出して、互いのことをじっと見ている。

 おかしいな。魔法は発動されてないはずなのに、二人の間に閃光のようなものがバチリと音を立てている気がする。


「久し振りにやるか? 魔導戦」

「いいですね。今度こそ決着をつけましょう」


 二人とも完全にやる気だ。

 どうしよう。部室を出るタイミングを逃してしまった。


「ではいくぞ!」


 そう言って織城先輩は詠唱に入る。


「我が魔の力を以て、邪なる存在に、雷の鉄槌を下せ――《雷明(ハイボルト)》」


 ゴブリン戦の時に放ったのと同様の魔法だ。

 織城先輩の足元に囲むように魔法陣が現れ、それぞれの中心から帯状の光が結衣へと向かう。


 それを結衣は最小限の動きでかわすと、白い輝きを発している光帯は部室の壁に直撃。

 見事に壁が壊れてしまった。おかげで部室にいても常に外の空気が吸えて気持ちいいぜ……とはならない。


「チッ、避けられたか」

「私も一応成績上位者なので、これくらいなら楽勝です」

「っ! この猫かぶりが!」


 明らかにわざと挑発をする結衣に、織城先輩は思い切り苛つかせていた。

 ものの見事に術中にハマってるな。そんな織城先輩もいじけてる子供みたいで可愛いけど。


「では今度は私がいきますよ」


 次は結衣が詠唱を唱え始める。


「我が魔の力を以て、悪なる魂に、水の砲弾を撃ち放て――《水砲弾(ウォーター・カノン)》」


 結衣の目前に魔法陣が顕れると、それは青い光を発生させながら砲台を顕現させる。

 古風な見た目で、全長三メートルほど。

 その大きさゆえ天井が崩れていくんだが、これはいいんだろうか。


「これはまずい!」


 危険を察知したのか、織城先輩は外へ避難する。

 そんなことをするんだったら、最初からグラウンドで戦って欲しかった。


「あの人を撃って!」


 結衣の指示が出ると、砲台は魔法陣と同色の光を激しく放ったのち砲弾を撃ち出す。

 弾の大きさは半径一メートル程度。水の魔力で作られているものだろう。

 加えてホーミング機能があるのか、それは逃げる織城先輩を追跡し続けていた。


「くそっ!」


 しかし、砲弾が当たる直前、織城先輩は素早く進行方向を変えてそれをなんとかかわした。


「なかなかやりますね」


 壁の大穴からグラウンドへ出ると、結衣は余裕の言葉を掛ける。

 ってか、さっきから気になっていたけど、詠唱の第二節が『邪なる存在』とか『悪なる魂』とか言って、二人とも互いのことをそんな風に思っていたのね。女って恐ろしいわ。


「戯け。たかが魔法一つ撃ったくらいで喚くな。私には傷一つつけられていないぞ」

「そうですか。私にはあと数センチで当たっていたように思えたのですが」

「それは勘違いだな。あんな魔法歩いてでも避けられたわ」


 織城先輩は笑って誤魔化すが、あれは完全に見栄を張っているだけだ。

 実際、結衣の言う通りあと少しで右腕に直撃だったし。


 今のところ優勢は結衣か。

 だが、この勝負の行方は既に決まっている。


「仕方がない。そろそろ本気を出すとしよう」


 そう言って織城先輩は詠唱を唱えだす。


「それって大体弱い人が言うセリフなの知ってましたか?」


 結衣は表面上バカにしているが、おそらく脳内は今までで一番気を引き締めていることだろう。

 なぜなら彼女は過去に一度、織城先輩と戦ったことがあるからだ。

 その時も、織城先輩が今しがたのような言葉を発すると、直後に圧倒的な差で結衣が大敗した。


「我が魔の力を以て、邪なる存在に、雷光の一撃を与えよ――」


 織城先輩の詠唱。

 通常ならここで終わりのはずだが、彼女は続けて詠唱を行う。


「我が魔の力を以て、穢れ多き存在に、雷鳴の裁きを下せ――《雷斬ライトニングスラッシュ》」


 詠唱後、結衣を全方向から囲むように魔法陣が出現。

 それらは全て黄金色に輝き、今にも魔法が発動しそうなくらい、バチリと激しく音を立てていた。


「またこれですか」


 結衣が織城先輩を睨む。


 彼女が今行ったのは第二詠唱というものだ。


 普通詠唱を行う時は第一節から第三節を唱え魔法を発動させる。


 これを第一詠唱という。

 

 しかし、これを改変して第一詠唱を二つ続けて詠唱を唱えても構わないのだ。


 これが先ほど織城先輩が行った第二詠唱。


 第二詠唱を唱えると、魔法の威力は格段に上がる。しかし、詠唱が長い分隙が生まれることが多いので、あまり使う者はいない。


 なら何故織城先輩がこの技を使えるのかというと、彼女は詠唱スピードが異常に速いからだ。


 おそらく学年で一番速い。


 だからこそ、彼女は相手に隙を作ることなく、第二詠唱を行えるのだ。


「どうした? 降参か?」


 先ほどとは逆に織城先輩が結衣を煽る。

 やられたらやり返すなんて、まるで子供みたいだな。可愛い。


「くっ、ここまでですか」


 そう言って諦める結衣。どうやら策がないようだ。


「ハハ、降参か。そうかそうか。だが、私はこの魔法を止められん。最後の一発はしっかりと受けるんだな」

「……仕方ないですね」


 傍から見ると、織城先輩が弱いものいじめをしているように思えるだろう。


 しかし、彼女の言っていることは本当だ。


 第二詠唱で発動した魔法は威力が高すぎて、自身の力で解除することはできない。

 なので、その魔法が使わなくなったとしても撃たなきゃならないのだ。


「我が魔の力を以て、聖者なる我が身に、水の加護を与え給え――《防御(シールド)


 結衣は防御用の魔法を発生させると、衝撃に備える。


「ではいくぞ」


 織城先輩の声と共に魔法陣が更に激しい閃光を放つ。

 もうあと数秒で魔法が発動するだろう。


 そう思ったとき――。


『面白そうじゃのう。妾も混ざるとしよう』


 そんな声が頭の中に響き、それからすぐに今ここで発動している魔法が魔法陣諸共消失した。


「っ! なんだ!」「これはなんですか!」


 いきなりの出来事に驚く二人。対して、俺は一つも動揺をしなかった。


 理由は単純明快。


 現場をこうした原因がわかっているからだ。


『我が主が言ったのじゃぞ。勝負は決していると』


 そうだ。この魔導戦は始まる前から引き分けることがわかりきっていた。


 それも第三者の介入によって。


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