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魔導学校の悪魔使い  作者: ヒロ
第一章
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『3』

 無事ゴブリンを倒した(俺は何もやっていないけど……)翌日、俺は静川先生の授業を受けていた。


 科目は『補助魔法』。


 補助魔法とは、三人組(スリーマンセル)の中で、《補助(サポート)》を担当する者に適した魔法である。


 主に、《攻撃(アタック)》の身体能力を高めたり、魔力を上げたり、時には、毒付きの魔法で敵を弱体化させたりもする代物だ。


 時に、俺が所属する《対悪魔特務機関》は、部員は三人いるはずなのに、何故か《補助(サポート)》担当がいない。


 それは一人《役立たず》がいるからだ。

 俺だ。


 そこで、織城先輩からはいち早く《補助魔法》を使えるようになって、《補助(サポート)》役をやって欲しいと頼まれているんだが――。


「お前、ふざけているのか?」


 静川先生の鋭い視線が突き刺さる。


 その先には、他の生徒が身体能力を強化して、巨大な岩を壊したり、天高くジャンプしたり、尋常じゃないスピードで走ったりしている中、只々マッスルポーズを取っている俺の姿。


「いえ、至って真面目です」

「じゃあ、それはなんだ」

「身体強化です」

「そうか。とりあえず、お前がとんでもないバカだってことはわかった」


 静川先生は怒りを通り越して、完全に呆れていた。

 よし。叱られなかったぞ。


「植村、もう少しちゃんと授業を受けたらどうだ」

「静川先生。これでも俺、入学して一週間は意識高い系だったんですよ。授業は最前列で受けるし、疑問に思ったことがあったら担当の先生に訊きにいくし、実践形式の訓練も身体をボロボロにしながら頑張ったし」

「確かに……そういえば、そんな時期もあったな。だが、なら何故今はこんな問題児になってしまったんだ?」

「才能がないからですよ」


 魔導士というものは、努力だけでなれるほど甘くはない。

 むしろ、生まれ持っての魔力の保有量、詠唱の記憶力、適正属性の数など、才の面がかなり大きい。


 それゆえ、魔導士になることを夢見て、魔導学校に入る者は年間数千人ほどいるが、その大半が卒業も出来ず、一般の学校に入り直したり、別の職に就いたりする。


「どっかの学者が、天才に必要なのは99パーセントの努力と1パーセントの才能とか言ってましたけど、あれまるっきり嘘ですよ。そもそも、1パーセントの才能ごときで天才になれるんだったら、この世界、全員魔導士になってますって」

「つまり、お前は自身の才能が足りないから、努力することも放棄したということか?」

「ご名答です」


 魔力保有量が平均の十分の一、魔導書の第一章すら覚えられない記憶力、適した属性はたった一つだけ。


 こんな才能でどうやって魔導士になれと。


 例えるなら、身長120センチのやつがNBAの選手になるくらい難しいぞ。


「だからと言って、授業をサボる理由にはならないがな。さあ、補助魔法の訓練だ」

「……先生、ひどい」

「つべこべ言わずやれ。でないと、お前の顔面に傷がつくことになるぞ」


 静川先生の右手が拳に変わった。

 加えて、青く輝き出して、間違いなく魔法を使っている。


「先生、それ食らったら顔潰れちゃいますよ」

「分かっているなら、さっさと補助魔法の詠唱を唱えろ」

「…………」


 生徒が脅迫してもいいのだろうか。

 

 そう思いながらも、このままでは殺されてしまうので、渋々詠唱に入る。


「我が魔の力を以て、弱き力を、豪然たるものへと改変せよ――《肉体増強フィジカル・ストレンジ》」


 詠唱が終わった。


 しかし、何も起こらず。


 本当ならば、一定時間腕の筋肉が増えたり、足の脚力が増したりするのだが。


「明らかに魔力量が足りないな」


 一部始終を見ていた、静川先生がそう分析する。


「そうですよ。魔力保有量がほとんどない俺は、こんな魔法すら使えないんです」


 《肉体増強フィジカル・ストレンジ》は、主に護身用の魔法で、補助魔法の中でも一番簡単な魔法だ。

 ぶっちゃけ、小学生でも優秀なやつは使える。


「だが、この魔法ができないと、いざ何者かに襲われたときに対処できないぞ」

「こんな弱い魔導士候補を、誰が襲うんですか」


 たまに思うけど、先生は俺のことをいじめてるのかな。


「なんだ。お前は知らんのか」

「? 何をですか?」

「反政府祖組織『魔導反乱軍(マジック・リベリオン)』のことだよ」


魔導反乱軍(マジック・リベリオン)』。

 

 聞いたことがある。

 確か、過去に一度だけ起こった魔法戦争――魔法世界大戦の生き残りで構築されたテロリストの集まり。

 全員首筋に龍の刺青が入っている。

 数年前から誘拐や殺人を繰り返し、時には国会議員まで殺している。

 しかし、その目的は未だに不明で、一部では犯罪を只楽しんでいるだけではないか、という説もある。


「確かに、テロリストに襲われたら死んじゃいますけど、それはこんな護身用の簡易魔法があっても同じことでしょ」

「まあそうだが、抵抗する手段が全くないよりはマシだろう」

「……それは……そうかもしれませんが」


 静川先生はパチンと手の平を合わせる。


「よし。そうと決まれば訓練再開だ。詠唱を始めろ」

「いやいや、別に何も決まってないんですけど」

「だって、今しがた護身用の魔法が必要だと認めたじゃないか」


 えぇー、今のやり取りってそう言う意味だったの。

 って、もしやこの人。

 最初からこれが狙いでテロリストのことを話したんじゃ……。


 ニヤリ。


 静川先生が悪そうに笑っていた。

 絶対そうだ。間違いない。


「……しょうがないですね」


 静川先生にハメられた結果、授業中に俺は十六回詠唱をし続けたが、結局、魔法が発動することは一度もなかった。


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