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魔導学校の悪魔使い  作者: ヒロ
第三章
35/42

『7』

 それから数日が経ち、その間にも『対悪魔特務機関』は学校周辺の悪魔を倒していた。

 まあいつものことながら、活躍しているのは結衣と織城先輩だけで、特に俺は何もしていないのだが。


「げっ!」


 昼休みを迎え、屋上へ向かうべく廊下を進んでいたら不運にも、静川先生と遭遇してしまった。


「植村じゃないか。なんだその嫌そうな顔は」

「そ、そんな顔してませんよ。嬉しくて顔が引きつってるんです」

「嬉しかったら顔は引きつらないがな」


 正しいツッコミを頂戴したのち、静川先生から依頼の話をされた。


「そういえば、お前の所属している部活が連日悪魔退治をしていると職員会議で話題に挙がっていたぞ」

「そうなんですか? じゃあ俺らすごいですね」

「そうだな。植村以外は実に見事だ。植村以外はな」

「そんなに強調しないでくださいよ。俺だってそこそこ役には立ってるんですから」

「ほう。魔法が一つも使えないお前がどう役に立つのか非常に興味があるな」

「それはもちろん応援ですよ」


 自信満々で答えてみたが、静川先生からは溜息しか聞こえなかった。

 おかしいな。つい最近見たCMでは応援の力が一番大事みたいなことを言っていたのに。


「それにしても、毎日悪魔退治だなんてそんなハードな依頼誰がしてきたんだ?」

「生徒会長ですよ。えっと……名前がたしか……」


 し、しん……しんかわ……しんだい?

 なんだっけか。


「新崎拓斗だよ」


 不意に後ろから声が聞こえた。

 振り返ると、そこにはメガネがトレードマークの生徒会長が佇んでいた。


「ひどいなぁ。人の名前を忘れないでよ」

「いや、だって一回しか聞いてないし。そもそも生徒会長って肩書きあるんだから、それで呼んでいいだろ」

「ははっ。ひどいなぁ」


 新崎は苦笑したのち、俺の奥を見据える。

 どうやら彼の視界は静川先生を捉えているよう。


「お久しぶりです静川先生」

「おう。そういえばだいぶ会っていなかったな」


 二人が視線を交わすと同時に、妙な空気が流れる。

 なんか俺、ここに居たらいけない気がする。


「そうですよ先生。あの日以来、僕と先生は一度も会っていません」


 あの日以来? 

 もしかして、新崎と先生は結構親しい間柄なのか?


「……新崎。一応聞いておくが、バカなことは考えていないよな?」


 突然、静川先生の表情が険しくなった。

 なんか先生っぽいな。俺の時は笑顔で潰しに来るのに。特に実戦形式の授業とか。


「ははっ。一体何のことを言っているのかわかりませんが、僕はバカなことなんて考えてはいませんよ。これっぽっちもね」


 そう言うと、新崎は俺の横を通り過ぎて静川先生と対峙する。


「先生。僕はこれから魔導祭の準備があるので、これで失礼します」


 一つ礼をすると、新崎はこの場を後にした。


「そういえば、あの生徒会長も魔導祭に出るのか。そりゃそうだよな。なんてったって生徒会長だし」


 とか独り言を言ったら、静川先生から何らかのリアクションがあると思っていたのに全くのゼロ。


 先ほどから難しい表情をしながら、何かを考えている。


「……先生。じゃあ俺もこれで」


 そう告げると、俺はこの場を去った。

 依然、静川先生は考え込んでいた。せめて挨拶くらいは返して欲しかったよ。





 俺たち(主に織城先輩と結衣)が日々悪魔退治を続ける中、ついに魔導祭の前日まで来た。


「いやぁ、ここまで来るのにそこそこ長い道のりだったなぁ」

「蓮人くんは何もしてないでしょ」


 隣を歩く結衣がブスッとしながら言った。

 まあ確かに御尤もな言葉だけども。


「でも、俺も頑張ったんだよ。応援とか」

「そんなのいらないよ。それよりも応援してる時間使って魔法を一つくらい覚えた方が絶対いいよ」


 連日の出動による疲労からか、結衣はややご機嫌が斜めになっている。

 今日はあんまり声を掛けない方が良さそうだな。


 魔導祭前日となった今日。

 俺と結衣は学校近辺の工事現場に来ていた。ちなみに、この前織城先輩と来た所とは別の場所だ。


「私一人でも良かったのに」

「そう言うなよ。俺も壁ぐらいにはなれるぞ」


 なんて笑いを誘ってみたが、反応なし。

 やっぱり今日はあまり話さない方がいいな。黙っておこう。


「盾には使えるかも」

「俺の使い道をそんなに真剣に考えないでくれ」


 盾なんかに使われたら、俺が死んじゃう。


「ふふっ冗談だよ。そんなに心配しないで」

「そうか。ならよかった」

「……たぶん」


 ちょっと結衣さん。

 小声でいま危険な言葉を口にしてたよ。あわよくば、みたいな考え方はやめようね。


 なんて思っていると、突然幾多ものガイコツが現れた。


 スケルトン。

 ランクCの激弱な悪魔だ。正直、魔法なしでも倒せる人には倒せる。


「出てきたね。蓮人くん離れてて」

「ほいほい」


 いつものように俺は安全圏まで距離を取る。

 もう完全に観戦者だ。


『妾も殺したいのう……』


 不意にリリスの声が響いた。


(お前は戦闘が起こる度に、それを言わなきゃ気が済まないのか?)


 勘弁して欲しい。

 何度も言っているが、リリスが顕現しているところを誰かに見られたら監獄行きなんだよ。


 なんてやり取りを交わしていると、いつの間にか結衣が詠唱を唱えていた。


「我が魔の力を以て、悪なる魂に、水の砲弾を撃ち放て――《水砲弾(ウォーターカノン)》」


 結衣の目前に魔法陣が顕れると、それは青い光を発生させながら砲台を出現させる。


「ガイコツさんを撃って」


 指示を与えると、砲台はガイコツの群衆に向かって、三発ほど砲撃を繰り返した。


 撃ち出された弾は、半径一メートルほどの球体。水で作られていた。


 砲撃は見事全てのスケルトンに命中し、部位ごとにバラバラになる。

 これにて魔導祭前夜の依頼が完了した。


「あっという間だったな」


 まあスケルトンだし、結衣にとっては楽勝だったのか。


「蓮人くんはまだ近づかないでね。まだ封印魔法をかけてないから」


 そう忠告すると、結衣は詠唱に入った。


「我が魔の力を以て、闇を作りし者に、聖なる言霊を与え給え――《浄化(パージ)》」


 詠唱を唱え終えた瞬間、バラバラになったスケルトンの死体の下に魔法陣が出現した。

 それが青白い光を放つと、全てのスケルトンの死体は幾多もの光粒へと変化し、魔法陣と共に消滅した。


「さすが《封印(シールド)》担当だな。封印魔法は得意分野か」


 いま何気なく結衣は複数の死体を一気に封印したが、そんなに簡単なことではない。

 プロの魔導士でも十体以上の魔物の封印となれば、限られた者しかできない。


「さて、じゃあ帰るか」

「ちょっと蓮人くん。働いたのは私だよ。なんで先に戻ろうとするのさ」

「だって、もうやることないだろ」

「そ、それはそうだけど……お疲れ様とか、そういうことは言ってくれないの?」

「お疲れ。頑張ったな」


 適当に言うと、ポカリと頭を叩かれた。

 ひどい。そっちから言ってきたことなのに。


「織城先輩は大丈夫かな?」

「心配いらないだろ。あの人、かなり強いし」


 ぶっちゃけ、今から魔導省に入っても十分プロの魔導士と渡り合える。


「そうかなぁ。でも、一応連絡を――っ!」


 突然、後方から気配を感じた。

 すぐに振り返ると、既に何かが目の前まで接近しており、俺たちは全く回避できずそれに直撃した。


「ぐはっ!」


 吹っ飛ばされた身体は地面へと叩きつけられると、急な嘔吐感に襲われた。気持ち悪い。


「く、くそっ。魔物はもういないんじゃなかったのか」


 徐に痛めた身体を起こすと、目の前には外灯に照らされた、黒い龍。


「チッ、なんでこんなやつがいるんだよ」


 ブラックドラゴン。

 体長は三メートルほど。全身は黒く硬い皮膚で覆われている。

 ちなみにこいつのランクAの悪魔だ。


「……おい、大丈夫か?」


 横で倒れている結衣に訊ねる。

 返事はないが、呼吸はしているし、傷も浅い。死んではいないようだ。


「だが、どうする」


 結衣の戦えないとなると、このまま逃げるしか選択肢がなくなるが。


『我が主よ。妾はあいつが殺したいぞ』


 不意にリリスから殺しの要望が入った。


(リリス。今はそんな冗談を言ってる場合じゃねぇんだよ)


 緊急事態なんだ。

 悪魔を相手にしている場合じゃない。


『じゃが、このままこいつを放置してしまったら、民間人に被害が出るぞ。それでもいいのか?』


(ぐっ……そ、それはだな……)


 嫌なことを言いやがる。

 どうせ自分が悪魔を殺したいだけのくせに。彼女のあざ笑っている姿が容易に目に浮かぶ。


「……仕方ない」


 隣で横たわっている結衣の意識が戻っていないこと、周りに人影がないことを確認する。


「来い。リリス」


 そう呟いた刹那、一瞬で傍らにリリスが現れた。


『我が主よ。賢い判断じゃ』

「うるせぇ。さっさと殺すぞ」


 そう口にすると、リリスは詠唱を唱え始めた。


『我が穢れの力を以て、我が主へ、血の華を咲かせる(つるぎ)を与えよ――《殺華剣(カラドボルグ)》」


 詠唱が終了すると、バチリと音を出したのち目の前に黒い剣が現れる。


「一振りで殺す」


 武器を手にした俺に対して、咆哮を上げるブラックドラゴン。

 まずいな。このままだとすぐに人が来てしまう。


「死ね。クソトカゲ」


 剣を振り下ろすと、前方に立っているブラックドラゴンの身体が真っ二つに別れた。

 体長が大きいせいか、大量の血が溢れ出てきた。そのせいで、外灯の光を浴びている地面がおぞましいくらい真っ赤に染まっている。


『なんじゃ。味気ないのう』

「殺しに味気とかいらないんだよ。さっさと戻れ」


 そう急かすと、リリスは渋々姿を消した。

 すぐに結衣を確認すると、依然彼女は眠ったままだ。


「さて、じゃあさっさと帰ろう」


 鞄を一つずつ両肩に掛け、結衣を抱きかかえると、俺は急いでその場を後にする。


 通常、魔物は封印魔法を撃たなければこの世から消えはしない。

 しかし、殺華剣(カラドボルグ)は常に封印魔法が付与されているので、魔物に致命的なダメージを負わせることができれば、いちいち封印魔法を使わなくとも魔物の身体は勝手に消える。


『さすが妾の剣じゃな』


 リリスが自慢げに放った言葉はスルーして、俺は一人思考を巡らせていた。


 なぜあんな住宅街にランクAの悪魔が出てきたんだ。

 誰かが仕組んだのだろうか。だが、どうやって?


 そんな疑問を残したまま、俺は夜道を駆けていった。


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