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魔導学校の悪魔使い  作者: ヒロ
第三章
32/42

『4』

「本日は魔導武器を使用した実戦形式の授業を行う」


 静川先生が宣して説明を済ませると、生徒たちは各々二人一組を作って、グラウンドに散らばった。


「…………」


 俺に声を掛けてくるやつは一人もおらず。悲しい現実だ。


「植村、どうした?」


 悪い笑みを浮かべながら近寄ってきたのは静川先生だ。


「どうしたって、見ればわかりますよね。パートナーがいないんですよ」

「そうか。そりゃ困ったな」


 そう言いながら、先生はなぜ武器を二つ持っているんだろうか。


「じゃあ俺は隅っこで見学しときますね」

「ちょっと待て」


 その場を去ろうとすると、制服の首根っこを掴まれグイッと後ろに引っ張られる。苦しい。


「丁度良くここに魔導武器が二つある」


 静川先生が持っているのは、剣型と槍型の魔導武器を一本ずつ。


 偶然を装っているみたいだが、さっきからずっと持ってただろ。


「お前はどちらがいい?」

「先生とペアを組むことは決定事項なんですね」


 どうやら彼女と一戦交えなきゃいけないらしい。

 俺、死なないよな。


「じゃあ剣の方で」

「なら私はこちらにしよう」


 静川先生から剣が投げられる。

 それを受け取ると、俺は剣の形状、長さを確認する。


 長さは身長の半分ほど。刀身から柄まで鉄製で出来ており、一般の剣より若干重い。


「では始めようか」


 静川先生はいつの間にか戦闘態勢に入っていた。俺はまだ気持ちの準備が出来ていないんだが。


「いくぞ植村!」


 静川先生は真っ直ぐに突っ込んでくる。

 スピードはそこそこくらい。たぶん魔法を使っていないのだろう。要するに手加減をしてくれているのだ。


「はっ!」


 静川先生は俺の胸目掛けて槍を突きさす。

 それを俺はギリギリで交わすと、瞬時にジャンプをして後方へ下がった。


「なかなかいい動きだな」

「そりゃこれでも入学試験は通っているんで」


 この学校の入学試験には、当然実戦形式のものもある。

 そこで最低限の戦闘能力を見せなければ、この学校には入れない。

 ちなみに俺は回避能力が好成績で、それ以外は合格ラインギリギリであった。


「そうか。ならこれはどうだ」


 いつの間にか目前に先生の姿があった。

 この人魔法使ったな。ずるい。


「いくぞ!」


 そう声を上げた瞬間、彼女の持っている槍が白く輝き出す。


「我が魔の力を以て、目前の愚者へ、屈強なる光輝により滅せよ――《輝滅(アニヒレイト)》」


 詠唱を唱えた刹那、光を放っている槍が幾多にも増え、静川先生が手に持っている物以外は全て宙に浮いている。

 そして、それら全部がこちらに向かってくる。


「っ!」


 それをなんとか全て躱すと、再び後方へ下がった。


「ほう。なかなかやるな」


 静川先生は槍を構え、口元をニヤリとさせている。


「ちょっ、手加減してくださいよ」

「しているが、何か問題あるか?」


 平然とこちらを眺める静川先生。


「もっと手加減しろって言ってるんですよ。殺す気ですか」

「安心しろ。この魔導武器はレプリカだ。死にはしない」


 死ななくても大けがはすると思うんだが。


「そろそろ時間だな。では、次で最後にするとしよう」


 静川先生は校舎の壁に設置されてある時計に目をやり言った。


「ぶっちゃけ今やめてもいいと思うんですけどね」


 周りの生徒たちは既に勝敗が決して、二人でお喋りを楽しんでいた。羨ましい。


「ではいくぞ! 植村!」


 なんか完全にスイッチ入っちゃってるな、あの人。

 そんなに戦いたいなら魔導士辞めなければよかったのに。


『我が主。妾が力を貸そうか?』


 不意にリリスが心配そうに訊ねる。


(ありがたいがやめてくれ。シャレにならない。捕まる)


 だが、『魔導士殺し(マジシャン・キラー)』の彼女に悪魔の力を使って挑んだら、果たしてどのようになるのだろう。興味はある。


「我が魔の力を以て、目前の愚者へ、屈強なる光輝により滅せよ――《輝滅(アニヒレイト)》」


 さっきの魔法と同様、槍が白く輝き、一本だった槍が幾多にも増える。

 だが、それは先ほどとは比べ物にならないほどの本数。少なくとも五十本くらいはある。


「いけ!」


 静川先生の合図で、数多の槍は一斉にこちらに向かってくる。


 しかし、物凄い早さで迫ってくるそれらを、俺は自身に当たる槍だけを剣で振り落とした。


「っ!」


 静川先生は目を見開いていた。


「……お前、なかなかやるな」

「偶々ですよ。魔導武器の扱いは一応、得意分野ですから」


 そう説明しても静川先生は納得できないと言った表情をしている。


「前々から思っていたんだが、一つお前に聞きたいことがあったんだ」

「なんですか?」

「植村。お前はどうやってこの学校に入ったんだ?」


 静川先生は訝しげにこっちを見つめてくる。


「この学校の入学試験はそう簡単じゃない。なのに、座学も最下位、魔法もロクに使えないお前がどうしてここにいるんだ?」


 尤もな質問だ。

 魔導士としての才能をカケラも見えない俺が、この第二魔導学校にいるのはどう考えてもおかしい。

 職員からしたら特にそうだろう。


「それはですね、体術の試験が上位にいたことと、魔導戦のランキングがトップ5に入ったからだと思いますよ」

「ちょっと待て。今の動きを見る限り体術ならわからなくもないが、魔導戦がトップ5に入ったというのはどういうことだ?」


 再び静川先生が質問を投げると、俺は丁寧に説明する。


「あれはラッキーってやつですよ。俺が対戦する相手の魔法が毎回不発したんですよ。それで偶然体術戦になって俺が勝つ。それが何回か連続で起こったんです」


 魔法は発動しない場合が時々ある。精神的なもの、身体的ダメージによるもの、原因は様々なだが、魔導士でもそうなるケースがあるのだ。

 緊張する入学試験で、受験者がそうなってもなんらおかしくはない。


「そういえば、今年の入学試験では珍しいことが起こったと聞いていたが、もしやそれのことか」

「たぶんそうですよ」


 すると、静川先生がややニヤリとして言った。


「つまり、お前は偶々この学校に入れたということだな?」


 すごい嫌味だ。事実なんだけど、普通先生が生徒にこんなこと言うかね。


「まあそうですね」


 でもやはり本当のことだから仕方がない。

 入学試験の魔導戦、対戦相手は全員魔法が使えなくなった。

 まあうちの悪魔のせいだけど。


『なんじゃ。そうするように、妾に頼んだのは我が主じゃろう?』


 リリスが若干怒り気味に言ってきた。


(そうだが、あれはやり過ぎだな。トップ5とか。他人から見たら偶然よりも奇跡に近いぞ)


『よいではないか。ラッキーよりもミラクルの方が盛り上がるのじゃ』


(そうか? あの時、周りは不気味がってたぞ。俺と当たったら魔法が一生使えなくなるとかなんとか)


『ふっふっ。面白かったのう』


 リリスの笑い声が頭に響く。

 さすが悪魔だ。ひどい。


 その時、唐突にチャイムが鳴った。

 授業終了の合図だ。


「ということで、今日はこの辺で止めましょう。授業も終わりましたし」

「あ、あぁ。そうだな」


 静川先生は未だ難しい顔をしていた。何か疑っているのだろうか。

 しかし、入学試験で悪魔の力を使った証拠なんて何もない。心配する必要なんてないだろう。


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