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魔導学校の悪魔使い  作者: ヒロ
第三章
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『2』

「本日より私は魔法研究に入ろうと思う!」


 部室で声高らかに宣言するのは織城先輩。

 専用のレザーチェアの上に仁王立ちをしている。可愛い。


「それ俺に言う必要あります?」

「あるぞ。なぜならお前にも手伝ってもらう必要があるからな」


 なんか今聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がする。


「あの織城先輩。俺は依頼者が来た時のためにここで待機しなければならないんですけど」


 現在は結衣も魔導祭用の魔法を研究しているので、俺が織城先輩の研究の手伝いをすればこの場に残る者がいなくなって、依頼者の対応が出来なくなる。


「そうか。……なら仕方がないな」


 やや考えたのち、織城先輩が言った。

 どうやらわかって貰えたみたいだ。


「なら暫くは部活動を休止しよう」

「それはダメだろ」


 思わずツッコミを入れてしまった。

 だが、部活動休止なんて他の部活ならまだしも、『対悪魔特務機関』の場合は話が違う。


「ここに依頼しに来る人は重要な用件のケースもあるんですよ。活動休止なんて出来るわけないでしょ」


 叱責すると、織城先輩はプイッと顔を背けた。


「そんなこと知るか。私は何がなんでも蓮人と魔法研究をするぞ」


 小学生並の駄々のこね方。だけど、見た目が子供だから全く違和感がないのが驚きだ。


 そんなに一人で研究したくないのだろうか。


 俺は大きく嘆息をつくと、一つ提案をした。


「じゃあ今日だけ手伝いますよ。それでいいですよね?」

「たった一日だけだと!?」


 なんかショックを受けているけど、これ以上は譲れない。というか、今更だがなぜ部長のあんたが率先して部活を休止しようとしているんだ。


「そうです。どうします? この条件を飲んで一日手伝わせるか、駄々をこねた挙句、一回も手伝わせることができないままになるか」


 むむっ、と難しい顔をして悩んでいる織城先輩。そんなに考えることだろうか。


「いいだろう。お前の条件を受け入れる」


 織城先輩から返事がきたが、なぜ上から目線?


「そういえば、王女様の護衛の依頼はもうなくなりましたから」


 織城先輩が研究の支度を準備するのを待っている最中、そう伝えると、


「そうか。それは実に素晴らしいことだな」


 織城先輩は大きく笑った。

 この人、相当王女様のことを嫌ってたもんな。


「蓮人。準備はできたか?」

「いや、俺は別に何も持っていきませんけど」


 そもそも、研究の内容知らないし。


「よし。ではいくぞ」


 やる気満々の織城先輩が部屋を出ると、それについていくように俺は彼女のやや後ろを歩いていった。





 俺と織城先輩はグラウンドに着くと、周りには虹色の炎を出しているやつや、水で龍を作っているやつなどがいた。


 おそらく彼らも織城先輩と同じように魔法研究をしているのだろう。


 このグラウンドが魔法研究の実験場として使われることが多い。なので、魔導祭前はほとんどのスポーツ系の部活は禁止とされている。


「さてと。では始めるか」


 織城先輩はそう言うなり、持ってきたリュックサックから何かを取り出した。


「なんですかそれ」


 織城先輩の手に握られているのは鉄製の棒。長さは大体彼女の身長の半分程度か。

 それを両手に二本ずつ持っている。


「蓮人!」


 名前を呼ばれるなり、その棒をこちらに投げてきた。しかも二本同時に。


「ちょっ!」


 それをお手玉しつつ何とかキャッチすると、織城先輩からサムズアップされる。

 別に全然嬉しくない。


「で、これどうするんですか?」


 それよりも、これは一体なんだ。

 ただの鉄パイプにしか見えないんだが。


「地面に適当に刺してくれ」


 そう促され、俺は二本の棒を地面に無作為に突き刺した。


 作業が終わり、織城先輩の方を見ると彼女も残りの棒を適当に刺していた。


「よしできた」


 織城先輩は満足げな表情をしているが、俺にはさっぱりわからない。


 地面に無作為に刺された四本の鉄の棒。

 それらを線で結んでみると、台形に近いような形になる。


「なんですかこれ」


 訊ねると、織城先輩は答える代わりにこう言った。


「蓮人。あそこへ立ってくれ」


 織城先輩が示した先は鉄パイプで囲まれている部分。

 すごく嫌な予感。


「えっと、この辺で俺帰っていいですかね」

「我が魔の力を以て――」


 撤退を試みると、急に織城先輩が詠唱を唱え始めた。


「わ、わかりました! ですからこんなところで魔法を放とうとしないでください!」


 必死で言うと、織城先輩は詠唱を途中で止めた。


「ふむ。では頼むぞ蓮人」


 やけに楽しそうな顔をしているのが、また不安だ。正直、転移魔法を使えたら今すぐ使いたい気分。


「……はぁ」


 諦めるように溜息をつくと、俺は指示された場所へと移動する。

 そして、それを数分で済ませると織城先輩がいる方へ顔を向けた。


「着きましたよ!」


 やや離れていたため少し大きめの声で織城先輩に知らせる。

 すると、


「っ!」


 突然鉄製の棒が白く輝き出し、それに囲まれていた部分の地面も同色に光り始めた。

 そして次の瞬間、


「えっ」


 光を放っていた部分の地面だけが消失し、足の踏み場を失くした俺はそのまま落下した。


 四、五秒程度だろうか。


 落ち続けると、唐突に背中に衝撃が走った。


「ぐはっ!」


 どうやら第二の地面に激突したようだ。結構痛い。


「どうだ! 完璧だろう!」


 上から織城先輩の得意げな声が聞こえた。彼女までの距離は五、六メートルくらい。


「どこが完璧なんですか。これ打ち所悪かったら重傷になってたところですよ」


 あの人は俺の身体を一体何だと思ってるんだ。俺は不死身じゃないんだぞ。


「その辺は安心しろ。例え骨が折れていたとしても私が治癒魔法ですぐに治してやる」

「そういう問題じゃねぇ」


 確かに優秀な織城先輩の魔法を以てすれば絶対治るけど、そんな大けがをするようなことはやらないのが一番だろ。


「それで私の魔法はどうだった?」


 織城先輩が褒めて欲しそうな目で訊ねてくる。


「どうって言われても、正直、どういう魔法だったのか見当がつきません」


 分かることと言えば、今のが(トラップ)型の魔法だったことくらいだ。

 しかし、それがどのような原理で起動したのかはさっぱりわからん。


「そうか。では教えてやろう」


 そう言うと、織城先輩は今さっき発動させた魔法の説明を始める。


「今のは《落穴(ピットフル)》。地面に穴を作り、そこへ敵を落とし身動きを取れなくする魔法。まあ所謂落とし穴だ」


 (トラップ)型の魔法としては初級の魔法。もちろん俺は使えないが。


「そして私はその《落穴(ピットフル)》を今回の研究の対象にし、(キー)詠唱と組み合わせることを試みた」


 通常詠唱を唱える際、少なくとも第一節から第三節までを口で言わなければならない。

 だが、(キー)詠唱の場合はその必要がなくなる。なぜなら、詠唱の代わりに事前に決めておいた何かしらの動作を鍵として魔法を発動させるからだ。

 例えば、先日メイドが指を鳴らしただけで、転移魔法が発動したのは、間違いなく(キー)詠唱によるものである。


 (キー)詠唱は取得できれば、戦闘をかなり有利に進められるが、実際そう簡単にできるようになるものじゃない。

 おそらくこの学校で使えるのはごくわずかだろう。その上、(キー)詠唱で発動させられる魔法の種類は一つが限界だ。

 それを超えるとなると、魔導士の中でトップクラスの者のみだろう。


「なるほど。でも(キー)詠唱は人の動きに応じて魔法を発動させるんですよね。さっきの織城先輩は何もしていなかったように見えたんですが」

「よくぞ気づいたな!」


 不意に大声を上げる織城先輩。穴の中にめっちゃ響いてうるさい。


「今回、私は自身の動きで(キー)詠唱をしたわけではないのだ」

「というと?」

「蓮人の動きを(キー)詠唱として使わせて貰った」


 ビシッと指をさす織城先輩。もう少しでスカートの下が覗けそうだ。


「俺、ですか?」

「あぁ。お前が囲まれた鉄の棒の中に入り、数秒経つと自動的に魔法が発動するようにしておいた」


 なるほど。

 彼女は俺、というよりは第三者の動きを鍵にして魔法を発動させたらしい。


 つまり今回の場合、何者かが四本の鉄製の棒で囲まれた部分に入り、そのまま一定時間経つことを❘キー詠唱とした魔法だったということだ。


「それはすごいですね」

「そうだろう。そうだろう」


 すごい胸を張っている。よほど嬉しいのだろう。まな板が目立っているが。


 でもこれは本当にすごいことだ。

 (キー)詠唱のニューバージョンを作ったんだからな。織城先輩を最高に褒めるべきだろう。

 だが、その前にやらなければならないことが一つある。


「あの、織城先輩」

「なんだ?」

「ここから出してください」


 正直、魔法の説明をするより、こっちを先にやって欲しかった。


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