表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導学校の悪魔使い  作者: ヒロ
第一章
3/42

『2』

 男子生徒から提出された依頼書を元に、学校から目的地へと移動すること約三十分。


 ようやく、悪魔のいる墓苑へと到着した。


 ちなみに、ここまで来るのに魔法は一切使っていない。


 本来ならば、足に魔力を集中させて、一時的に走る速度を上げる魔法とかで、移動時間を短くするべきなのだが、うちの部はそれができない。

 何故なら、ここには曲がりなりにも魔導士を目指しているのに、魔法が使えないという愚か者がいるからだ。

 そして、その者は確実に他の二人の足を引っ張っている。


 では、それは一体誰か。

 もちろん俺だ。


「蓮人! 少しはマシになったかと思ったが、お前はまだ基礎魔法すらできないのか」

「……すいません」


 着いて早々、俺は織城先輩から説教を食らっていた。

 ロリっ子からのお叱りは、これで通算五回目だ。


「いいか蓮人。前々から言ってはいるが、お前は魔導士に向いているんだ。だから、せめて少しくらいは努力をしろ」

「はぁ」


 魔力量が学年最下位の俺のどんな所が魔導士に向いているのだろう。

 自分で知る限りは、静川先生に二回、自主退学を勧められるくらい魔導士には向いているということくらい。


「なんだその気のない返事は。……よし、わかった。ならば、こうしよう。明日からは私がお前に魔法を教えてやる」

「織城先輩が、ですか?」

「なんだ不満か?」

「いいえ。そんなことは……」


 そんなことはない。だが、誰に魔法を教えられたとしても結果は見えている。

 ただ時間を無駄にするだけだ。


「そうか。なら決まりだな」


 なんてことはとても言えないので、織城先輩の言葉に、俺は「はい」と返すしかなかった。


「あの……織城先輩。そろそろ、こっちの方を手伝ってもらっていいですか?」


 やや離れたところから、結衣が遠慮気味に訊ねた。


 俺が説教をされている間、彼女は織城先輩の指示で悪魔を探してもらっていたのだが、どうやら諦めて戻ってきたようだ。


「待たせて悪かったな。さて、今度こそ仕事に取り掛かろう」


 そう言って、織城先輩は制服のポケットから正方形の紙を一枚取り出す。

 大きさは縦横九センチ程度で、何も書かれていない白紙だ。


「それ、なんですか?」

「これか? これは魔紙(まし)と言って、範囲に限度はあるが、悪魔の位置を示してくれる物だよ」

「へぇ、それは便利ですね」

「そうだな。だが、これは一年の()(どう)()の授業で最初に習うはずなんだが、お前は習っていないのか?」

「…………」


 言えない。その日、寝坊したから学校行く気なくなって、全部の授業丸々サボったなんて言えない。


「織城先輩。そんな物を持っているんだったら、私一人で悪魔を探す必要はなかったんじゃ……」

「よし、蓮人。今から魔紙(まし)の使ってやるから、しっかりと見て覚えるんだぞ」


 結衣の追及をスルーすると、織城先輩は魔紙(まし)とやらを手の平に乗せる。


「我が魔の力を以て、正しき方向を示せ」


 短い詠唱を終えると、突然魔紙(まし)の真上に紙と同サイズの小さな炎が出現する。


 青くて綺麗だが、あれでどうやって悪魔の位置を割り出すのか。


「いいか蓮人。この炎は私の魔力で作られたものだ。そして、これがなびいている方向に悪魔がいる」

「な、なるほど」


 怪訝な目で見ていたせいか、丁寧に説明された。


「今は南東方向を指しているので……あっちですね」


 結衣が覗き見て確認すると、炎が示す方向に指をさした。


「正解だ、結衣。お前は本当優秀だな、どっかの蓮人とは違って」

「どこの蓮人くんですかね、それ。ちなみに、俺はジョナサン・ハウナーって名前なんで、当てはまらないですけど」


 織城先輩からの嫌味にそう返すと、彼女はクスッと小さく笑った。


「じゃあ、そろそろ悪魔を退治するとしようか」


 不意に、辺りが輝き出す。

 下に目をやると、織城先輩を囲むようにして、幾つもの魔法陣が並んでいた。


「我が魔の力を以て、穢れし魂に、雷鳴の裁きを与えよ――《雷撃(ライトニング)》!」


 詠唱を終えたと同時に、全ての魔法陣から雷が飛び出し、先ほど魔紙(まし)が示した所へと向かっていく。


 すると、ややあってから生き物の悲鳴のような叫びが聞こえた。


「二人とも、構えろ」


 織城先輩の指示が出た。


「構えろって?」

「蓮人くん! そんなぼーっと立ってたら危ないよ!」


 結衣から注意を受けるが、俺にはなんのことだかサッパリだ。

 構える? 結衣と織城先輩のように腰を低くすればいいのだろうか。

 でも、あの体勢疲れそうだしな。

 そもそも、なんで俺があんなことしなきゃいけないのか分からないし。


「来るぞ!」


 織城先輩が声を上げると、場に緊張感が走る。



「…………」



 なんだろう、この空気。

 どう考えても、俺だけがついていけていない気がする。

 なんて思っていたら――。


「ギャアアアアァァァ!!!!」


 突然、暗闇の中から何かが出てきた。

 そして、それは一直線に俺の方へと向かってくる。


「ぐへっ!」


 顔面に直撃した。

 一瞬、鼻が折れたんじゃないかというくらいの衝撃。今までの人生でトップ5に入るくらい痛い。


「大丈夫か、蓮人!」


 俺が悶えている中、織城先輩が駆け寄ってくる。


「どうやら、鼻血が出ているようだな」


 そう言われ、顔を押さえていた手の平を確認すると、赤黒い血が付いていた。


「なんで俺がこんな目に……」

「だから言っただろう、構えろと。今、お前を攻撃してきたのが、今回の殲滅対象である、ゴブリンだ」


 織城先輩が移した視線の先には、両腕から血を流しているゴブリンの姿があった。


 ギャア、と明らかに威嚇と思われる咆哮。

 織城先輩の魔法で弱っているはずなんだが、それでもまだ戦闘をやる気のようだ。


「蓮人。お前はここで休んでいろ」

「へいへい。言われなくても、いつも通りそうしますよ」

「おい、蓮人! 『へい』は一回だ!」

「へい」


 っていうか、『へい』はいいのね。


「おい、そこのチビ悪魔。よくも私の部下を負傷させてくれたな」


 ゴブリン相手に声高らかに叫ぶ織城先輩。


 いつから、俺があんたの部下になったのだろうか。あと、夜だし、住宅街だし、迷惑になるから声を抑えようね、ロリっ子先輩。


「貴様には今から天罰を与えてやる」


 織城先輩の真上に魔法陣が出現。

 円形のそれは黄金色に煌めき、地上にいる俺たちを照らす。


「我が魔の力を以て、邪なる存在に、雷の鉄槌を下せ――《雷明(ハイボルト)》」


 バチリと音を立てて、帯状の光が魔法陣の中央から放たれた。数本の光帯はゴブリンの胸元目がけて一直線に進む。


 異変に気付いたゴブリンは即、回避行動に出るが、時すでに遅し。


 胸は綺麗に貫かれ、串刺し状態。

 そこからあり得ないくらいの血が噴き出ていた。


「さすがですね」

「ハハ、まあこんなもんだろう」


 ゴブリンを倒し、織城先輩はご機嫌だ。


「織城先輩、まだ終わってませんよ。ここからは私の仕事です」


 そこに釘を刺すと、結衣はゴブリンの死体の前へ移動する。


 結衣の言った通り、ゴブリンを殺しても『悪魔退治』はまだ終わりではない。


 悪魔はたとえ心臓を貫いたとしても、頭を潰したとしても、死にはしない。

 いや、正確には死んでも、再び蘇るのだ。


 悪魔の身体は、再生能力が異常に高い。それゆえ、どれだけ傷をつけたところで数分もすれば回復してしまうだろう。


 そこで、必要なのが『封印魔法』だ。


 『封印魔法』とは、悪魔の穢れた魂を清め、天へ返す、みたいな魔法らしい。


 その『封印魔法』を弱った悪魔に放つと、悪魔は消え、二度とこの世に出てくることはない。


 ここまでして、やっと『悪魔退治』が完遂されるのだ。


 少し余談だが、元来、魔導士が悪魔と対峙する際、三人組(スリーマンセル)を組むことが必須である。


 悪魔の体力を削る《攻撃(アタック)》。

 《攻撃》の手助けをする《補助(サポート)》。

 悪魔を消滅させる《封印(シールド)》。


 この三つの役割を三人で分担する。


 ちなみに、俺たちの場合。

 織城先輩→《攻撃(アタック)》。

 結衣→《封印(シールド)》。

 俺→《役立たず》


 これが俺たちの布陣だ。

 何かおかしいと思った人がいるなら、それは勘違いだから安心してほしい。


「我が魔の力を以て、闇を作りし者に、聖なる言霊を与え給え――《浄化(パージ)》」


 詠唱が終わると、ゴブリンの死体の下に魔法陣が現れ、青白い光を放つ。

 すると、その輝きが一気に増し、光がゴブリンを包むと、そのまま魔法陣と共に消滅した。


「よくやった結衣」

「これくらい大したことないですよ」


 依頼達成を喜び合う二人。

 いいなぁ、俺もあんな風に魔法使って悪魔退治したいなぁ、なんてことは微塵も思わない。


 結局、今日も鼻血ブーしただけで、何一つ貢献していない。

 これ、俺来た意味あった?


「今日も凄まじいくらいの役立たずだったな。蓮人」

「織城先輩には人の心はないんですか。それとも、俺が何言っても傷つかないサイボーグにでも見えるんですかね」


 知らぬうちに、面前まで近づいていた織城先輩にそう返す。


「ハハ、半分冗談じゃないか」

「半分は、ほんとなのかよ……」


 なんてやり取りを交わしていると、直と織城先輩の頬に僅かな亀裂が入る。


「織城先輩!」

「そう喚くな、平気だよ。少し切れただけだ」


 彼女の言う通り、傷は浅く大事にはならなそうだ。

 跡が残らなければいいが。


「ハハ、お前をからかい過ぎたかな。どうやら私は蓮人の飼い犬に噛まれたようだ」

「……すいません」

「別に謝らなくていい。お前が悪いわけじゃないんだから。……さてと、そろそろ帰るぞ」


 そう言って、織城先輩が帰路につくと、俺と結衣もそれに続いた。


「…………」


 よく考えたら、墓の間を歩くのは何年振りだろう。


 あれから何年経ったのだろうか。


『五年じゃよ。我が主』


 どこからか聞こえたそんな声が、頭の中に響いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ