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魔導学校の悪魔使い  作者: ヒロ
第三章
29/42

『1』

支度を整え、自宅を出ると扉の前にメイドの姿があった。


「ご機嫌よう」

「お前、なんでここにいるんだよ」


 そもそも何故うちのことを知っているんだか。


「そんなに睨まないでください。私はただ報告しに来ただけですから」

「報告?」


 聞き返すと、「はい」と返すメイド。


「エレナお嬢様の護衛はもういりません。これからは私がいますから」

「そうかよ」


 今までの件は俺の悪魔使いとしての実力を測るために、全てこいつが仕組んだことだからな。

 そして、目的を果たしたいま、俺たちが護衛をやる意味がなくなり、メイドは王女様を守ることができるということか。

 

 だが、彼女は本気で王女様を守る気があるのだろうか。王女様を幾度も危険な目に遭わせたのはメイド本人だというのに。


「また、エレナお嬢様はあなたのことを魔導省には知らせないようです」

「ほう。それはいい情報だ」


 魔導省。

 各エリアに設置されている国家防衛機関で、様々な魔導士が属している。


 現在ではこの魔導省こそが、今は廃止された警察や自衛隊の代わりとなっている。


「でも、またなんでだ?」


 王女様は悪魔もその悪魔を使役する悪魔使いも恨んでいるはずだが。


「それはあなたが知らなくてもよいことです」

「なんだよそれ」


 とか文句を言ってみるが、俺もあまり理由はどうでもいい。

 もし王女様が魔導省にバラすつもりだったとしても、その時は記憶を消せばいいだけだ。


「まあ王女様が魔導省に訴えたところで意味はないですけどね」

「どういうことだ?」


 訊ねると、メイドは一拍置いたのち話し出した。


「依然言いましたが、私はある方の指示によりあなたを監視しています。そして、私のようなある方の命によって動いている方々は幾多もいます」


 淡々と語るメイド。

 その振る舞いはまるでロボットみたいだ。


「話がいまいち掴めないんだが、もしや魔導省にそのある方とやらを慕うバカがいるとか言うんじゃないんだろうな」

「その通りです」


 その時、メイドが微かに笑った気がした。


「おいおい。冗談にもなってねぇぞ」


 国を守る機関に、そんなテロリストかもわからないような得体の知れない人間がいるだなんて。


「冗談ではありません。その証拠にあなたがエレナお嬢様と魔導戦をした際、なぜあのスキンヘッドが簡単に魔導学校に侵入できたと思いますか?」


 確かに。魔導学校の職員は全員が元魔導士だ。それゆえ、部外者が入ってきたとしても魔力を察知され、すぐに気づかれるはず。

 ならあのハゲは……。


「簡単なことです。魔導学校にもある方のしもべであり、私の同志が存在します。あの時はメガネの女性が協力してくれました」


 メガネ――魔導戦の監視役だったやつのことだろう。先日、メイドと会話を交わしていたようだったし。


「そして、そのような方々は世界中のあらゆる機関、組織に属しています。当然、魔導省にも」


 つまり、たった一人の思想に毒されたやつらが世界各地でスパイ活動をやっているということか。


「お前、いやお前らイカれてるな」

「あなたほどではありません」


 平然と言い返すメイド。

 いちいちムカつくやつだ。


「では私はこれで」


 そう言うと、メイドの足元に魔法陣が現れる。


「ちょっと待て。一つ聞きたいことがある」

「なんですか?」


 魔法陣に足を踏み入れる直前、メイドが振り向いた。


「お前のことを魔導省に告げたらどうなるんだ?」

「ただの戯言として処理されるだけですよ」


 そう返すと、メイドは閃光に包まれ消失した。





「えぇー。これから二週間後に行われる魔導祭について説明する。しっかりと聞いておくように」


 朝の教室、静川先生が教卓の前で宣すると、周りのクラスメイトがざわつき出す。


 魔導祭。

 魔導学校の生徒たちによって、年に一度だけ行われるビッグイベントである。

 内容としては、学年別の成績上位者がこのために研究してきた自らの魔法を披露するというものだ。

 そこで優秀な結果を出せれば、魔導省にスカウトされ、将来を約束される可能性だってある。

 魔導士を目指す者としてはこれほど重要なイベントは他にないだろう。


「ということだ。わかったか?」


 魔導祭の説明を終えた静川先生は皆に訊ねる。


「特に植村」

「先生、嫌味ですか。俺は魔導祭には出場しませんが。というか出来ませんが」


 なぜなら成績最底辺だから。

 インテリとイケメンが勝つこの世界。滅びろ。


「はは、そうだったな」

「笑い事じゃないですよ」


 あとクラスに友達がいない俺に話しかけないで欲しい。

 向けられる視線のアウェー感がやばい。


「えっと、うちから魔導祭に出場する生徒は……誰だったか」

「…………」


 こんな成績の低い俺より、そっちの名前を覚えてあげろよ。

 なんてことを心底思った俺だった。






 昼休み。屋上で昼食を摂っていた俺だったが、本日はいつも隣にいるはずの結衣がいなかった。

 ぼっちで食べるというのは意外と寂しいものだ。


「今日は一人なのですか?」


 不意に上からの声。

 見上げるとそこには王女様が立っていた。


「あぁ。そうだが」

「あの可愛らしい女性の方はいませんのね」


 結衣のことを言っているのだろう。

 可愛らしいかは疑問だが。


「あいつは魔導祭に出す魔法の研究をしているんだよ」


 結衣はクラスの選抜として魔導祭に出場することが決まっている。

 そりゃそうだろうな。成績が上から二番目なんだから。


「なるほど」


 そう言うが、王女様は突っ立ったまま動かない。それに加え、じっとこちらを眺めていた。


「なんだよ。またどけっていうのか?」

「いいえ。そういうわけではありませんが……」


 なんだ。違うのか。

 ならなぜ彼女は一体何がしたいんだろう。


「あ、あの……隣よろしいですか?」


 やや経った後、王女様が訊いてきた。


「隣って、俺のか?」

「……は、はい」


 いきなりどうしたのだろう。

 顔も真っ赤だし、体調が悪いんじゃないのだろうか。


「お前、保健室に行った方がいいんじゃないか?」

「べ、別にわたくしはどこも悪くありません!」


 すごい怒られた。

 せっかく心配してやったのに。


「そうか。ならいいが」


 そう言って、俺はベンチの端に寄り、一人分座れるようなスペースを作る。


「えっ」

「なに驚いてんだよ。お前が座るって言ったんだろ」


 ぶっちゃけ一人で食うの暇だし、話し相手がいた方が寂しさも紛れるというものだ。

 例えそれがどんなに話しがかみ合わない相手だとしても。


「し、失礼します」


 徐に腰を下ろすと、王女様の手元に弁当箱が見えた。


「王女様なのに弁当なのか?」


 そう質すと、王女様の表情がムッとなる。


「なんですかその質問は。今のわたくしは学生なのですよ。あなた方と同じです」

「そ、そうか」


 俺らと同じなら他の生徒のことを愚民とか言わないと思うんだがな。


 王女様が弁当箱を開けると、その中に入っていたのは意外にも普通のおかずだった。


 からあげ、卵焼き、プチトマト等々。


 てっきりキャビアだのフォアグラだの頭のおかしいラインナップが並ぶと思っていたが、違ったようだ。


「あんまりじろじろ見ないでいただけますか」


 そう言うと、卵焼きをパクッと口に運ぶ。


「それお前が作ったのか?」

「…………」


 おう。これはたぶんあのメイドが作った感じだな。


「そういうあなたは毎回そんな食事なのですか?」


 王女様の視線の先には、俺の手元にある焼きそばパン。


「あぁそうだが」

「そんな食事を続けていると、身体を壊しますよ」

「そうかもな」


 なんだこの会話は。

 お前は俺のオカンか。


「で、ですから……」


 王女様が差し出してきたのは、今日の彼女の弁当の中にある卵焼き。


「なんだこれは」

「ほ、欲しいでしょう。自身の健康のためにも」

「…………」


 身体を気遣ってくれるなら、卵焼きのお隣さんのプチトマトの方が欲しいんだが。


「も、もしや、いらないのですか?」

「いや、そういうわけじゃないんだが」

「な、なら早く食べてください!」


 なぜ俺が急かされているのだろう。

 食べたいなんて一言も言ってないのに。


「わかったよ」


 仕方がなく、俺は彼女の箸につままれた卵焼きをパクリと食べた。


「普通に美味いな」


 感想を述べると、なぜか王女様の顔が赤くなっていた。


「どうした?」

「べ、別に。そう言っていただけて何よりです」


 そう答える王女様は明後日の方向を向いていた。ホントにどうした。


「でも、さすがメイドが作っただけあるな」

「…………」


 おかしい。今度はジト目で見られている。

 変な事でも言っただろうか。


「……はぁ。まあいいです」


 呆れるように溜息をつくと、再び王女様は弁当を食べ進めていく。


「そういや、俺のこと魔導省に言わないんだってな」

「っ! なぜそのことを知っているのですか? まさかべティーナが?」


 驚いている王女様に対し、頷いて返す。


「あぁ。だがなぜだ? お前は悪魔を憎んでいるはずだろう」

「それは……」


 言葉を詰まらせる王女様。

 その少し後、彼女はこう答えた。


「あなたには借りがありますから。そんなわたくしがあなたを告発する資格はありません」

「借り、ね」


 ハゲと戦ったときに、彼女を助けたことを言っているのだろう。

 この王女様、責任感強そうだもんな。


「それにべティーナは蓮人が悪魔使いだという証拠はないと言っていましたし」

「ハハ、それは騙されてるな」


 そんなやり取りをしつつ、俺はあることに気づいた。


「俺はもう愚民じゃないのか?」

「えっ」


 それに王女様はやや硬直する。


「いま名前で呼ばなかったか?」

「え、えぇ、呼びました。そうですね。あなたは特別に名前で呼んであげましょう」

「そこでなぜ上からになるのかはわからないが、これで俺も一つ昇格したわけだな」


 なんて言いながら笑っていると、突然、王女様が立ち上がった。


「わ、わたくしはこれで失礼します!」


 それだけ言い残すと、王女様は戻っていってしまった。


「急にどうしたんだあいつ」


 それにしても顔がまた赤くなっていたな。今日はそんなに暑くないはずだが。


『……はぁ』


 不意に悪魔の溜息が聞こえた。


「…………」


 ってそれだけですか、リリスさん!?


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