『プロローグ』
「くそっ!」
とある一室。少年は一人叫ぶと、苛立ちをぶつけるように分厚い本を机に叩きつけた。
「あと少し、もう少しで完成するというのに」
拳を握りしめる彼の頭の中には一人の人物が浮かぶ。
「あの女、あいつのせいで僕は……」
少年は呟くと今度は拳を机にぶつける。
「あなた、その方を憎んでいるのですか?」
不意にどこからともなく女性の声が耳に響く。
「誰だ!」
振り返ると、少年は辺りを見回す。しかし、人らしき者はどこにもいない。
「なんだ?」
その現象に不可解に思っていると、唐突に少年の目の前に逆さまの女性の顔が現れた。
「うわっ!」
腰を抜かして驚く少年に、クスクスと笑う女。特徴的な銀髪だ。
「な、なんだお前は!」
「私ですか? 私はレミ・シェイルと言います。以後お見知りおきを」
姿勢を直し、レミは軽く頭を下げると、話を続けた。
「それで、あなたはその女を憎んでいますか?」
「なんのことだ?」
少年が問い返すと、レミは小さく笑う。
「さっき言ってたでしょう。あいつのせいで、みたいなことを」
それで、少年はようやく先ほどのレミの言葉を理解すると、首を縦に振った。
「あぁ。僕は憎んでいるさ。僕をバカにしたあの女をな」
少年の答えに、レミは恍惚とした表情に変わる。
「いいですね、その顔。人間らしいです」
それに続けてレミは少年に向かって言った。
「では、その女殺してしまいましょうか」
「えっ」
突然の発言に少年は驚く。
「こ、殺すなんて。さすがにそこまでは……」
急にオドオドし出す少年に、レミは大きく嘆息をつく。
(これだから人間は……)
「それに僕があの女を殺すことなんて……」
「できます」
そう断言すると、レミは自身の胸に手を当て少年に問うた。
「私と契約をしませんか?」




