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魔導学校の悪魔使い  作者: ヒロ
第二章
27/42

『エピローグ』

「べティーナ。話があります」


 べティーナがホテルの部屋に戻るなり、エレナが言った。


「なんでしょうか?」

「あなたはなぜあの場所にいたのですか?」


 あの場所――東京湾第三倉庫のことだろう。

 エレナは疑うような目を向けていた。


「それは蓮人さんから連絡を頂きましたので。エレナお嬢様が連れ去られたと」


 べティーナは慌てることもなく、冷静に嘘を吐く。


「あの方が?」

「はい」


 べティーナの答えに、エレナはやや考えたのち、再び訊ねた。


「では、なぜあなたは彼に魔法を撃ったのです?」


 エレナの言う通り、べティーナは倉庫内に現れる際、蓮人に魔法を放って攻撃していた。

 それも直撃したら重傷は免れないほどの魔法だ。


「それは彼があなたの記憶を消そうとしていたからです」

「だから、蓮人に魔法を撃ったと?」

「はい。エレナお嬢様を守るのが私の仕事ですから」


 普段全くエレナに干渉しないべティーナらしからぬ発言。


「そうですか」


 しかし、エレナは違和感を持つこともなく納得した。

 彼女はあまり人に興味がないため、カンというものに関しては相当鈍い。


「ところでエレナお嬢様。一つお聞きしたいことがあるのですが」

「なんですか?」

「蓮人さんのことは、名前で呼ぶようにしたのですね」

「っ!」


 べティーナの言葉にエレナは顔を真っ赤にさせる。


「珍しいですね。普段、王族の関係者以外は人の名前を覚えようとしないあなたがただの魔導士候補生の名を口にするなんて」

「べ、別にわたくしの勝手でしょう。それに彼はやや人と違う面があるのです。ですから少し気になっただけです」


 蓮人は言っていた。家族が全員殺されたと。


 エレナはそれを聞いた瞬間、彼には申し訳ないがほんの少しだけほっとしてしまったのだ。

 自分と同じ悲しみを知っている人がいるのだと。


 しかし、すぐ直後にエレナはそんな風に思った自分を嫌悪した。

 まだ父親が残っている自分に対して、蓮人は家族がすでにいないのだ。一人たりとも。


 それはエレナが想像する以上に苦しく、つらいものだろう。


 だが、そんな彼だからエレナは理解したいと思っていた。植村蓮人という男を。

 自分よりも遥かに苦悶の中に立たされながらも尚生きている彼を。


「そうでしたね。彼は普通ではありませんでした」


 エレナの言葉に同調すると、続けて話した。


「蓮人さんは悪魔使いですから」


 一瞬時が止まったような静寂。

 やや経ったのち、エレナが口を開いた。


「そうですね」

「いいのですか? 通報をしたいのでしたら私が致しますが」


 べティーナが携帯を手にすると、エレナはそれを手で制す。


「やめなさい」

「なぜですか? エレナお嬢様の母――アメリア様は悪魔に殺されたのですよ。そんなのを使役する悪魔使いを放っておくのですか?」

「そ、それは……」


 エレナは何も返すことができなかった。なぜなら、彼女は次期王女となる者。そんな彼女が法に反している者を放置しておくなんてことはしていいはずがない。


 すると、不意にべティーナが微笑を浮かべた。


「冗談ですよ。そもそも彼が悪魔使いという証拠もありませんし」


 べティーナの言葉に驚き、エレナは彼女に目を向けると、


「もしかしたらあの小さい女の子は彼の魔力を使い趣味で作ったという可能性もあります。なので通報するにしてもまだ早いです」


 ベティーナの考えにはかなり無理があったが、それはつまり彼女が魔導士に蓮人のことをバラすつもりはないと言っていることを示唆していた。


「そ、そうですね。きっとあれは魔力で作った者だと思います」


 その意見にエレナが思い切り乗ると、そこで蓮人についての話は終わった。


(可愛い)


 頑張って誤魔化すエレナにそんなことを思ったべティーナだった。





 もう一時間は経っただろうか。

 メイドに置いてかれたせいで家まで歩くことになったが、これが想像以上につらい。


 普段、運動を全くしない俺にとって長時間歩くという行為はもう拷問と同じだ。


『我が主よ。妾の魔法は必要か?』


 不意にリリスの声が響いた。


(いやいらねぇよ)


『じゃが……』


(いらねって。最近、魔力使いまくって疲れたろ。こんな時くらい休め)


 ハゲ、銀髪男。

 ここ数日で結構リリスの魔力を消費してしまった。

 悪魔の魔力は人より多いとはいえ、休養させないと枯渇する。


 俺の言うことに従ったのか、そこから暫くリリスの声は聞こえなかった。


 そして、帰路が残り半分に差し掛かった時に突然リリスの声が響いた。


『我が主。我が主はあの小娘が悪魔に対するように、妾のことを恨んでおるか?』


 彼女の声はやけに寂しげに聞こえた。しかし、それに俺は何も答えずにひたすら歩く。


『恨んでおるのじゃろうな。だって、我が主の家族を殺したのは妾なのじゃから』


 そうだ。

 五年前、リリスは俺の家族を全員殺した。

 それも全て即死レベルの魔法で。


『謝罪をしても許しを貰えるとは思っておらん。じゃが妾は……』


(なにブツブツ言ってんだよ)


 リリスの話を途中で止めると、俺は続けて話した。


(確かに、お前は俺の家族を殺した。だが、それはお前が誰かの指示によってやらされたことだ)


 リリスは俺と契約する以前に、もう一人契約を交わした人物がいた。

 そして、そいつが俺の家族を殺すようリリスに命令したのだ。


(お前を全く恨んでないって言ったら嘘にはなる。だが、家族を殺そうと考えたやつはリリスを使役していた悪魔使いなのも事実だ。お前だけを恨むのは少し違う)


『じゃ、じゃが、もしかしたら妾は喜んで我が主の家族を殺したかもしれないのじゃぞ』


(そんなことわからないだろ。お前は記憶の一部が消されてるんだから)


 リリスの記憶には欠けている部分がある。

 それは前の悪魔使いと過ごした日々の記憶ほぼ全てだ。

 そして、それをやったのは前の悪魔使いである。


『じゃが、妾は覚えておる。妾が我が主の家族を殺したことを、しっかりと』


 本来なら、その悪魔使いはリリスの記憶を全部消すつもりだったのだろう。

 しかし、リリスは悪魔の中でも相当高等な悪魔だったため、そうはできなかったようだ。


 悪魔使いの指示で家族を殺したこと、悪魔使いが記憶を消そうとしたことはかろうじてまだ頭の中に残っている。


『妾は……妾は……』


 いつものリリスとは思えないほどの震えた声。それだけに契約者としては腹が立つ。


(いいかリリス。俺はお前と契約を交わしたんだ。色んなことを全部ひっくるめてな。これの意味が分かるか?)


 そう問うと、リリスの弱々しい声は止まった。


「それに約束したじゃないか。お前の記憶を消し、俺の家族を殺したクソ野郎をぶっ殺すってな」


 笑い交じりに言い放つと、くすくすと小さな声が聞こえてきた。


『そうじゃった、そうじゃったのう。落ち込むなど妾らしくもない。妾は我が主と共に顔もわからぬ契約者を殺すのじゃ』


(あぁ、そうだ。そして、そのついでに)


 言葉の途中で、急にリリスが出現した。

 そのすぐ後、彼女は二カッと笑って言った。


『この世に生きる全ての悪魔使いを殺す、じゃろ?』


 それは悪魔とは思えないほど綺麗な笑みだった。


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