『10』
「お前さん、悪魔使いだったのか」
数十体の死体に囲まれる中、ネスタはリリスを一瞥するなり言った。
「あぁ。そうだ」
そう答えると、ネスタは顎に手を当て、興味深そうにこちらを眺める。
「なるほど。君もあのビルドと一緒ってわけかい」
ビルド――ハゲゴリラも確かそんな名前だったな。
「お前、あのハゲと知り合いなのか?」
「まあね。同じ組織にいるから話しくらいはしたことはあるよ」
今の発言からすると、ハゲにしてもこいつにしてもテロリスト集団の一員であることは間違いないな。
でないと、こんな大勢で王女様を攫いになんて来れない。
『我が主。そろそろ殺さないのか?』
なんて考えていると、唐突に物騒な言葉が飛んできた。
「お前な。人が一生懸命情報を聞き出そうとしてるところで、邪魔をするなよ」
『そんなこと言われてものう、妾は我慢の限界じゃ』
リリスが身震いをさせて、今にも魔法をぶっ放しそうだ。これは危険。
「わかったよ。その代わりすぐには殺さないからな。まだこいつには聞きたいことがある」
少なくともこいつらの正体ぐらいは聞き出したいところだ。
「王女様は?」
『安心するのじゃ。あの小娘は転移魔法で外に出しておる』
さすが俺の悪魔だ。気が利く。いい奥さんになりそうだな。
「リリス。頼む」
そう言うと、リリスは詠唱に入った。
『我が穢れを以て、我が主へ、血の華を咲かせる剣を与えよ――《殺華剣》』
詠唱が終わった刹那、目前に一本の剣が現れる。部位が全て黒で統一された片手剣だ。
「それがビルドを殺した武器だね」
ネスタはじっと剣を眺めている。
「あぁ。お前、ハゲが殺されたことは知ったたんだな」
「そりゃ同じ組織だからね。色々と情報は入ってくるさ」
「そうか。なら、その情報とやらを色々と聞かせてもらおうか」
剣を構えると、その姿を見てネスタはバカにするように笑う。
「お前さん。悪いがこの勝負は僕の勝ちだ。なぜならお前さんは近接戦闘型の魔導武器。一方、僕は中距離系の魔法を得意としている。分が悪いのは明らかにお前さんだよ」
ネスタの言う通りだ
近接戦を好む片手剣は中距離、遠距離系の魔法に相性が悪い。だが、
「やってみなきゃわからないだろ?」
「そうかい。まあ僕は殺せればなんでもいいんだけど」
その発想は悪魔と同じだ。さすがテロリストだな。悪者同士仲がよろしい。
『我が主よ。今妾に失礼なことを考えなかったか?』
「…………」
どうやらリリスには俺の頭の中は筒抜けのようだ。付き合いが長いというのも悩みどころだな。
「随分と余裕そうだね。じゃあ僕からいかせてもらうよ」
そう言って、ネスタが詠唱を始めた。
「我が魔の力を以て、この悪なる者に、血の刃を食らえ給え――《血刃》」
身代わりを倒した時と同じ魔法。
顕現した魔法陣から数十もの短剣がこちらへと向かってくる。
それが直撃する直前、俺は剣を横凪なぎに払い、全ての短剣をはじいた。
「さすがにこんな魔法じゃ死なないか」
続けてネスタは詠唱を唱える。どうやら今までとは違う魔法のようだ。
「我が魔の力を以て、この悪なる者に、幾多の火炎の弾丸を与え給え――《多炎弾》」
ネスタの周りに数多の小さな魔法陣が出現。これはいつか静川先生が使っていたやつと同系統の魔法だ。
「今度こそ、死ね」
ネスタがそう口にしたすぐ後、チビ魔法陣が一斉に輝きだし、魔法陣の中央から火の玉は勢いよく飛び出した。
大きさはボウリングボール程度だろうか。
「おぉ。こりゃすごい」
何十個もの火球が物凄いスピードで向かってきていた。一発でも食らったら焼け死にしそうだ。
「だが、こんなもの」
俺は再び横なぎに払う。
すると、全ての火球は一瞬で消失した。
「っ! なんだと!」
ネスタは大分驚いているよう。
別に大したことはしていないんだけどな。
「一体どういうことだ!」
ネスタはこちらを睥睨する。あらら、イケメンが台無しだ。
「お前は知らなかったみたいだが、この剣――《殺華剣》は能力の一つに魔力を吸収するというものがある」
「っ!」
ネスタは聞いたことがないと言った表情だった。
そりゃそうさ。この剣を所有しているのはリリスだけだからな。
それに、この《殺華剣》にはもう一つ能力がある。
「ぐはっ!」
突然、ネスタは血を吐き出す。その後、彼が自身の腹部に視線を移すと、そこから大量の出血をしていた。
「な、なぜ……」
「そりゃあ俺が斬ったからだ。お前の魔法を消すついでにな」
《殺華剣》には通常の剣とは違い、遠距離からでも対象を視界に捉えていれば、斬撃することができる。
その射程は約一キロ。遠距離型の魔導武器とほとんど遜色がない。
「な、なるほど……」
すでに虫の息のネスタ。
だが、死なすわけにはいかない。
「リリス。魔法で止血しろ。こいつにはまだ聞かなきゃならないことがある」
『わかったのじゃ。我が主』
リリスが詠唱を唱えると、ネスタの身体から流れ出ている血が瞬時に止まった。
「お前に聞きたいことがある。まずお前らの組織の名はなんだ?」
ネスタに近寄るなり質す。だが、ネスタは黙ったまま何も言わない。
「正しく答えられたら、お前を助けてやらないこともないぞ」
そう言うと、ネスタは徐に口を開いた。
テロリストなんて所詮こんなもの。組織に属するからといっても、その実、忠誠心のカケラもないやつばかりだ。
「僕たち……の名は……マジック……リベリオン」
『魔導反乱軍』
魔法世界大戦の生き残りで構成された国内でも随一のテロリスト集団。
随分と厄介な名前が出てきたな。
「リリス。首を調べろ。こいつの言っていることが本当なら龍の刺青があるはずだ」
魔導反乱軍に所属するやつらには、全員首筋に龍の刺青が入っている。理由は未だに不明だ。
『我が主。あったのじゃ。龍の刺青がのう』
リリスがネスタの首筋を見るなり言った。
どうやらネスタが魔導反乱軍の一員であることは事実のようだ。
とその時、突然ネスタが呟いた。
「よく見たらお前さん……あの……植村……英司の……」
「っ!」
気がつくと、俺はネスタの胸倉を掴んでいた。
「お前! なぜその名を知っている!」
声を荒げて問いただす。
しかし、ネスタから言葉は返ってこなかった。
呼吸もなく、すでに絶命している。
「くそっ!」
苛立ちをぶつけるかのように、動かなくなったネスタの身体を地面に叩きつけた。
なぜこいつがあの人の名を知っている。
植村 英司。
魔導士でも何でもない、ただの一般市民の一人。そして、
俺の父親だ。




