『8』
誰もいない街中で、俺とメイドは互いに対峙していた。
「……お前、なんでここにいるんだ」
「さあ、どうでしょうか」
メイドはあざ笑うかのように返す。
彼女には遠回しに聞いても無駄みたいだな。
「さっきの奴らの仲間なのか?」
「いえ、そういうわけではありません」
「じゃあなぜリリスの召喚の邪魔をした? お前だろ? その青い魔石を使って、いつかの時みたいに悪魔祓いをしたのは」
やや強めの口調になると、メイドは至って冷静に淡々と答えた。
「そうですね。悪魔祓いをしたのは、紛れもなく私です。ですが、それはある目的があるためです」
そう言うと、突然メイドは詠唱を唱え始める。すると、彼女の足元に現れたのは円形の魔法陣。転移魔法のものだ。
「この魔法陣は東京湾の第三倉庫へと繋がっています」
東京湾第三倉庫。
魔法世界大戦時には軍用の魔道具や魔導武器が収納されていたとされる場所だ。
しかし、今は使い道がなく、廃墟と化している。
「それがどうした?」
「そこに先ほどエレナお嬢様を攫った方々とエレナお嬢様がおります」
平然と放った言葉に、俺は目を見開いた。
「……お前、なぜそんなことを知っている」
「今は言えません。ですが、あなたにはその方々を殺し、エレナお嬢様を助けてもらいます」
「っ!」
こいつは自分の言っていることがわかっているのか。勝手にもほどがある。
「俺が素直にそんな命令を聞くとでも?」
「えぇ。そうしなければ、あなたが死にますから」
メイドがパチンと指を鳴らすと、彼女の手元に魔導銃が握られる。
その後、銃口をこちらに向けると、
「今のあなたは悪魔を使役できない。戦闘力は皆無同然です」
確かに、メイドの言う通り青の魔石がある限り、リリスを出すことはできない。
かと言って、魔導士の才能のカケラもない俺が戦ったところで、魔導銃を一発撃たれて終いだ。
「……わかった。お前に従う」
「では、その魔法陣へ」
そう指示するメイドは依然魔導銃を下ろさない。慎重な女だ。
魔法陣の上まで移動すると、メイドはようやく魔導銃を下ろした。
その瞬間、魔法陣は白い光を放ち、輝きは段々と増していく。
「では、いってらっしゃいませ」
メイドは腰を深く折り、お辞儀をする。
このメイドはイカれている。
閃光に呑み込まれる最中、俺は心底そう思った。
☆
気がつくと、目の前に大きな建物があった。
建材は鉄製だが、そのほとんどが錆びついていて、まさに廃墟と言った感じだ。
左側には太平洋が広がっている。できることなら、海で遊んで帰りたい。
『すまぬ我が主』
不意にリリスの声が響いた。
『妾のせいで、あの小娘を奪われてしまった』
大分落ち込んでいるようだ。声が弱々しい。
(また魔石のことを気にしてるのか? 前にも言ったがあの石ころをだされたらどうしようもないんだよ。お前が謝ることじゃない)
謝罪するなら、リリスにばかり頼っている俺の方だ。
少しは一人で戦えるようにならなければならないな。
(さて、いつもは悪魔退治をしているわけだが、今回は悪者退治だ。できるか、リリス?)
『我が主。我が主は悪魔退治に一回も関わったことはないのじゃ』
(…………)
ひどい。
ちょっと言葉遊びをして、リリスに元気を出してもらおうと思っただけなのに、返ってきたのが右の弾丸ストレート。
心が折れそうだったよ。
「じゃあ行くか」
そう呟くと、錆びたドアノブを握り、倉庫の中へと入った。




