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魔導学校の悪魔使い  作者: ヒロ
第二章
19/42

『6』

 王女様の言葉を聞いた後、暫く静寂が続いた。

 それくらい驚いて、何も言葉が出なかったのだ。


「……なぜ俺にそんなことを言うんだ」


 沈黙を破るように訊ねると、王女様はふっ、と軽く笑った。


「勘違いしないでください愚民。別にわたくしはあなただけにこのことを教えたわけではありません。これは周知の事実ですから」


 そう語る王女の表情はどこか寂しげに見えた。

 彼女は窓の景色を眺めながら、続けて話す。


「今話したことは、そこらへんにいる人たちに聞いても知っているくらい有名な話です。ですが、もしかしたら成績最下位のあなたなら知らないのではと思いまして、先にこちらから教えてあげたのです。後で色々と聞かれるのは面倒ですから」

「……そうか」


 これ以外何も言うことがなかった。

 家族が死んだやつに同情や励ましの言葉を掛けても決して響かない。


 そんなことをされても、お前に自分の何がわかるのかと思うだけだ。

 なぜならこの世界に生きている大半が自分より幸福なのだから。


 それからホテルに着くまで、俺と王女様は一言も会話を交わさなかった。





 俺が王女様の護衛をしてから二日が経った。今のところ、彼女に対しての襲撃などはない。

 願うならこの間のハゲゴリラみたいなやつが出てくるのは勘弁して欲しいものだ。


「もう私は二度と護衛などやらんぞ!」


 部室で怒りを露わにするのは織城先輩だ。

 レザーチェアに座りながら、手足をブンブンとバタつかせている。めちゃ可愛い。


「どうしたんですか? 随分イラついてますけど」

「どうしたもこうしたもないわ! あの王女! 口を開けば私を『愚民』だの、半端な優等生などとバカにしおって!」


 王女様、織城先輩にもそんなことを言ったのか。


 護衛は部員三人でローテで回しているため、昨日は織城先輩が担当だったのだが、どうやら王女様と色々といざこざがあったようだ。


「落ち着いてください織城先輩。あの王女様はそういう人なんですよ」

「それだと尚更問題だろう!」


 確かに。あの王女様の性格にはかなりの難がある。


「なんだかイライラしてきたな! いっそあの娘と魔導戦でもしてやろうか!」


 一人興奮して、イケイケになっている織城先輩。このままだと会話にならなくなりそうなので、話題を変えよう。


「そ、そういえば、織城先輩に買って貰ったこれ役に立ってるんですよ」


 俺が見せたのは薬指にはめられている指輪だ。

 すると、織城先輩は若干照れた様子で、


「そ、そうか。それはよかった!」


 喜んでくれている織城先輩には申し訳ないが、ぶっちゃけ嘘である。

 そもそも戦闘で使う魔力はリリス任せなので、魔力アップの指輪があったところであまり意味がない。

 でも、装飾品としては気に入ってるんですよ先輩。


「ほら。私も毎日着けているぞ!」


 織城先輩の薬指にも俺の物と同じ輝きを放つ指輪。

 いつか約束した毎日指輪をつけるということを彼女も守っていたよう。


「さすがですね! とても嬉しいですよ!」

「そ、そうか!」


 顔が真っ赤になっているロリっ子先輩。

 ようやくご機嫌になってくれたようだ。

 基本、先輩に対してはおだてることが大事。これは社会に出てからでも必要なことだ。


「……なあ蓮人。いつかお前に魔法を教えてやると言ってやったことがあっただろう」


 ゴブリン事件があった日のことだろうか。

 そういえば言っていた気がする。


「今日は依頼者が来なさそうだし、特別に私がお前に魔法の指導をしよう」

「…………」


 まじか。これは静川先生の授業と同じパターンな予感。

 正直、やりたくない。

 しかし、織城先輩のあのキラキラした瞳を裏切るのは心苦しい。


「……あ、ありがとうございます」


 そう答えると、織城先輩はレザーチェアから下りて、傍らに近寄る。


「よし。では目を瞑れ!」

「はい?」


 急に出てきた織城先輩の言葉に戸惑っていると、彼女は思い切り俺の両頬を叩いた。


「いいから目を瞑れ!」


 有無を言わせない鋭い目つき。そこから彼女がどれだけ真剣かが窺える。あとほっぺたが痛いです。


「わ、わかりました」


 織城先輩に従い、俺は目を閉じる。

 すると、何かガチャガチャと音が聞こえる。何か物を出しているのだろうか。

 かと思ったら、その音は止まり詠唱を唱え始めた。


「我が魔の力を以て、目前の我が戦友へ、我が命に従う忠誠――」


 その時、俺の腹に強い衝撃が加わった。


「ぐはっ!」


 思わず倒れ込むと、織城先輩の詠唱が止まる。


「だ、大丈夫か?」

「……はい。だ、大丈夫です」


 そう答えるが、織城先輩は心配そうにこちらを見つめる。


 だが、俺は今の犯人が誰かわかっている。


(おいリリス)


『……なんじゃ?』


 呼びかけると、リリスの声が頭に響く。


(お前いきなり何してくれたんだ。くそ痛いぞ)


『何を言う。妾は我が主を助けたのじゃぞ。感謝こそすれど、愚弄をするでない』


(助けた?)


 完全に不意打ちの暴力だと思うが。


『言っておくがな、この娘は我が主に催眠魔法をかけようとしたのじゃよ』


(……は?)


 催眠魔法というのは、他人を睡眠状態に陥らせ、その間魔法を発動させた当人の命令に従い続けなければいけないという、悪魔みたいな魔法だ。

 しかし、この魔法はとても高度でほとんどの場合失敗する。


(意味が分からない。何のために織城先輩がそんなことを)


『そうか。我が主には分からぬか。妾には丸わかりなのじゃがのう。……まあいいのじゃ。せいぜい女には気をつけることじゃのう』


 そう言い残すと、リリスの声は聞こえなくなった。


「大丈夫か蓮人」


 そう聞かれ織城先輩の方を向くと、彼女の傍らにある魔法薬が視界に映った。

 隠しているつもりだがバレバレだ。

 あとなぜか彼女の唇がツヤツヤしている気がする。


「…………」


 今度から織城先輩から魔法の指導を受けるのは止めよう。

 そう思った俺だった。


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