『5』
封印魔法の授業が終わり、憂鬱な気分でグラウンドから校舎へ戻る途中、妙な光景が視界に映った。
メイドが校門前で誰かと話している。
相手はメガネをかけていて、スーツ姿の女性。
「あれは……!」
思い出した。
たしか俺と王女様の魔導戦で監視役になっていた教員だ。
……そういえば、あの人、ハゲゴリラが現れてからいつの間にか消えてたよな。
普通に逃げたのか?
「何をしているのですか?」
不意に傍らから声。
振り向くと、今しがたメガネと話していたメイドが立っていた。
また転移魔法か。
「それはこっちのセリフだ。王女様ほったらかして何してたんだよ」
「あなたには関係のないことです」
相変わらず表情の変わらないやつだ。
なんだかバカにされている気分。
「今朝、王女様から聞いたぞ。この国に連れてきている王女様の関係者はお前だけらしいな」
「えぇ。そうですが」
「それに加えて、お前は自由行動が許されているって、ベルギーの王様は一体何考えてんだよ」
王様は自分の娘が心配じゃないのか。
俺が王女様の父親だったら、護衛一万人は連れていかせるぞ。
「言っておきますが、フーベルト様はエレナお嬢様のことを非常に心配しております。本当ならば護衛一万人くらいは連れていかせるつもりでした」
そこでメイドが一旦間を空けたあと、続けて話す。
「ですが、それをエレナお嬢様が断ったのです」
そういえば、リムジンの中でそんな風なことを言ってたな。もともと誰も連れていくつもりはなかったと。
「なんで王女様はそんなことを言ったんだ」
「それは私の口からは言えません。しかし、フーベルト様はエレナお嬢様の意思を尊重しつつ、それでも我が娘の命を重んじて、私をエレナお嬢様と同行させたのです」
「……つまり、それはどういう意味だ?」
「私が兵士一万人程度の力があるということです」
若干自慢げになった気がした。
僅かに表情が変わっただけなので定かではないが。
「それ本当かよ」
「はい。まああなたほど強くはありませんが」
無表情のメイドから褒められた。
なんか嬉しい。
『我が主。今のは妾を褒めたのじゃぞ』
すかさずリリスからのツッコミを貰った。
悪魔使いにそういうことを言ったらおしまいだ。俺の存在意義がなくなる。
「だけどな、そのお前が王女様から離れてちゃ元も子もないだろ」
「…………」
あれ? 黙っちゃった。
どうしたメイド。
すると、メイドはくるりと後ろに百八十度回転して、
「では、私はここで失礼します」
「あっ! ちょっと待て! お前――」
メイドに手を伸ばしたが一歩遅く、彼女は転移魔法でまたどっか行ってしまった。
「ったく、逃げたなあいつ」
結局、その日はメイドと会うことは一度もなかった。
☆
下校時間を迎え、今朝と同様俺は王女様の護衛ということで本日二度目のリムジンに乗った。
やはり快適だ。
もうここに住みたいくらい。
王女様はというと、朝と同じように魔導書を読み込んでいた。
これだけ努力をしていれば、以前、グラウンドで勝手にやっていた魔導戦で魔法が連射できたのも頷ける。
ただでさえ王族から受け継がれた才能があるのに、こんなに頑張られちゃな。
「それ、読んでいて楽しいか?」
「…………」
無視された。
勉学の邪魔をするなということだろう。
でも、ぶっちゃけ俺も暇なんだよ。暇すぎてもう寝そうだよ。
しかし、護衛をしている最中に寝るわけにもいかないし。
と、そんなことを考えていると窓越しに楽しそうに歩いている親子を見つけた。
子供は五歳くらいだろうか。その子と父親と母親が三人で並ぶようにして手を繋いでいる。
今、子供が何か話している。
それを聞いて、母親が笑い、それにつられるように父親も笑った。
「何をじっと見ているのですか?」
突然、王女様から訊ねられた。
「なんだよ。勉強してたんじゃないのか?」
「それはそうですが、そんな沈鬱な顔をされては不快で勉学に集中ができません」
沈鬱って、そんな顔をしていたつもりはないんだが。
「ただあの家族を見ていただけだ」
「……家族、ですか」
そう呟くと、王女様はバタンと魔導書を閉じた。
「あなた、家族は?」
「は? なんだよいきなり」
急な質問に戸惑っていると、王女様は続けて話す。
「わたくしには父と母がいます。ですが、今の母はわたくしの本当の母ではありません」
突然の告白だった。
この子いきなり何言い出すんだよ。
いや、それよりも本当の母親じゃないってことは、実の母親は一体……。
「わたくしの本当の母は、お母様は――悪魔に殺されました」




