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魔導学校の悪魔使い  作者: ヒロ
第二章
16/42

『3』

「俺が悪魔使い? それはなかなか面白いジョークだな」


 メイドの問いに、俺は笑い交じりに答えた。

 しかし、メイドは先ほどから一切表情を変えず、冷ややかな視線をこちらに向けている。


「冗談なんかではありません。私は知っているのです。……何故ならあの時、見ていましたから」


 そう言ってメイドは一拍置くと、続けて話す。


「昨日、あなたがエレナお嬢様と魔導戦を行い、その後侵入者に襲われたエレナお嬢様をあなたが助けるまで全て私は見ていました」

「…………」


 ここまで詳しく知っているならブラフの線はないさそうだな。

 なら、このメイドの目的はなんだ?

 自分が仕えている主人の危険を放っておくなんて正気の沙汰とは思えない。


「しかし驚きました。悪魔使いのあなたが己の命を使ってまでエレナお嬢様を救うなんて。もしやエレナ様に恩を着せて何か企んでるんですか?」


 悪魔使いになるやつなんて、全員まともな生き方をしていない。だから、無差別の殺人をしたり、テロリストになるやつが非常に多いのだ。

 そんな部類に位置づく悪魔使いが人の命を、ましてや自分の命を使ってまで助けることは、ある意味異常と捉えられてもおかしくはない。


「ただのきまぐれで救ってやっただけだ。別に大それた意味はない」

「……そうですか。それにしても今の発言であなたは自信が悪魔使いだと認めたことになりますが、よろしいのですか?」

「あぁ。どうせ全部バレているみたいだしな」


 どこかはわからないが、メイドがアリーナドームでの一部始終を見ていたのは事実だろう。

 ぶっちゃけ、ここは言い逃れするよりも――。


「リリス」


 そう言葉を口にした瞬間、俺の傍らに黒髪隻眼の少女が現れる。


「これは一体どういうことでしょうか?」


 リリスを一瞥すると、メイドが問うた。


「殺した方が早いと思ってな。悪魔使いであることを魔導士にでもバラされると色々と面倒だ」

『ということらしいのじゃが、妾は何かを殺せれば相手は誰でもよい』


 二日連続のお呼び出しをしたためか、リリスが若干テンション高めだな。

 出てくる言葉がいつにも増してひどい。


「なるほど。ですが私は、あなたが悪魔使いであることをバラすつもりはありませんよ」

「そんなことが信じられるわけないだろ。あんたには悪いがここで死んでもらう。 リリス!」


 名を呼ぶと、リリスは詠唱を唱え始めた。

 正直人気はないとはいえ、こんな場所で人を殺したくはないが、死体ごと転移魔法でどっかに飛ばせば問題はないか。返り血は水魔法で消そう。


「……仕方がありませんね」


 呟くような小さい声で言うと、メイドは首から吊り下げている何かを服の内側から外に出す。

 それはネックレスで埋め込まれている宝石が青い輝きを放っていた。


「……魔石か?」

「そうです。そして青の魔石には少し特殊な効果がありまして――」


 メイドがそう言った刹那、突如リリスの足元に魔法陣が顕現した。


『な、なんじゃこれは!』


 リリスが気づいて間もなく、魔法陣が目映い光を放出すると、それは一瞬で消失し、同時にリリスと魔法陣も消えた。


「チッ。悪魔払いか」

「よく知っていますね」

「そりゃあ知ってるさ。悪魔使いだからな」


 青の魔石。

 それは邪悪なる存在を近づけさせない、特別な魔力が秘められている光石だ。

 簡単に言うと、その石がある一定範囲内の場所、一定時間は悪魔が近寄ってこれない。

 主に悪魔使いに対して使われる魔道具だ。


「だが、リリスはそこら辺で売っている魔石ごときじゃ効いたりはしないぞ」

「そうですね。あなたのパートナーはとても強そうだった。なので、少々国宝を使わせて頂きました」

「…………」


 何言ってんのこいつ。国宝は少々なんていう気持ちなんかで使ってはいけない。


「この魔石は純度が百で出来ています。なので、どのような青の魔石よりも悪魔払いの効果が高く、この魔石に払えない悪魔はいません」


 自慢気に語るメイド。今までで一番表情が変わった気がする。そんなにあの石が大事なのだろうか。


『すまぬ。我が主』


 不意にリリスの声が響く。


(別に構わねぇよ。あんな石ころ出されちゃいくらお前でも無理だ)


 魔石は一つ一つそれぞれの輝きを持ち、光によって様々な効果があるのだが、効力の強さは魔石の純度によって決まる。

 街中で売っている安い魔石ほど純度が低く、効力も薄い。

 しかし、今メイドが持っているような純度百の魔石なんかは、たとえランクAの悪魔でも魔石の効力を発揮することができるのだ。


「それでどうしますか? 私を殺しますか?」

「いいや無理だ。今の俺じゃあお前とは戦えない」


 悪魔使いが悪魔を使役できないと、普通は戦闘なんてできない。

 何故なら、悪魔なしでは使いものにならないやつらが悪魔使いとなるのだから。


「そうですか。ですが、それは悪魔を使うことができないあなたのことですか?」


 突然おかしな質問が飛んできた。

 だが、メイドは平然としていた。それはまるでまだ何かを知っているかのような。


「……お前、一体何者だ?」


 そう質す俺に対して、メイドは背を向けると、


「……天才も落ちぶれたものですね」


 そう言い残すと、メイドは足を進めていった。


 ……天才。


 久しく聞いていなかった言葉がやけに耳に響いた。





 結局、護衛の件は『対悪魔特務部隊』がローテーションでやることになり、くじで一番目が俺になってしまった。


 メイドからは護衛は依頼日の翌日から、また登下校時のみで構わない、との追加の連絡を受けたので、俺はいま朝っぱらから異常に高いビルたちに囲まれている。


「それにしても高いなぁ」


 目の前には首を限界にまで上げても尚、西条かいが見えないほどの高層ビル。

 たしか何かの三ツ星ホテルとかってテレビで言ってたな。

 さすが王女様だ。住む場所も王族級。


「お待たせしました」


 前方からメイドの声。昨日の今日でよくも普通に話しかけられるな。


「おはよう愚民」


 メイドに続けて不快な声が耳に届く。この姫様は朝からこんなに口が悪いのか。


「よう王女様」


 一応挨拶を返すと、王女様はキリッとこちらを睨む。

 なにこの子。なんか恐いんですけど。


「では、私はこれで」


 それだけ言ってさっさと去ろうとするメイドを、俺が引き止める。


「ちょっと待て。お前は一体どこへ行くんだ」

「私ですか? 私は少々用がありますので」


 王女様より大事な用って一体なんだよ。


「では、私は急ぎますので」


 そう言うと、メイドの足元に魔法陣が現れ輝きを放ったのち、消失する。それと同時に魔法陣と共にメイドも消えた。


 まさかの転移魔法。

 結衣といい、織城先輩といい転移魔法を安易に使わないで欲しいものだ。


「さあ行きましょう愚民。わたくしの護衛をするのでしょう?」


 そう言って、朝っぱらから目つきのきつい王女様が向かったのは車道脇に止まってあるリムジン。


「おい待て。これに乗るのか?」

「えぇ。わたくしはいつもこれで学校まで行っているのです。知らなかったのですか?」


 知るわけねぇ。


 慣れた様子で乗る王女様に続いて、俺も初リムジンに乗り込んだ。

 護衛でちょっと得をした俺でした。


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