69話目
クラウドがソワソワしている。
「うーん、これで大丈夫かな?
食料も持ったし、回復薬も持ってるし、装備だって調整してあるからすぐ壊れることはないだろうし......」
何回目か分からないチェックを繰り返している。
今日はギルベルトともに坑道を探索する日である。
「...ん〜〜っ」
不意に声がした。
すると、クラウドがぴたりと動きを止める。
そしてゆっくり音を立てないように振り向くと、リーシアが寝返りをうっている所だった。
その後は、すうっすうっと規則正しい寝息が聞こえだした。
その事を確認したクラウドはホッと一息付き、再び荷物の整理をしだした。
だが、今度は静かに、起こさないように......
別にリーシアを置いていこうとはしていない。
ただ、今は時間が早い為もう少し寝かせといてあげようと言うことだ。
リーシアはまだ小さいからね、とクラウドが朝早くに起きてそう言った時は、いや、クラウドもあんまり変わらないだろうにと思わずには居られなかったが......
今はまだ2の鐘がなっていない為、宿の外も静かである。
ギルベルトとの待ち合わせは、この宿の朝食の時間帯が終える時位に入口付近で落ち合うことになっている。
朝食の時間帯が終わる頃というのは随分アバウトな時間に思えるが、だいたい2の鐘がなって2時間後......つまり8時くらいということだ。
普通であれば皆、2の鐘が鳴ると行動し始める。
前の街でも言ったかもしれないが......
まぁ、こちらは都市というだけあって人が多いのか一気に賑やかになる。
冒険者達も例外ではない。
だから依頼表も2の鐘が鳴ると張り出されていき、それを我先にと取っていく。
ちょっと脱線した。
だから、ギルベルトも待ち合わせ時間を2の鐘がなる頃にしようとしたみたいだが、言っている途中でリーシアに目が行き、時間を訂正した。
それで変な時間に待ち合わせとなったという訳だ。
「ブラン、これで大丈夫かな?」
ヒソヒソとこちらに聞いてくる。
『大丈夫だよ。
それだけ確認してあれば、もう十分さ。』
「そっかー。」
そう言い辞めるかと思いきや、またカバンをゴソゴソしだすクラウド。
もうこの流れは何回かしてるので、どうも思わない。
リーンリリン、リーンリリンリン、リーンリーン
あっ、2の鐘が鳴っているな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
宿の入口付近でギルベルトを待っている。
リーシアはまだ眠いのか、クラウドの服の裾を掴みながらウツラウツラしている。
クプレも小屋から出て、クラウドの側に立っている。
サファイアは何時もの定位置で寝ている。
鳥は朝日が昇ると起きるんじゃないのか!
と思うが、まぁ、一応起きてはいた。
その後すぐに二度寝をしているわけだけども......
ギルベルトはまだ来ないな。
道を歩いている人を見てみる。
冒険者風の格好をしている人は急いで走っている。
寝坊でもして、依頼を取り損ねたのかな?
籠を持った女の人は色々な物を売っている商業地区の方に行っている。
買い物に行くところなのだろう。
軽戦士っぽい格好をした男の人は鉱山の方に向かって行っている。
その隣には猫?のような魔物が歩いている。
猫?の首元に従魔の首飾りがあるため、隣の男の人の契約獣なのだろう。
前の街で契約獣を見なかったから、テイムを持っている人は少ないのかと思ったが、この都市に来てからチラホラとみる。
意外と多くいるのかもしれないな。
「よう、待たせたか?」
人の観察をしているとギルベルトが来た。
「いえ、さっき来たとこです。」
いやいや、かれこれ30分は待ったぞ?
「そうか、それなら良かった。
じゃあ今日からよろしくな。
お前らに傷は負わせないように頑張るぜ。」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。
僕らだって戦闘のお手伝いはさせてくださいよ?」
「おう!
それじゃぁ行くか。」
今度こそは戦闘出来るだろうか?
無理だろうなぁ〜.........
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「...おらっ!」
最後のシャドウバットがギルベルトの視界外から奇襲をかけようとしていたが、振り向きざまの一線で体が真っ二つになった。
『経験値を36得ました。』
『知性Lv_により経験値を30得ました。』
「フゥ、もう地下5階に行けるのか。
やはりクラウドの地図は凄いな。」
「いえいえ、そんなことはありません。
ギルベルトさんの戦闘時間が短すぎるせいだと思います。」
「いや、俺1人だとここまで早くない。
地図なんて書いててもよく分からなくなるからな。
クラウドの正確な地図があるからこそ、これだけ早く進んでこれたんだ。」
「そうですか?
それなら良かったです。」
「おう!
俺の前まで書いてた地図見てみろ。
これじゃぁ、さっぱりだ!」
そう言ってクラウドに紙を渡す。
俺もちょっと気になったので覗いて見た。
すると、ミミズがのたうち回った様な線が引かれていた。
いや、小さい子が書いた落書きと言っても遜色ないか?
どう書こうとしたらこうなるんだ......
「俺はこういうの書くの苦手でな。
よく迷うんだ。
それで出口を探そうとウロウロしてると魔物と出会うからな。
片っ端から殺っつけていってたら、いつの間にか強くなってたんだよな。」
ハッハッハ、と笑うギルベルト。
......何とも無茶苦茶な奴である。
クラウドは地図を持ったまま固まっていた。