65話目
「えへへ~
フッカフッカだ~」
俺の背の上でリーシアが寝転がっている。
あれからすぐクラウドは満足したのか俺から離れた。
そして、探索を再開しようとしたとき、リーシアを見ると俯いて震えていた。
「ど、どうしたの?
どこか怪我でもした?」
クラウドが心配そうにリーシアに訊ねる。
リーシアは何も言わず首を横に振った。
一体どうしたのだろうか?
俺が進化してから様子がおかしくなったから、俺のせいだよな?
もしかして、この種族が何かのトラウマになってるのか?
クプレみたいな......
けど、クプレは狼っていうだけで恐怖を抱いているのに、リーシアはゲイルウルフに対してだけのようだ。
ブラックウルフの時は普通だったもんね。
「...か......」
「か?」
...か?
「可愛い!!!」
...可愛い!?
俺狼なんですけど?
「大きなフワフワのワンちゃんみたい!」
ワンちゃん......
俺はそんなに犬に見えるのだろうか...
リーシアがキラキラした目で俺に向かって手を伸ばす。
頭を撫でようとしたが身長的に届かないので、首もとか顔を撫でようとしているようだ。
もう少しでリーシアの手が届くっといったところで動きが止まる。
何かはっとした顔をし、クラウドの方へゆっくり振り返る。
どうしたのだろうか?
クラウドを見ると、何故急に自分の方を見ているのか分からない、といった風に首をかしげている。
「...あの、狼さん撫でてもいい?」
「何でそんなことを聞くの?
僕に聞かなくても別にいいよ?
あ、でもブランには聞いた方がいいんじゃないかな?
急に撫でられるのもビックリするだろうし、嫌なときとかもあるだろうし...」
「だって、許可なく動くなって言われてたから...
勝手に動いてまた怒られるかなと思って......」
それを聞くとクラウドはリーシアの目線に合うように屈み、リーシアの頭に手を置いた。
「僕はそんなことで怒ったりしないよ。
危険なことをしようとしてたら怒るかもだけどね。
僕はリーシアちゃんに楽しく過ごしてもらいたい。
だから奴隷の契約事項も何もチェックをいれていないよ。
だから安心して?」
契約事項?
それってなんなんだろう?
クラウドはゆっくりリーシアの頭を撫でた。
「...うん。」
リーシアが頷き、クラウドが撫でるのを止めると、再度リーシアが俺の方に来た。
「ブラン撫でてもいい?」
おぉ、初めて名前呼ばれた。
なんかちょっと嬉しい。
撫でやすいように伏せる。
リーシアは俺の頭に手を伸ばし、ゆっくり撫でる。
リーシアの顔が次第に笑顔になってきた。
「えへへ、柔らかい~」
うんうん、やっぱり笑顔が一番だね。
「リーシアちゃんも笑顔だし、ブランも尻尾振って嬉しそうだし良かった良かった。」
うんうん、と微笑ましそうにクラウドが此方を見ている。
...って、ちょっと待って。
俺尻尾振ってるの?
無意識だったよ...
そして、移動しようにもリーシアがなかなか俺の側から離れないため、俺の背中に乗せて移動することになった。
俺......乗り物になった気分...
サファイアも乗ったままだし......
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして、2日たった。
順調に坑道内を進み、今では地下3階をウロウロするようになった。
中の魔物は何も変わらない。
しかし、下の階になればなるほど複雑且つ広くなっている。
魔物との戦闘よりも探索の方が難しい気がしてきた。
同じような道なので憂鬱だ。
だが今日も稼がないといけないので坑道に向かう。
「......あっ。」
鉱山がある方の門に向かうため街の中を歩いていると、リーシアが急に声をあげた。
どうしたのだろうか?
「どうしたの?」
「...前にリーシアが運んでいた物を渡していた人が居たから、つい口に出ちゃったの。」
んー?
......あぁ、クラウドの前の主人がリーシアに何か運ばせていたんだったっけ?
それを渡していた人が居たと...
どんな奴なんだろう?
俺はリーシアが目で追っている人の方を見る。
黒に近い青色の髪をした男。
身長は180センチちょっとか?
一般的な体系である。
まぁ、冒険者と比べると少しぽちゃっとしてるがな。
......んー、何か見たことあるような?
誰だったかな。
「...お!
.えーっとクラウド!
クラウドじゃないか。」
急に声が聞こえそちらを見る。
すると背中に大剣を背負った男が此方に歩きながら手を振っていた。
えっとこいつはたしか.........Aランクのギルベルト!
「お久し振りです。
ギルベルトさん。
勧められた宿でとても満足に過ごしてます。」
「おぉ、それは良かった。
ここのところ鉱山に籠りっぱなしでな。」
「ギルベルトさんも鉱山に入ってるんですね。」
「あぁ、ここの領主に頼まれてな。
鉱山の異常を解決してほしいらしいんだ。
まぁここの特産物と言えば鉱石ばかりで、それが採れなくなると困るわな。
...ところで、クラウドは何してるんだ?」
「僕も鉱山に入って魔物の討伐ですね。
ギルドの依頼も鉱山由来の物が多いですし...」
「そうか。
じゃあ俺と一緒にいくか?」
えっ、ギルベルトと一緒!?
連れていっても強さ的に俺達は邪魔なんじゃないかと思うんだが......
「それはとても嬉しいんですけど、僕たちじゃ足手まといになるだけですよ。」
「いやいや、そんなことはないさ。
それに、坑道の中でずっと一人っていうのは結構気が滅入るしな。
今日だけでもいいからダメか?
絶対危険な目には遇わせねぇから。」
ぐいぐい押されて、クラウドは困惑している。
そうして諦めたのか1つため息を吐き
「はぁ、確かに鉱山の中をずっと一人でいるのはきついと思います。
戦闘では全然役に立たないと思いますが、それでもいいと言うのでしたら、僕たちにとっては嬉しい限りです。」
「では、一緒に来てくれるのか?」
「はい。
お願いします。」
「おぉ!
よかった!!
それじゃぁ早速いこう。」
そうして俺達はギルベルトに連れられて鉱山にむかった。
ギルベルトに声をかけられる前まで見ていた方を見たが、その通りには誰もいなくなっていた