62話目
クラウドが食べ物を持ってきて、10分位たっただろうか...
ようやく女の子が目を覚ました。
「あっ、起きたみたいだね。
食べ物を用意したんだ。
よかったらゆっくり食べて?」
クラウドが女の子に皿を渡す。
女の子は皿を見、クラウドを見、再び皿に視線を落とす。
その顔はとても不安げで、瞳が揺れている。
「食べていいんだよ?
何も......」
「あなたは...」
クラウドの言葉に被さるようにして、か細い声が聞こえた。
女の子ははっとした顔をし、小さくなり細かに震えている。
「どうしたの?
そんなに怯えなくても大丈夫だよ。
僕は君に何も危害を加えないから...」
女の子はその言葉を聞き、おずおずと顔をあげ、口を開いた。
「...あ、あなたは......だれ...ですか?
なんで...リーシアは生きてる......んですか?」
「リーシアちゃんって言うんだね?
僕はクラウドって言うんだ。
あと狼のブラン、鳥のサファイアだよ。」
紹介につれて女の子の目線が俺の方に来た。
一瞬怯えるような表情をしたあと
「...お、おおかみさん......さっきはビックリしちゃってごめんね......なさい」
気にしていないという風に首を横に振る。
その様子を見て女の子...リーシアはほのかに微笑んだ。
「リーシアちゃん、お話は後にして、取り合えずご飯を食べて?
折角温かいのに冷めちゃうよ?」
持ってきてから大分経っているが、まだ湯気が出ている。
あの器には保温能力があるのだろうか?
クラウドの言葉を聞き、視線を手元の器に移す。
スプーンを持ち、ゆっくりと口に運んだ。
数度咀嚼して飲み込む。
それを黙々と繰り返す。
部屋にはスプーンが器に当たる音と、鼻を啜る音だけが響いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
食べ終わり、人心地ついたリーシアはクラウドに向き直り、
「ありがとうございました。
リーシアは......奴隷であるのにこんなご飯を食べさせてくれて...
それに助けてくれて...」
リーシアは話すにつれて表情が暗くなっていく。
自分自身で奴隷であると言うことで、現実として受けとめなくてはいけない、という気持ちになっているのかもしれない。
「全然大丈夫だよ。
...悪いけど、何があったのか話してもらえるかな?」
リーシアはこくりと頷き話始めた。
「リーシアはハイオ村で育ちました。」
...え、まさかのそこから!?
坑道で何があったのかを話すだけじゃないのか......
「ハイオ村は獣人ばかりが住む村で、少人数だったけど、楽しく暮らして...ました。
けど、銀色のよろい?を着た人たちが急に来て、村の人たちをどんどん捕まえられちゃ......ました。
そのときにリーシアも捕まって、お父さんとお母さんと離れ離れになって....
手と足を鎖で繋がれて、いろんな街に行って、最後に着いたのがこの都市でした。
移動してるときも、ここに来たときもご飯をあんまりもらえなくて、ずっとお腹がすいてて...ました。」
...うーむ、無理にですます口調で話そうとしてるからか妙に間が開いている。
奴隷と言うものはですますで話すよう教育でもされるのだろうか?
「リーシアちゃん、無理にですますで話さなくてもいいよ?
普通に話してくれていいから....」
「......いいの?」
「うん。」
「痛くしない?」
「しないよ。
それに、僕はリーシアちゃんの主人じゃないからね。
だから普通にしてていいんだよ?」
それを聞いて、リーシアは俯き唇を噛んだ。
少しすると目を擦り顔をあげ、また話始めた。
「この都市に来て1日経ったとき、リーシアは男の人に買われたの。
お金をあんまり持ってないから、使える安いやつが欲しいって言ってた。
買われるとすぐに洞窟みたいなところに入って、リーシアは荷物を持たされた。
リーシアにとって、荷物は重くて運ぶのが精一杯だったの。
それなのに、遅いって言われて沢山ぶたれた...
お前には安くない値段を払って買ったんだぞ、そんなことも出来ないのかって......
そして、その日は何とかフラフラになりながら荷物を運んだの。
その荷物は洞窟で待ってた人が持っていったの。
リーシアを買った人は待ってた人から小さな袋を貰って喜んでたの。
それで、何日間か同じことを繰り返してたの。
けど、今日は帰り道に大きくて長い魔物2匹と会って......
リーシアを買った人は...リーシアを置いて逃げたの......
何とか逃げようとして走って、大きくて長いのは何とか巻いたの。
けど、他にも見えにくい魔物に襲われて、ボロボロになったの...
どうにか逃げなくちゃって思って出口を探してたけど、なかなか見つからなくて、もう動けなくなって、もうこのまま魔物に食べられちゃうのかなって思って、気がついたらベットの中だったの。」
で、俺が目の前にいて、食べられる寸前と思って再度気絶ってとこか......
「リーシアちゃんの主人だった人は、逃げたんだね...
リーシアちゃんを囮にして......
それでも、リーシアちゃんはその人の所に戻りたい?」
「...ううん。
あの人は痛いことするから嫌。
...でも、戻らなきゃダメ...なんでしょ?」
リーシアは物凄く悲しそうな顔でそのようなことを言う。
クラウドはそんなリーシアの頭を撫で、
「...うん。
奴隷は購入した主人の所に戻らないと痛みが出てくるはず...」
それを聞き更に落ち込むリーシア。
「...でもね、それは主人が生きていればの話。
リーシアちゃんの主人はもう死んでるんじゃないかな?」
な、なに?
クラウドそんなことがわかるのか?
なんで?
「...な、なんでそんなことが分かるの?」
「だって、僕の所に主人になる権利が来てるもん。
主人が死んだ場合、その奴隷を保護した人は主人になる権利が与えられるんだ。
その人が奴隷にしたかったら奴隷商のところで新たに契約すればその奴隷は自分のものになるんだよ。
したくなかったら、奴隷商に渡すだけ。
その奴隷は新たな主人に買われるまでまた奴隷商の所で過ごすことになる。」
...クラウドやけに奴隷のことに詳しいな。
「......それで、相談なんだけどね。
リーシアちゃんはどうしたい?
奴隷商の所に戻るか、僕が新しく主人になって、リーシアちゃんを奴隷から開放するか。
他にもこうがいいと言うのがあれば、僕に叶えられる範囲で叶えてあげるよ。
何でも言って?」
「...リーシアは............」