57話目
俺達も無事に都市マクダンタに入ることができた。
グレイブ達とも別れ、今はギルドに向かっている。
今日は依頼は受けないつもりだが、雰囲気やどのような依頼があるのかの簡単な調査である。
俺やサファイア、クプレにはお馴染みの獣魔の首飾りがかけられている。
もう俺もテイムされた獣であるから、何も後ろめたくない。
何かよりいっそう仲間であると認識できるため、心なしか尻尾が揺れる。
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マクダンタのギルドに着いた。
大きさはややミスルナのものより大きいかな?という程度であり、特に変わったところはない。
クプレは大きく入れないので外で待つことになった。
そうして、ギルドの中に入ってみてもこれといって変わったところはない。
ミスルナよりも人が多いだけである。
後は鉱山都市と言われるだけあってか、石の部分が多い。
依頼を貼ってある石板の所へ行く。
昼過ぎであるのに、紙が多く貼られている。
この時間帯であると、あまり依頼がないはずであるのに変だな?
それに、こんなに人がいるのに板のところには来ず、直接受付の方に行き帰っていく。
その間にもクラウドが依頼の内容を見ていく。
俺は字が読めないので何を書いてあるかさっぱりだ。
クラウドに字を教えてもらおうかな......
「おいおい、坊主。
ここは犬の散歩道にしては変じゃないか?」
酷くからかいの声で語りかけてきたやつがいる。
見ると、冒険者のわりには少し太めな男がいた。
酔っているのか顔は赤く、ユラリユラリと体が揺れている。
その光景をニヤニヤと酒を片手にしている男二人が椅子に座り見ている。
あれがこの男と飲んでいる連中なのだろう。
まったくこんなところで絡まれるとは、迷惑なものだ。
不機嫌さに鼻の頭にシワを寄せ歯を見せる。
「ゥヴーー。」
自然と唸り声まで出てしまう。
それを耳ざとく聞いた相手が、
「おぉー、こわこわ。
飼い主なんだからちゃんと躾ておけよな。
人様にそんなことをしてはいけないってな!」
そこでクラウドもむっとした顔をし
「ブランに躾は必要ありません。
元から僕の我が儘を聞いてくれますし、僕たちに害がなければ大人しく、優しい子です。」
「ほぅ、俺に歯向かうのか?
俺はCランク冒険者何だぞ?
お前が躾しないと言うのなら、俺が躾てやるよ!」
男は言いながら拳を振り上げ、俺を殴ろうとした。
ここで相手に攻撃を加えれば、俺達の方が不利になるだろう。
俺が人であれば対等に扱われるかもしれないが、俺は魔物だ。
魔物であるから、向こうに攻撃をすればその傷から、クラウドに対してお金を揺すってこようとするかもしれない。
だが、殴られるのも嫌だ。
ということで、ここは無難にかわす。
「......くそっ!
大人しく......!?」
避けたことで男は転びそうになる。
そして体勢を立て直し再度殴りかかってこようとしたところで、誰かが男の腕を押さえた。
「人の獣魔に手を出すのは感心しないな。」
がっしりとした大剣を背負った男が俺を殴ろうとしていた腕を握っている。
「何だお前、俺に文句でも...!?」
殴りかかってこようとしていた男は大剣を背負った男を見ると明らかに動揺していた。
......うん、何かよくあるパターンだよな。
ここで、捨て台詞でも吐いて逃げ出せば悪役感満載なんだが......
「え、Aランクのギルベルト!
あっ、いや、その、申し訳ありませんでした~!!」
んー、想像してたのとちょっと違うかったな。
いやそんなことより、Aランクっていったか!?
「君、大丈夫か?」
大剣を背負った男...ギルベルトがクラウドにそう声をかける。
「あっ、はい。
僕は大丈夫です。
ブランは大丈夫?
今ので怪我はしてない?」
あいつの攻撃はちゃんと避けたからな、怪我はしてない。
だから頷いておく。
「そっか、よかった。」
「すまないが、君はここに初めてきたのかな?
俺は常にこの都市にいるわけではないのだが、君の顔は見たことがないのでな。
こんな魔物を連れているのだから知らないと言うのも変であるしな。」
「あっ、はい。
今日ここに来たばかりです。」
「フム.........今日か。
宿はとってあるのかな?
最近は噂のせいでこの都市に多くの人が来るようになってな。
宿があまり空いていない。」
噂?
噂とはなんだろうか?
「えっ、そうなんですか?
どうしよう......
クプレも入れるような宿は空いてるかな......」
いや、クラウド。
クプレはどんな宿も普通は部屋に入れないからな。
裏技的な感じで、かつ見つかったら怒られるからな?
最後の方はぶつぶつと独り言であったのにギルベルトは聞こえたようで、
「クプレ?
他にも魔物がいるのか?
君はテイマーなのかな?」
「あっ、はいそうです。
クプレはギルド内に入れないので外で待ってもらってるんです。」
召喚術とテイムを持っているとか、召喚獣を常に出しているとか変であるし、説明が面倒であるので、全てテイムした魔物ということにしている。
「そうなのか。
ちなみにどんな魔物だ?」
「ローズディアって言う種ですよ。」
「フム......
それは馬を預けられるような宿でないといけないな。
だが、そんな宿ほど埋まっている可能性は高いな。」
クプレが入れる宿を、クプレを繋いでおけられるような場所のある宿と認識したようだ。
うん、まぁ、普通そう考えるよね。
「......よし、これも何かの縁だ。
俺の泊まっている宿はちょうどそのような場所もあるし、まだ空いていたはずだ。
そこに泊まらないか?」
「えっ、いいんですか?」
「あぁ、大丈夫なはずだ...............多分。」
すっごい小さく多分って言ったぞ。
大丈夫なのだろうか?