56話目
さて、あの頭に直接響く声は俺だけに聞こえているのかと思っていたが違ったことが判明した。
......待てよ。
と言うことはこの世界では死んだ振りが出来ないんじゃないか?
「ブラン、話を戻すんだけど。
さっきの神の声の意味ってなんだろう?
信頼度とか、恩恵とか、本には載ってなかったんだけど......」
ほぅ......
本には書いていなかったのか。
と言うことはあまり知られていないことなのだろうか?
俺は鑑定でどういうものなのか分かるが......
さて、どう言ったものかな。
『......本に載ってなかったということは、あまり知られていないことなんじゃないか?
恩恵って言うくらいだからプラスにしかならなさそうだし、誰かが知ったとしても言わなかったんじゃないかな。
冒険者ってプラスになることは隠したりするだろ?』
「なるほど。
そういうこともあるかも......
まぁ、僕が読んだ本なんてミスルナの図書館の本の一部だけだから、他の本には書いてあったのかも知れないね。
そのうち王都の図書館にも行ってみたいなー」
『王都は遠いのか?』
「んーと、王都までは大分距離があるよ。
ここマクダンタから行こうと思うとまず山を越えるか、その山を迂回するかしないといけないから...
山を越えるにも大変だし、迂回するととても遠いしね。
でも、何時かは行けたらいいなー」
そんなことを話していたら、今日野営するところまで戻ってきた。
「おぅ、クラウド。
ありがとうな。
それだけあれば足りるだろうよ。」
ガンツがそう言いながらこちらに来、クラウドの持っている枝を持つ。
「焚き火の側で待っていてくれ。
スープをご馳走するぜ。
まぁ、スープって言ったって干し肉を入れて煮ただけだがな。」
確かに少しいい匂いがする。
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焚き火の前までいくと、御者の人とグレイブが話をしていた。
「では、最近は人の流入が多いのか。」
「そうですな。
危険も多いですが見返りも多い、迷宮のようなものになっておりますからな。
領主様も一般に解放し、掘らせて買い取るという形にしたようですし......
奴隷商は喜んでいるようですな。
荷物持ちにしても、戦闘用にしても売れると...」
「迷宮のようなものと言うことは、迷宮ではないのだろう?」
「そうですな。」
「それでは早いうちに枯渇してしまうのでは?
そのように急に集めては...
掘ったものを買い取るといっても、他に売りに出すものもいるだろうに...」
「さて、領主様の考えていることは私共には分かりませんな。
ただ、門の審査は厳しくなったと聞きますな。」
グレイブは考えこんでいたが、ふとクラウドの方を見、
「......なんだ。
来ていたのなら、もっと近くで座ればいいものを......」
「いや、話をしていたから邪魔にならないようにと思って......」
「そんなに気を使わなくて大丈夫だ。
そこまで重要な話ではない。」
「そうな......」
「スープ出来ましたよ~」
リューカがスープを持ってきた。
「スープと言うには味気ないがなー」
「野営で温かいものが食べられるというだけで贅沢なのよ?
要らないのなら食べなくていいわ!」
フルールがガンツの分を取り上げた。
「うわ、すまん!
食べるから!
是非とも欲しいです!!
文句などありませんから!」
ガンツがフルールに懇願している。
......あそこは仲がいいな。
当然俺の分のスープはなかった。
魔物が料理されたものを食べるというのを知らないのだから当然だろう。
ましてや、狼であるので肉しか食べないと思ってるかもしれない。
クラウドがいるかどうか聞いてくれたが、遠慮しておいた。
干し肉はくれたのでそれをかじっていた。
しかし、この干し肉というものは塩辛い。
保存をするために塩を塗るのはわかるが、それにしても辛い。
一度水で洗いたいくらいだ。
夜の見張りとして、竜の鍵爪の人達だけでしてくれるそうだ。
クラウドもしようとしたのだが、今まで歩いて、尚且つ一人であったから、ちゃんと寝れていないだろうと押しきられ、見張りはしなくてよくなった。
俺も何時もよりはぐっすり眠れるかな...
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それから何事もなく馬車は進み、ようやく鉱山都市マクダンタに着いた。
マクダンタの入り口では人で溢れかえっている。
ミスルナでは入り口は1つだったのに対し、マクダンタは4つある。
1つは歩いている人達が、2つは馬車やら荷車やらで来た人達が、最後の1つは何故か列がない。
こんなに人が待っているのにも関わらず、なぜあの空いている1つを使わないのか......
「俺達は馬車の方にいくがクラウドはどうする?
歩きの方に並ぶか?
このまま俺達と一緒に行くか?」
「このままでもいいですか?
あっちに行くと混雑しているので......」
「あぁ、良いぞ。」
そうして馬車の列に並ぶ。
俺達の馬車の前には他のよりもより一層大きな馬車である。
そうして順調に進んでいき、大きな馬車の順番になった。
門番と御者が何事か話をし、他の門番が馬車の後ろに回り被せてある布を捲り中を確認する。
その馬車の中が俺にも見えた。
馬車の中には人が多くいる。
皆うつむき、服装はボロボロである。
手には鎖のようなものが見えた。
.........奴隷......か...
そう言えば一昨日、グレイブと御者が話をしていたときに言っていたな。
そこで右の一番手前に座っていた人が此方を向いた。
目は虚ろで、此方を向いたが景色等は目に入っていなさそうだ。
他の人よりも小さく、顔立ちも幼いので子供であるのだろう。
子供であるのに.........
そうして確認は終わったようで、門番は戻っていき、その大きな馬車は都市の中に入っていった。