53話目
男はプスプスと黒い煙を上げ倒れている。
クラウドが雷の魔法を使ったのかと思い振り向いて見るが、クラウドは横に首を振った。
じゃー、これは誰がしたのだろう?
と言うか、こいつ生きてるのだろうか?
「......ったく、ちゃんと回りを見てよく、よーく!考えてから行動しなさいって言ってあるのに!!」
ふいにそんな声が聞こえた。
声のした方を見ると水色の髪をした女の人が此方に向けて歩いてきていた。
そうして俺達に一瞥もくれずに男の元へ行き、
「いつまで寝てるの!
早く起きなさい!!」
と言って、水をぶっかけた。
............えー、それは流石に酷いんじゃないだろうか。
水が何処からともなく出てきたと言うことは、この女の人は魔法が使えるのだろう。
そして、男に雷を落としたのも多分この人なんじゃないかな?
あんなに黒焦げになってるけど、本当に大丈夫だろうか?
男は俺の心配をよそに、水をかけられた瞬間跳ね起きた。
「うっわ、冷てぇ!
フルールもう少し手加減と言うものをだな......」
「うるさい!
あんたがちゃんとしないからでしょ!!
だいたいあんたはいつもいつも......」
男が苦言を言おうとすると水色の髪をした女フルール?が遮り、説教が始まった。
男はいつの間にか正座になり、小さくなっている。
これは俺達どうすればいいのだろう......
クラウドの方を見るとクラウドも此方を見ており、目線があった。
クラウドは困ったような苦笑いを浮かべていた。
「ガンツさん大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だろ。
あいつは頑丈であることだけが取り柄だし、いつものことじゃないか」
「そうなんですけどね...」
また声がした。
今度は馬車の方からだ。
見ると黒に近い灰色の髪の男と赤色の髪の女が馬車から降りてきているところだった。
ガンツと言うのは今怒られているやつの事だろう......
散々な言われようだな...
そうして二人が此方に歩いてきて、
「申し訳ない。
うちのバカが先走ってしまって...
俺らはCランクパーティーの竜の鉤爪、怒られているやつがガンツ、怒っているのがフルールで」
「私はリューナです」
そういって、お辞儀をするリューナ。
「で、俺はリーダーのグレイブだ。」
クラウドも少し慌てて
「ぁ、えと、僕は最近Eランクになりました。
クラウドと言います。
僕の隣にいる狼がブランで、その上にいるのがサファイア、僕の反対隣にいるのがクプレです」
紹介されたので俺もお辞儀しておく。
すると、グレイブの片眉が上がったが直ぐにもとに戻った。
「それでだな、今回の事は貸しということではダメだろうか?
どうやら君も冒険者のようだしな。
一応俺達はCランクだからな。
何かの助けにはなるだろう。
それと君......いや、せっかく名乗ってくれたんだ名前で呼ぼう。
クラウドはマクダンタに向かってるのか?」
「あ、はいそうです。」
「歩いてか?」
「えぇ、馬車を借りるほど僕にお金はないので...」
「ふむ、じゃぁ、俺達と一緒に行くか?
幸い俺達もこれからマクダンタに向かうところだ。
あぁ、先程の貸しとは別だ。
これは行き先が一緒だからな。
ついでに、というやつだ。」
「そんな、悪いです...」
「いいんだ。いいんだ。
ただ、鳥は乗せられるが狼と鹿は流石に乗りきらないからな。
馬車の後を走るように指示してくれるか?」
「そうですね。
ブランは仕方ないとして、クプレはどうする?
馬車の横を走る?
それとも一旦帰る?」
それを聞いてクプレは首をかしげている。
するとクラウドは何か思い付いた顔をし、サファイアを軽く撫でる。
これは念話を繋ぐときの合図になっている。
『クプレはどうしたい?
馬車の横を走るか、一旦帰るか。
ブランは走るしかないからごめんだけど、頑張ってもらっていいかな?』
『私は狼と走るのは怖いから一旦帰ってる。
でも、着いたら直ぐに呼んでね?』
『分かった。
まぁ、走れない事はないから大丈夫だ。』
そして何気にクプレの言葉が辛い......
そしてクプレが帰り、その事にグレイブとリューナが驚いている。
「テイムかと思っていたら、召喚獣だったのか。
まぁ、ここら辺では見ない魔物だったしな。
だとすると、他のも召喚獣か?
なら何故狼も帰さない?
狼も乗らないぞ?」
「ブランは召喚獣ではないので...」
また片眉が上がった。
癖なのかな?
「テイムと召喚術両方持ってるのか...
いいとは思うが、同じ系統だとレベルが上がりにくいぞ?」
これ、デクも言ってたな。
「いえ、テイムは持ってないんです。
ブランは......その、まだ野生と言いますか...」
「野生だと?
それでよく襲われないな。」
「えぇ、逆に僕の命の恩人...いや、恩狼?なんです。」
クプレの片眉が上がり、質問攻めになった。
そして、細々と俺との出会いを話していく。
そして、粗方話終わると
「珍しい事もあるんだな。
狼の子供が魔物に立ち向かってまで人を助けるとは...
いや、質問攻めにして申し訳ない。
どうも興味が湧いてしまってな。
......だが、その状態のままだと色々と問題があるぞ。
クラウドがテイムして縛ってしまうのが心苦しい、というのは分かる。
恩を仇で返すようなものだからな。
でもだ、このままだと両方辛い思いをすることになるぞ?
マクダンタにつくまでは時間があるからどうするか考えることだ。
俺達はあの怒ってるやつを止めてくるよ。」
そう言ってガンツとフルールの所に行った。
というか、まだお説教終わってなかったのか......
クラウドは困惑の顔で一生懸命考えているようだ。
俺としては、テイムしてくれてもいいんだがな...