38話目
クプレはクラウドから少し離れ、辺りを見回す。
最初にサファイアを見、サファイアが首を横に振ると顔を動かし、次に俺と目が合った。
そこで俺が先程の声の者だと言おうとした矢先、クプレはビクッと体を弾ませそのまま俺から一番遠い所に行き、角を体の前に出し、戦闘体勢になった。
『狼だ!狼!狼!狼怖い!!』
強くそう思っているからだろうか、念話によって此方に考えが流れてきた。
クラウドも急のことで驚き、クプレと俺を交互に見ているだけだ。
とりあえず落ち着いてもらうため動かずに声をかける。
『落ち着け。俺は何もしない』
『嫌!嫌嫌!!近寄らないで!ダメ!姉さん!母さん!!』
どうやら、パニックになり、今見えてるのとは違うものが頭を過っているようだ。
此方の声も聞こえていない。
クプレはボタボタと涙を流し、足が震えている。
『...あぁ......あああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!!』
クプレが角を振り上げ、此方に駆け出そうとした。
「強制帰還!!」
クラウドがそう叫ぶとクプレが淡く光り、消えた。
クラウドは1つ大きなため息を吐き、ベットに腰掛けた。
俺もいざというときのために張り詰めていた体をほぐすように、伸びをし、床に寝そべった。
束の間静寂が訪れた。
しかし、その空気は重い。
「クプレも前に何かあったみたいだね......」
クラウドが顔を俯かせ、そう呟いた。
うん、そうだろうな。
俺を見て母さん、姉さんと叫んでいたのを見ると、家族でいるときに狼に襲われたのだろう。
あれだけ怯えているということは、最悪の場合クプレの家族は全員食べられてしまったのかもしれない。
これは仲良くなるのに時間がかかりそうだ......
「明日依頼を受けずに森の方に行って、クプレとまず話し合おう。何があったのかは聞けたら聞くけど、あまり辛い過去を思い出すのは苦しいだろうし、クプレが話せるようになってからにしよう。だから取り合えず、ブランが危険ではないということをまず第一に知ってもらおう。......それでいいかな?二人とも。」
ふむ.........まぁ、いいのではないだろうか?
森も魔物が多いと言ってたわりに全然いないし、宿で暴れられると困るしな。
俺は頷いておく。
サファイアの方を見ると、サファイアも頷いていた。
態度が軟化しているな。
本当に転機は何時だったんだろうか?
「わかった。ありがとう!じゃー、また明日だね。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
朝ご飯を食べ、森の少し開けているところに来た。
辺りを気配察知で見てみるが、やはり何もいない。
そのことをクラウドに伝える。
するとクラウドが1つ頷き、腕輪を外した。
......あっ、昨日聞くのを忘れていた!
うーん、仕方がない。
これが終わった後に聞こう。
「じゃー、クプレを召喚するね」
そう言うとクラウドの前に魔方陣ができ、光り始めた。
俺はその魔方陣から出来るだけ離れ、伏せの体勢で様子を見守る。
そして、魔方陣からクプレが現れた。
「キュイキュイ」
現れるとすぐに鳴き、顔を上に向けた。
何だ?
何か言っているようだがまったく分からない。
クプレは頭を上に向けているが、なんかふんぞり返っているように見える。
ちょっと偉そうで感じが悪い。
これはサファイアに念話を繋いで貰った方がいいかもしれないな。
サファイアはまた何時もと同じように俺の背中の上にいる。
徐々に定位置化している気がしないでもないが、まぁ仕方がないだろう。
サファイアはまだ飛べないわけだし......
まぁそれはさておき、サファイアに念話を全員と繋いでもらう。
そして、クラウドが念話を繋いだことと念話の使い方を教えると
『昨日は取り乱してすいません。まだ狼を見てしまうとどうしても身構えてしまいますが、もう大丈夫です。ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。』
そう言い、また顔を上に向ける。
......何故顔を上に向けるのだろうか?
少し気になる.........
『じゃー、これから一緒に歩んでいくことになるし、互いに自己紹介をしようと思うんだけどいいかな?』
それにクプレが頷いたので俺はそっと移動し、クラウドの左斜め後ろに座る。
クプレは最初普通を装っていたが俺が近づくにつれ、足が震え体を退いている。
これだけ怯えられると悲しいが、本当に親を狼に殺されているのだとしたら恐怖があるのは普通だ。
それをクプレは頑張って克服しようとしてくれているのだから、俺も悲しんでいる場合じゃない。
できるだけ怖がられないよう頑張らなくては......
『クプレ無理しなくてもいいんだよ?徐々に慣れていけばいいんだから...』
クラウドが心配そうに訪ねている。
『......いえ、大丈夫です。これぐらいの距離なら何とかなります。』
『そう?じゃー、紹介していくね。僕の左にいるのがブラックウルフのブランで、ブランは召喚獣ではないんだ。でも、僕が魔物に襲われているところを助けてくれたんだよ。で、ブランの上に乗っているのがファイアーバードのサファイア。サファイアは召喚獣だよ。それに今会話ができているのはサファイアの念話と言うスキルのおかげなんだ。』
そこで一旦区切り、俺とサファイアを見て
『そして、二人にも黙っていたんだけど僕はハイエルフという種族で普人族じゃないんだ。いつもはこの腕輪を付けて姿もステータスも偽装しているんだ。』
そう言って掌に腕輪を乗せ見せてくれた。
腕輪はシンプルで、何も彫りはなく、真ん中にひし形の紅い宝石が嵌まっているだけだ。
ひし形の宝石は綺麗だが、特に素晴らしい物という感じはしない。
こんなので偽装ができるのか......
鑑定のレベルも高レベルでないと見破れないのに、言っては悪いが何かちゃっちい気がする。
『この腕輪は人化の腕輪と言って、最大MPと魔力を消費して姿を人間にして、ステータスも自分の好きなように変えられるんだ。まぁ、容姿は人間に当てはめると大体こんな感じになるだろうと腕輪自身が判断して変えるから、あまり変わらないし、ステータスも自分が変わった年代の人間のものに近くないと駄目だからあまり大きくはいじれないんだけどね。』
.......マイナス要素が多い気がしないでもないが、人間に変わるにはそれぐらいしないといけないのだろう。
そうだ、話が少し変わるかもしれないが今のうちに気になっていたことを聞いてみる。
『1つ聞いてもいいか?何故サファイアを召喚するときはそのままだったのに、今回は腕輪を外して正体を晒してまでクプレを召喚したんだ?』
『...それは.........』
クラウドは少し申し訳ない顔をし
『ブランと会ったとき僕は人の姿で、ブランも僕のことを人だと思っていたでしょう?だけど実際僕は人じゃない......ブランが折角友達になってくれたのに、秘密にしているのは物凄く苦しかったけど、それ以上に僕が人ではないと知ってブランが離れていくかもしれないと思った方が何倍も怖かったんだ。......でも、ルリカに信用していないから話せないのかと言われて、僕はブランのことを信じきれていないんだなって思った。だって、ルリカに言われたときも結局絆がないからとか言っちゃったし......ブランは何時も僕を支えてくれているのにね。』
そう言い俺の頭を撫でた。
そんなに気負わなくても良いのに。
俺は人とか人じゃないとかはあまり気にしないと思うのだが......
だって、俺自身魔物ですからね。
だからその事をクラウドに伝える。
『俺はクラウドが人間だとかエルフだとか気にしない。俺自身が魔物だしな。俺が付いてきているのは人間だからじゃなく、クラウドだから付いてきているんだ。だからそんなに思い込まなくても大丈夫だ。』
それを聞くとクラウドは少し照れて嬉しそうに笑った。
うんうん、笑顔が一番だよね。
『そうだね。ブランの仕草や行動が人っぽいから深く考えすぎてたよ。
まぁ、サファイアもクプレも色んな事を考えたりしているようだし、なんか魔物って感じがしないね、みんな。』
サファイアが呆れていたり、クプレがどうしたらいいか困惑していたりするが、まぁ、より親密になれたのだからよしとしよう。
さて、次はクプレの事を(俺は鑑定で大体知っているが......)説明してもらおうとクラウドがしたのだが、それを遮るかのように森の奥から悲鳴が聴こえた。