36話目
不意に目が覚め、瞼を開けると目に飛び込んできたのは白一色だった。
なんだここ?
辺りを見回すが何もない。
寝る前の記憶を遡るが、宿で寝ていたはず。
このような所に来た覚え......
「わっ!!」
「っ!?」
わっ!!と言う声と共に背中に乗られ、体が跳ねた。
そして、俺の背中の上でクスクスと誰かが笑っている。
振り返り見てみると、金色の髪の可愛らしい女の子が笑いながらこちらを見ていた。
年は中学1年くらいだろうか?
金色の髪はストレートで腰の辺りまで伸びている。
服は薄い水色のワンピースを着ている。
「こんにちは、狼煙 祐也くん。いや、今はブランだっけ?」
背の上の少女が笑い終えたのか、そんなことを言ってきた。
何故俺の名前を知っているのだろうか。
今は狼だからブランの方はどこかで知ったのなら分かるが、俺の人間だったときの名前は誰も分かるはずがない。
だがまぁ、見ず知らずの場所で見ず知らずの少女といるのだ。
警戒しなくては......
何をされるか分からない。
......まぁ、今背に乗られてるけども...
「まぁまぁ、そんなに警戒しなくていいよ。何もしないから。」
そう言い、少女は俺の背から降りた。
何もしないと言っていても、油断はならない。
相手に何か悪いことをします、と言ってから悪いことをする人はそうそういない。
少女が背から降りたので体ごと少女の方に向ける。
「まぁ、それはそうなんだけど、本当に何もしないんだけどな~単に話をしに来てあげただけだよ。」
......ん?俺は話をしていないのに相手に伝わってる?
「そうだよ。伝わってる。私心の中の声が聞こえるから~貴方は話せないからちょうどいいでしょ?」
心の声が聞こえる?
ということは、俺が考えていることが丸分かりってこと?
...ぷ、プライバシー無視ですか......
「仕方ないじゃない。聞こえるんだもの。でね、本題に入るんだけど、間違えて貴方をこの世界に連れてきてしまいました。ごめんね?」
てへっ、と子首をかしげてこちらを見てくる少女はとても可愛らしいが.........
はい?間違えた?
どういうことだ?
「えっと、私は今君が過ごしてる世界の神の片割れなんだけど、私が管轄しているのは魔物や普人族じゃない方なんだよね。で、もう片方の神が普人族と野性動物の方なんだけど、最近数は増やすわ、普人族以外を普人族に殺させたり奴隷にさせたりと好き放題するの。だから私の方も取り合えず数を増やそうと思って、他の神に有り余ってる魂を貰う約束をしたの。ほら貴方が前住んでた世界って普人族多いじゃない?だからいくつか魂を貰おうとしたんだけど、もう死ぬ運命の物しかダメって言うからそれを選別したの。で、たまたまその選別された魂の近くに貴方がいて、間違えて殺してしまったってわけ。いや、本当に申し訳ない。」
.........
......はぁっ!?こいつが神?
もっとあごヒゲの生えたおじいさん風なのかと思ってた。
それに俺完全に巻き添えじゃん。
というか、説明遅くないか?
生まれ変わってから大分経ってるんだが?
「あー、姿は好きに変えられるよ。そして、説明が遅くなったのは間違えたからせめてもの償いで記憶は残したし、その記憶から知性Lv._とか言うチートもつけたし、記憶があることによって獣の生活に支障が出ないよう、順応するように変えたから償いは済んだかなと思って最初は説明せずほっておいたんだよね。そうしたら前の世界の神が説明くらいちゃんとしろって、怒ってきてさ、だから今説明に来た訳なんだよ。私忙しいのにさー」
ひどい!
色々あげたからもういいだろうって、ほおって置かれてたのかよ。
この神大雑把だな。
地球の神様、ありがとうございます。
1市民の俺なんかに説明をするよう言ってくれて...
で、これはやっぱり帰れないのだろうか?
「うん、それは無理だね。」
やっぱり。
まぁ今の生活に慣れてきたし、大体のんびりと出来てるからいいかな。
それと1つ気になるんだが、この目の前にいる神は魔物と普人族以外を管轄しているといったが、俺生まれたとき野性動物だったんだが?
野性動物はもう片方の神ではなかったのか?
「あー、それね。君を魔物として生まれ変わらそうと思ってたら介入されちゃって、野性動物にさせられたんだよね。だけど私も負けてないから、場所は野性動物でも生きられるような森にすることができたんだよ。」
神が胸を張ってどや顔をしている。
1回介入されて邪魔されているのに......
「こほん、でだね。説明は終わりなんだけど、まだ話はあってね。」
まだあるのかよ......
なんか、突然色々大変な話を聞いたから精神的に疲れた。
「まぁまぁ。でね、少し昔話をすると、普人族、野性動物、魔物、普人族以外、をこの世界に作ったの。で、人型の者がそれぞれの種族で纏まって国を作ったり、文化を作ったりして、平和に過ごしていたんだ。そして、そのうち交流もするようになってこの世界は豊かになっていった。
でもそれは長く続かなくて、そのうち普人族がこの世界の頂点だ、頭がいいのは普人族だ、全ての種族の管理をするのは普人族だ、とか一部の普人族が言い出して、国を作ったんだよね。普人族は弱いけれど数が多かった為、普人族以外の人型をどんどん制圧していった。そして、それに対抗しようと普人族以外が纏まりだした。それで数の利が無くなった普人族は魔物を縛り使うようになった。これが貴方の知る命令ね。それまでは使役を使って協力しあっていたの。そして、次第に物資がなくなっていき争いは取り合えず休止になった。
それから長い年月が経って、そんな争いはしなかった中立の普人族と普人族以外は交流をするようになって、少し平和が取り戻されてきているのが今現在のこと。」
そこまで話終えた神は何処からか飲み物を取り出し、一口飲んだ。
おい、それどこから出した。
何もないところに手を出したと思ったら、急に現れたぞ!?
「ん?君もいる?」
いや、いらないが......
というかルリカの言っていた中立とはそういう意味だったのか。
それで、ルリカは普通に街に居られるというわけか。
「でもね、平和になってきていると思っていても、それはまやかしなの。一部の普人族が作った国、聖都は少しずつ力を蓄えていってる。普人族は能力が低いからその能力を多く持つ者を選別し、一番素晴らしい能力を持つ子を幼少期から育て上げ、強くする。また、その子を英雄とすることで周りの士気を高めているの。他にも何か嫌な研究をしているようだし......だからチートを持つ貴方に世界を救えとは言わないけど、この世界が少しでも良くなるよう、自分で考え行動してほしいの。」
そこまで言うと神は頭を下げてきた!?
うえ!?神様が頭下げてる!?
いや、待って取り合えず頭を上げて貰わないと......
なんかヤバイ気がするよ!?
「お願いを聞いてくれる?」
はい、聞きます!
聞きますとも!!
神罰下りそうだし、世界を救えとか大きな事は言われていないし、大丈夫だと思う.........多分。
だから頭を上げてください。
そうして漸く頭を上げてくれた。
もう疲労困憊だよ.........
緊張が緩んだのか眠くなってきたな......
瞼が降りてくる。
まだ、話を......きい...てな......
狼は眠ってしまった。
「関わりたくないと思っても、もう貴方は関わらずにはいられないと思うんだけどね。一応忠告はしたし、出来れば世界が良くなる方に動いてほしいな」
そう言いながら神は狼の毛皮を撫でていた。