31話目
門につくとデクがいた。
街から出るときは居なかったが、何かあったのだろうか?
...いや、いつも必ずいるという訳ではないのだからそう思うのは変か。
デクだって年がら年中ここで仕事してるわけでもないし、休日だってあるだろう。
たまたま今まで門に来るとデクがいたってだけだし...
......それに、まだそんなに多くの回数ここに来てないしな...
「よう、朝は俺がちょうど居ないときに門を通ったみたいだな。今回はちゃんと手続きしたようだが。これからもちゃんと規則は守れよ。」
デクは此方に歩いて来るなりクラウドにそう言った。
「はい。今まですみませんでした。」
「まぁ、これからちゃんとするならいいけどなー。......でブラックの上に乗ってるのはなんだ?」
デクが興味深そうに俺の背の上を見ている。
......あぁ、そう言えばまだ名前訂正してなかったな。
「...ブラック?.........ブランのことですか?ブランの背にいるのはファイアーバードのサファイアです。」
「ファイアーバード?赤じゃないのにか?それにここら辺にファイアーバードはいないだろう?どうやってテイムしたんだ?」
「サファイアはテイムではなく召喚術で使役してるんですよ。」
それを聞くとデクは目を見開き驚いている。
「召喚術とテイム両方持ってるのか!?普通熟練度を上げやすくするためどちらか片方しか習得しないんだが...」
デクが少し生暖かい眼でクラウドをみている。
「いえ、僕はテイムは持っていません。元から召喚術だけを伸ばすつもりです。お互いに良悪あり、どちらがいいか悩みましたが同じような系統を2つも取ってしまうと熟練度が分けられて、育ちにくいのは知ってます。」
クラウドははっきりとそう答える。
同じ系統だと熟練度が分けられるというのは、片方を使っている場合もう片方は使われないからだろうな。
そうすると、成長の速度が遅くなり弱いまま。
良悪があるから2つ持っていると補い合っていいかもしれないが極めている人には敵わない。
こういうのを器用貧乏って言うんだっけ...
「...おぅ、そうか...やはりブラックはテイムしていないのか。」
デクがため息を吐きそう呟いた。
...あれ?テイムの話も勘違いしたままだと思ってたんだが、違ったようだ。
「テイムしていなくてもこれだけ言うことを聞く。それに人の生活の仕方とかも分かっているようだし、何なんだろうなお前は。」
俺の方をちらりと見ながらそんなことを言うが、自分自身に自問しているだけなようなので、なにも答えずにデクを見つめる。
まぁ、聞かれても答えられないしねー。
「まぁいい、何回も言うようだが面倒事だけは起こすなよ。お前が何かをすれば俺はお前を殺すしかなくなる。」
しっかりデクの目を見、頷く。
殺されるのはまっぴらだ。
俺は平穏に生きたいだけだからそんな戦闘を好んではしない。
...まぁ、身を守る時ぐらいはいいよね?
前に獣がしたと分からないようにと言われたし...
「...でだな話が大分逸れたが、森で魔物が増えているようなんだよ。ギルドに多くそのような報告が来ているようだ。ブラックと出会ったと言っていたときに、ドーウィ2羽と森のまだ浅いところでであったと言っていたな?もうその時からその兆候があったってことだ。今日も森に行っていたようだが、何か異変は無かったか?」
「僕達は森の東側にあるトウレイ川に行ってたんですが、ゼリー種が大量発生しているようでした。普通に遭遇しただけでも2匹、1匹に仲間を呼ばれ10匹は寄ってきていました。それで必死に走って逃げてきたところです。」
「10匹もだと!?うーむ、どんどん酷くなってきているな。ここの森は普通の動物も住める安全な森だったはずなんだが、なぜ急にこのようなことに......
報告をありがとうな。ギルドの方でもすまないがもう一度報告しておいてくれるか?今後討伐系の依頼が増えるかもしれないが気をつけるんだぞ。」
「わかりました」
そう言い、俺達は報告をしにギルドに向かう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ギルドの中に入ると皆の雰囲気がピリピリしていたり、ギルドの受付の人がバタバタと忙しそうにしていたりする。
...何だか大変なことになっているな。
依頼達成とさっき報告しておいてくれ、と言われたことを報告するためにクラウドがカウンターの前に立つ。
するとニコニコしながらルリカが来た。
普通に見ればとても可愛らしく見える。
だが、これが上部だけだと知ってしまった俺としてはこの笑顔が怖い。
「依頼達成報告ですか?」
「ゼリーの納品とその時に起こった森の異常について報告をしようと思いまして...」
それを聞くとルリカは少し目を見開いたがすぐに表情を戻し、
「では先に依頼の方をしてしまいますね。
......はい、無事達成されております。こちらが今回の達成料となります。」
そう言い、茶色の皮袋をクラウドに手渡す。
ルリカは1つため息をついて、
「...では、森の異常について話をしていただけますか?」
と言った。
クラウドはそれに頷き、デクに話した内容と同じことをもう一度言った。
それを聞き終わるとルリカはまた1つため息をつき、
「...少しここでお待ちください」
そう言うが早いか奥に行ってしまった。
森の異常について報告しに言ったのだろうか?
だが、何故俺らを待たせたんだろう?
少し経って、ルリカが奥から出てきた。
そして、カウンターの前にたつのかと思いきや、こちら側に出てきた!
「ほら、早くいらっしゃい」
そしてルリカがそう誰かを呼ぶと同じところから小さな少女が現れた。
髪はルリカよりもさらに明るい茶色で、肩ぐらいの長さがある。
顔はルリカと良く似ており、ルリカの顔を幼くすればこんな顔になると思う。
身長は110cmくらいだろうか?
人前に出るのは恥ずかしいのか、ルリカの後ろに隠れている。
だがチラチラと俺とサファイアを見ている。
......目がおかしくなったのだろうか。
あるはずのないものが見える。
「この子は妹のアンル。クラウドには私に妹がいるのは話してたよね。これから少し話をしましょう。そうね、近くにあるカフェに行ってそこで話をしましょうか。」
そう言うが早いかさっさと歩き出す。
カフェと聞いてアンルは嬉しそうな顔をし、ルリカの後ろを小走りについていく。
......
クラウドはアンルを見て少し慌てていたが、何も言わず、そのままルリカの後についていった。
仕方ない、俺らも後を追うとしますか。
何か色々と気になることがあるしね。