135話目
ヘアリーブッシュ・ドラゴンモドキが動き出した。
相手は近接攻撃ばかり。
でも、毒の噴射は警戒しておかないと……
毒を喰らうと解毒出来ないからね。
様子を見るため、遠距離攻撃を仕掛けてみようか。
敵が近づいて来るのに合わせて、僕は後退していく。
まずはカマイタチから!
僕は威力を上げるため風の刃の数は少なく、大きく調整したカマイタチを放った。
しかし、敵は怯むことなくグングン近づいてくる。
カマイタチが鱗に当たるが、薄く傷が付いただけ。
これは全然ダメージになってなさそうだね。
技を放つ際、後退するスピードが落ちたから少し近づかれたけど、直ぐに元より距離をあける。
そしてそのまま吹雪を放つ。
敵の動きが止まり、耐える様に姿勢を低くしている。
ズズズッと体が後ろに動いた。
しかし、それだけで終わってしまった。
いつもみたいに吹き飛ばす事は出来ていない。
体が固まることも無かったようだ。
敵は体に付いた氷雪をふるい落とし、一方的に攻撃される事を嫌って全力で突進してきた。
僕は慌てて横にとぶ。
横をゴウッと風が吹き抜けた。
僕は慌てて振り返る。
敵は鎌首を上げて、此方を睨んでいる。
「ジャァッ!!」
敵は口を大きく開け、潰すような勢いで噛み付いてきた。
僕は慌てて後退する。
敵の顔はズドンと音を立てて地面に刺さった。
ジュワジュワと音がするとともに、敵の顔が少し地面に沈んだ。
刺さっている今なら!
と攻撃に移ろうとした瞬間。
「ジャァアッ!」
いとも容易く、土を払うように頭を持ち上げ僕の眼前を尾が通り過ぎた。
あ、危ない!
もう少し速く動いていたら、尾で吹き飛ばされているところだった。
あんなに顔が地面に刺さってたのに、なんで早く抜けたんだろう?
地面をチラリと見てみれば、ドロドロに溶けていた。
これが溶解毒の効果って事?
さっきの噛みつきを喰らってたら僕も溶けてた!?
気をつけないと……
噛みつきは注意だね。
後、遠距離攻撃は2つあるけどこれだけ近いと放つ前に反撃を食らいそう。
距離を取ろうとしても、敵も距離を取らせたくないだろうから、簡単には離れられそうにない。
近接で攻めていくしかないかな。
僕は爪と牙に氷装を纏わせる。
「ジュルルルッ!」
敵は尾を振り上げ、僕を潰そうとしてくる。
敵に近づかないといけないから、ここは右斜め前に!
「ジュアッ!」
また噛みつき。
左に避ける。
刺さった地面からはブスブスと煙が立ち昇っている。
また違う毒だ。
でも、顔が近づいてきたのはチャンス!
僕は思い切り地面を蹴り、敵の首辺りに目掛けて噛み付いた。
ズブリと氷の牙が刺さる。
「ジュルアァッ!!」
敵は頭を振り上げ、僕を振り落とそうと暴れる。
牙だけで支える形となってるから体がブラブラと揺れる。
このままでは振り落とされる!
どうにか爪を引っ掛けて、体勢を整えなくちゃ!
僕は脚を動かし、口の両脇に前脚を持ってきた。
後ろ足はバタバタと動かしてるが、何処にも引っ掛からない。
「ジャアァアッ!」
敵が動きを一瞬止めた。
周りを見ると、随分頭を高く上げているようだ。
「ジュアッ!」
突如敵が頭を地面に振り下ろし始めた。
ヤバイッ!
地面に叩きつける気だ!
前脚だけだけど、どうにか蹴って避けないと!
口を離し、脚に力を入れ思いっきり蹴る。
ズダァァァンッ
ゴロゴロゴロっと転がる。
痛たたっ
何とか地面と挟まれることは回避した。
土煙が上がっている。
「ジャッ!」
土煙を破って敵が口を開けながら真っ直ぐに突っ込んでくる。
体勢も不安定だったし、何より視界に敵を捉えた時の敵との距離が近すぎる!
何とか体を反らしはしたけれど、牙が掠った。
グウゥッ!
焼けるような痛みと、体中を不快な感覚が襲う。
視界が歪む。
吐き気が込み上げてくる。
頭がグラグラする。
これ、は、まずいかも。
敵が此方を見る。
口を開け、再度噛みついてこようとしている。
…避けないと!
身を投げ出すように地面を蹴る。
辛うじて避ける事は出来たが、地面に倒れ伏す。
視界がグワングワンする。
起き上がらないと……
次は避けられない………
脚に力を込め、フラフラと立ち上がる。
前を見れば、すぐそこに口があった。
殺られる!
そう思った瞬間、隣を赤い物が飛び、口の中に吸い込まれていった。
「ジャジャァジャッ!?」
敵は大きくのけ反り身をくねらせ、暴れている。
次に紫色のボンヤリと透けている玉がフヨフヨと敵に向かって行き、体に当たるとスゥッと消えた。
な、なにあれ?
視界に白い玉がフヨフヨと此方に近づいてくるのが見えた。
え、なにこれ!?
白い玉も僕の体に当たって、スゥッと消えた。
何だか少し力が張る気がする。
それとさっきよりは気分がマシになった。
「ジュルルアァァッ!」
敵が僕ではなく、何処か違う所を睨みつけている。
そして、尾を大きく横薙ぎに動かした。
敵の視線、尾の軌道上を見れば濃い青色の物体が……
ってあれはサファイア!
なんであんな所に…
早く避けて!
サファイアは避けようとはせず、翼を広げ頭を守るような体勢になった。
食らうつもりなの!?
無茶だ!!
敵の尾がサファイアに迫る。
バシンッ!
という音と共にサファイアの体が吹き飛ばされる。
遠くの木に当たり、地面に落ちた。
サファイアは動かない。
動かない。
…うご、かない。
僕の意識が遠くなって行く。
駄目だよ!
早く助けないと!
敵はサファイアに向けて動き出した。
体の奥から何かが上がってきそうになる。
奥から上がって来れば来るほど、僕の意識は遠くなる。
ダメ!
直ぐに動かないとだから!
奥のものは少し下がった。
僕は意識を強く持つ。
前脚を一歩踏み出す。
意識はクリアになった。
すぐさま敵に向けて駆け出す。
視界が少し歪んでいるけれど、何故かいつも通りに走れた。
走りながら氷槍を発動する。
サファイアに噛みつこうとしている。
させない!
氷槍を敵の首に放つ。
「ジャガガガッガッ!!!」
貫通はしなかったけど、半ばまで刺さった。
敵が痛みに悶えている内に飛びかかり、首元に噛み付いた。
先程よりも深く牙が食い込む。
噛んでいる所に前脚を置き、脚に力を入れるとともに、顔を後ろに引く。
「ッ!?」
ブチブチっと肉を引き千切り、僕は地面に降り立つ。
「ッァ!!」
ボタボタと血を滴らせながら、此方を睨みつけてくる敵。
首周りを穿たれ、噛みちぎられ、声が出なくなったみたいだ。
敵が突進してくる。
僕は右に避け、敵が此方に向き直る前に攻撃しようと身構える。
が、敵が僕の横を通り過ぎる最後。
尾だけが、僕の方に向かってきた。
バシッと打たれ、地面を転がる。
何とか爪を地面に突き立て、減速する。
ぐうっ
まさか、尾だけ曲げて突進の勢いを使って、攻撃してくるとは思わなかった。
「ッァ!
ゴプゴプッ」
敵が顔を上に向け、何かをしている。
何が来ても避けられるように構えつつ、再度氷槍を展開し始める。
「ッ!」
顔を此方にバッと向け、紫色の何かを飛ばしてきた。
何か危険な感じがしたので、大きく避ける。
ジュワァァッ!
紫色の何かが当たった地面は煙が上がり、ドロドロに溶ける。
結構範囲が広い。
大きく避けていないとかかってたかも。
氷槍を放つ。
首には避けられ当たらなかったが、胴に刺すことはできた。
敵の頭が垂れてきている。
血が流れているので、体力を削られているのだろう。
「…シュァッ」
ボタボタと紫色の液体を地面に落としている。
落ちるとジュッ、ジュッと煙を上げている。
紫色の液体が落ちたところはずっと煙が上がっている。
あれには触れないほうが良いだろうね。
このままだと、敵の近くの地面は毒の地面になり、近づくことが出来なくなりそう。
けど、わざわざ近づかなくても僕は氷槍が使えるし、敵も血は止まってないからこのまま出血で倒せそうな気もする。
なぜ今になって毒を撒き散らしてるんだろう?
敵はフラフラと頭を揺らし始めた。
僕は様子を伺いながら氷槍を作り、出来たら敵に突き刺していく。
とうとう敵の周りは毒だらけになった。
敵は頭を地に横たえ、口からはダラダラと毒を吐き続けている。
『経験値を3112得ました。』
『ネムアのレベルが2上がりました。』
『吹雪Lv2になりました。』
『氷槍Lv2になりました。』
たお、せた?
…そうだ、サファイア。
僕は重い体を動かし、サファイアの近くに行く。
目を瞑って倒れているが、一応胸は動いている。
どうやら生きているようだ。
……良かった。
僕は地面に横たわり少し休憩をすることにした。




