134話目
レイとベニが滝から落ちて、崖の下に居る。
怪我は無いようだけど、ベニの意識が無いみたい。
早く村に連れて行ったほうがいいけど、引っ張り上げる為の物がここには無い。
うーん……
…そうだ!
クラウドの獣魔のクプレなら引っ張り上げられないかな?
確か植物の蔦を自由に動かせたよね?
レイに助けを呼んでくるから待つように言い、急いで村の近くまで走る。
クラウドの気配を探ってみれば、ちょうど周りにはメイルとクラウドの獣魔達だけ居るみたいだ。
急いで近づく。
ザッと目の前に現れるとクラウドもメイルも戦闘体制を取っていたが、少ししてその構えを解いてくれた。
「…ネムアさん…ですよね?
ベニちゃんを見つけたんですか?」
僕は頷いて、背に乗るようしゃがんで背中を向ける。
「何かあったんでしょうか?」
「みたいだな。
取り敢えず背中に乗れって感じだから、乗ってみるか?」
「そうですね。
サファイアは乗れそうだけど、クプレは無理そうだから……」
クラウドはクプレを返して、僕の背中に乗る。
その後をサファイアが付いていき、最後にメイルが乗った。
しっかり捕まっているのを確認して走り出す。
徐々にスピードを上げていく。
もう少しでトップスピードになるといった所で
『…速すぎだ、バカ!』
声が聞こえた。
クラウドともメイルとも違う声。
それに走っている時なのに随分とクリアに聞こえた。
僕はスピードを7割くらいに落ち着けて、さっきの声に問いかけてみる。
『君は誰?』
『お前の背に乗っている、サファイアだ』
『鳥なのに狼の言葉が分かるの?』
『分からない。
だが、俺には伝えたいことを読み解き、伝えられる能力がある。
その能力のおかげで会話ができている。
声に出さなくてもな』
『へぇ、凄い能力なんだね』
『……さっきのスピードだと、その内主人がダウンする。
今くらいのスピードなら、まだ何とかなっているようだ』
『そうなんだ。
分かったよ。
でも、もう少しで着くよ』
僕の前方が明るくなってきた。
水の音も聞こえる。
僕は少しずつスピードを落としていき、駆け足程度で森を抜けた。
僕は崖の近くまで歩いて行き、止まって腹這いになる。
『もう降りてもいいよ』
そう伝えると、少ししてメイルとクラウドが降りた。
「…う……ネムアさん、凄く…速いんですね……」
クラウドが少し疲れたように言う。
「途中スピードを落としてくれたから良かったものの、あのままだったらふっ飛ばされてたぜ…」
人を乗せて走ったのは初めてだったから、加減が分からなかったんだよね。
サファイアのおかげで、2人を落とさずに済んで良かった。
僕はまだ背中に乗っているサファイアを見て、
『ありがとう』
と送ってみる。
サファイアは少し身じろぎをしたから伝わったと思って良いのかな?
僕は崖の下を見て声をあげる。
『レイ、大丈夫?』
『私は大丈夫よ!』
レイの声が聞こえた。
クラウドとメイルは揃って崖の下を見る。
「今、狼の声がしたけど、お前の獣魔か?」
メイルがこちらを見て言うので頷く。
戻って、ベニが居ること、意識が無いことを伝えたいけど、上にサファイアが乗っていて戻れない。
僕はサファイアの方を見て
『少し、降りてくれない?
ちょっと2人に伝えたいことがあって、人の姿になろうと思うんだけど…』
『……今、主人と繋いだ。
そのまま伝えればわかる』
ん?そのまま伝える?
クラウドとも話ができるってこと?
『…えっと、聞こえてるかな?
崖の下にレイだけじゃなくて、ベニも居るみたいで…
ベニは滝に落ちちゃって、そこから意識がないみたいなんだよね。
体も冷たいみたいだし、早く助けないとなんだけど、ここまで持ち上げようにも紐じゃレイには手がないから使えないし、崖の終わりを見つけるのは時間が掛かりそうでしょ?
それで、クプレなら蔦を自由に動かせるから、その蔦で持ち上げられないかなと思って……』
『…これはネムアさんですね。
それは急がないといけないですね。
クプレにお願いしてみましょう』
クラウドがクプレを喚び出して崖の下を指しながら何かを伝えているようだ。
クラウドがクプレから距離を取ると、クプレの足元から蔦が5本出てきた。
その蔦は崖の下を目掛けて降りていく。
『なによこれ!?』
あ、レイに伝えるのを忘れてた。
『その蔦は味方だよ。
それで引っ張り上げようと思ってるんだ』
『…そ、そうなの?
今、小さい人間に絡みついているけど、そのままでいいのよね?』
『大丈夫だよ。
引っ張り上げたら次はレイの番だからね。
安心してね』
『え、……ちょっと……でも上がれないと困るし…』
レイと話ししているとゆっくりと蔦が上がってきた。
ベニの両手足と胴に蔦がグルグルと巻き付いている。
少し崖から離れた所にそっとベニが降ろされた。
怪我は無いようだけど、顔は青白く、唇も紫色をしている。
僕はそっとベニの近くに横たわり、体を寄せる。
ベニの体は氷のように冷たい。
『嫌ー!!怖い!怖いッ!!』
どうやらレイも持ち上げられているみたいだ。
足が地面に付かないから、恐怖を感じてるみたいだね。
レイもベニと同様にそっと降ろしてもらっている。
レイは尾を股の下に持っていき、耳もパタンと伏せ、プルプルと震えている。
『レイ、そんなに怯えなくてももう大丈夫だよ?』
『そ……そんな事言ったって!
体がフワッと上に上がっていくし、ゆっくりだったから長いし!』
レイは文句を言いながら、スンスン鳴いている。
「ベニちゃんは低体温になってるだけのようにみえますけど、僕は医者ではないですから細かい事は分からないですね。
急いで村のお医者さんに診てもらいましょう」
クラウドがベニの様子を見ていたが、立ち上がりつつそう言った。
僕の背中に乗せて駆けていく?
そう言おうとした矢先、
バキバキバキッ!
と、木々が折れていく音が聞こえる。
結構近い?
いや、近づいてきてる!
僕は音のする方に向かいあい、皆を背にするように立つ。
ズドンッ
森の端の木が倒れ、現れたのは人間を余裕で丸呑みできそうなほど大きな蛇だった。
。。。。。。。。。。。。。。。
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種族 : ヘアリーブッシュ・ドラゴンモドキ
Lv30/90 状態 : 健康
HP 5950 MP 342
力 927
防御 1925
魔力 228
俊敏 785
ランクB-
[通常スキル]
巻き付くLv5 突進Lv3
麻痺毒Lv5 神経毒Lv4
出血毒Lv4 溶解毒Lv3
腐敗毒Lv2 噛みつきLv3
熱探知Lv5 テールアタックLv3
[特殊スキル]
毒無効Lv-
[称号]
毒マイスター
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『ヘアリーブッシュ・ドラゴンモドキ:アセリス・ヒスピダの進化系。
より大きく刺々しい見た目となった。
ドラゴンのようにも見えるが、まだ竜族には及ばない。
攻撃は進化前とさほど変わりないが毒の種類が増え、噛みつきだけではなく、口からの噴射も可能となった。』
これは、僕が抑えて皆に逃げてもらわないとマズイかも!
「な、なんだこいつは!?」
メイルが引き気味に言う。
ベニを連れて逃げるよう伝えたいけど……
サファイアに頼めば伝えてくれるかな?
でもどうやって繋げてるんだろう?
僕は蛇に睨みをきかせながら、体を少し揺らす。
そして、繋がることを祈ってサファイアに呼びかけてみる。
『サファイア!サファイア!
繋がって!!』
『…なんだ』
繋がった!
『僕がこの蛇を抑えておくから、皆に逃げてって伝えて!
ベニも急がないとだし!』
サファイアは沈黙している。
伝えてくれてるよね?
急がないと相手が痺れを切らして攻撃してくるかも!
「…ネムアさん…
時間がないのでグズグズは言いません。
ただ一言、必ず帰ってきてくださいね」
クラウドはクプレに合図を出したのか、クプレが蔦でベニを持ち上げ、クプレの身体に固定し、メイルとクラウドとクプレは駆けていった。
『レイ、あの人達について行って助けてあげて』
『…私……いいわ。
村でまた会いましょ』
少し悩んだみたいだけど、言いたいことを呑み込んで従ってくれた。
足音が遠ざかっていく。
『…で、君はなんでまだいるのかな?』
『俺は飛べない。
そんな事よりそろそろ来そうだぞ』
「ジュルルルッ!」
サファイアが言い終わるか、終わらないかくらいに敵が動き出した。




