133話目
テントから出ると、村は蜂の巣をつついたように騒がしくなっていた。
「夜には居たの!
朝起こしに行ったら………」
人が集まっている所を見れば、泣きながら話をしている女の人と、その女の人を支えている男の人が中心に居るようだ。
その中心に居る人達がベニの家族なのかな?
ベニもレイも居なくなるなんてどうしたんだろう?
ちょっと気配察知で探してみようか。
………うーん、ベニもレイも僕の気配察知の範囲に居ないみたい。
何処に行っちゃったんだろう?
「おーい!
ここに子供の足跡があるぞ!!」
そう声が聞こえると、村の人達は声のした方に走っていく。
僕も近くに寄って行って、見てみる。
確かに小さい足跡だ。
「森の近くだから土が軟らかく、足跡が残ったんだな」
「しかし、この足の方向をみるに、森に入っていったということだろう?
森には魔物が……」
ボソボソと村の人達が話をしている。
「僕達も見つけるのを手伝いますよ!」
クラウドが村の人に話しかけた。
「しかし、よそ者の力を借りるわけには……」
「だが、我らでは森の奥まで探せんぞ」
村の人達は力を借りることを渋っているようだ。
「お願いします!
ベニを見つけてください!!」
女の人はクラウドの近くで地面に座り込み、手を固く組んで、祈るようにクラウドを見ていった。
「おい、ニールシャ。
相手はまだ子供のような年だぞ。
そんな期待するな」
先程まで寄り添っていた男の人が女の人に駆け寄り、肩を抱きながらこっそり耳打ちしている。
「僕もお手伝いしますよ」
僕は軽く手を上げながらそういった。
レイも見つけないとだしね。
「おい、獣人まで出てきたぞ」
「獣人なんて当てになるのか?」
「いや、逆に獣だから見つけられるのかもしれん」
「そもそも、あの獣人がなにか吹き込んだんじゃないのか?」
また村の人達はボソボソ言っている。
僕には丸聞こえなんだけどね。
「では、僕は森の奥の方を探してみることにしますね。
夕方には1度戻ってきます」
ずっと決まらないから、僕はさっさと動くことにする。
森の中に入ろうと足を踏み出すと、クラウドが寄ってきて
「ネムアさん1人で行くんですか?
レイと一緒に行かないんですか?」
「バラバラの方が早く見つかるかなと思ってね。
後、レイも何処に行ったか分からないんだよね」
「えっ!?
それは大変じゃないですか!」
「うん、だから早く探しに行かないとね」
「そうですね。
僕も頑張って探します!
気を付けてくださいね」
僕は頷き、森の中に入っていく。
足跡が向いていた方に真っ直ぐに進んでいく。
森の中には足跡は見当たらない。
入り口付近に足跡があったのは奇跡的なのかも?
僕は気配察知をしながらズンズン進む。
所々、魔物がいるみたいだけど、出来るだけ合わないように避けながら進む。
大分奥まで来たと思うんだけど、それでも2人とも気配すら見つからない。
更に奥まで行ってるのかな?
……いっそのこと狼に戻って吠えてみようか?
声の方が遠くに届くし、返事があるかも。
ただ、他の魔物にも場所を知られちゃうんだよね。
力のある者が突っかかってきたらどうしよう。
どれくらいの強さの魔物が居るか、聞けばよかったかな。
ちょっと不安はあるけれど、狼に戻る。
そして、遠吠えをあげた。
『遠吠えLv1を得ました』
………うーん、返事がない……
「……ォォォォオォン……」
聞こえた!
声は思ったより小さくて、随分遠いようだけど、これで大体の場所がわかった。
僕は声のした方に向けて走る。
道中、魔物が出てくるけど構わず走っていれば、僕に追いつくことはできない。
走っていると、ドドドドッと何かが落ちているような音が聞こえてきた。
更に走っていると、落ちる音は次第に大きくなっていき、水の匂いがするようになってきた。
一気に駆け抜けると、急に視界が開けた。
僕は慌てて止まる。
目の前には崖があり、向こう岸も見える位置にあるけど、流石に飛び移ることは難しそう。
右手には音と匂いの正体である滝が下に落ちていっている。
そして崖の下が川のようになって、左に流れていっている。
確か、ここらへんの筈……
僕はもう一度気配察知を使ってみる。
すると、崖の下左側に2人の気配があった。
急いで気配のある場所を見てみるけれど、ちょうど草や木があって見えない。
声をかけてみようか。
『おーい、レイー
そこに居るー?』
すると草の動きが不自然な場所があった。
『ここに居るわ!』
不自然な場所をよく見ているとチラチラと白色が見える。
随分と草が長いみたいだ。
『なんでそんな所に居るの?
後、ベニも一緒だよね?』
『話せば長くなるんだけど……
ベニってこの人間のこと?
小さい人間なら1人居るわ!
それより、そこ危ないわよ!
私達がここにいる原因が居るもの!』
ベニも居るみたいだ。
良かったと思うと同時に、何かの気配を後ろに感じた。
さっと振り返り、鑑定をかけてみる。
。。。。。。。。。。。。。。。
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種族:アセリス・ヒスピダ
Lv35/58 状態:健康
HP 1750 MP 96
力 609
防御 711
魔力 49
俊敏 824
ランクC+
[通常スキル]
巻き付くLv3 麻痺毒Lv3
出血毒Lv2 噛みつきLv2
熱探知Lv3 テールアタックLv1
[特殊スキル]
毒無効Lv-
。。。。。。。。。。。。。。。
『アセリス・ヒスピダ︰鱗が逆だったように生えている蛇。
素早い動きで相手に巻き付き、その鱗で無数の傷を作る。
または動きを鈍くする麻痺毒や、出血を促す出血毒を使い相手を弱らせる』
これが、レイたちが下に居る原因なのかな?
レイと同格位の相手か……
ベニも居れば動きにくかっただろう。
僕とレベルは同じでもステータスは全然違う。
直ぐに倒して、レイ達と合流しないと……
「シャーッ!」
蛇は僕に向かって尻尾を打ち付けてきた。
僕は横に避けて、蛇の頭に近づく。
蛇は勢いよく僕に噛みつこうとするけれど、少し後ろに下がり噛みつきを躱す。
蛇の噛みつきが空振りになった所を、僕は上から爪で切り裂く。
蛇の頭から血が舞い、そのままの勢いで地面に叩きつけられた。
「ギッ…ジャ!」
地面に叩きつけられたことにより、一瞬蛇は硬直する。
その間にもう一度切り裂く。
そして、ダメ押しの吹雪で吹っ飛ばす。
蛇は木にぶつかって動きを止めた。
『経験値を1581得ました』
『ネムアのレベルが1上がりました』
レベルの高い魔物は経験値も多くなるね。
さて、これで原因は取り除いたけど、どうやって助けよう?
『レイー、取り敢えず近くに居た蛇は倒したよ!
どうやってそこに行ったの?』
『え、あの蛇もう倒したの?
流石ね。
私、あの蛇に追われて滝から落ちたのよね。
だから、どう帰っていいか、困ってたの』
『滝から落ちてよく無事だったね』
『川が深くてなんとか助かったって感じよ。
それより、この小さい人間も一緒に落ちたんだけど、それからずっと震えてて冷たいのよね。
側にはいるんだけど、温まらなくて……』
冷たい?
川に落ちて体温が下がっちゃったのかな?
早く村に連れ帰らないとマズイかも?
でも、どうやって助けよう。
上から引っ張り上げるには遠すぎるし、何か紐があれば良いのかな?
でもレイは紐は掴めないよね。
下から上に上がるには角度がきつすぎるし……
川を下って行ったら、登れそうなところとかあるのかな?
でも時間がかかっちゃうし、登れそうなところがないかもしれない。
困ったな……
どうしよう………




