130話目
僕達は王都に向けて旅立とうとした所で、サーベルキャット商会のコルネさんと再会し、護衛をすることになった。
荷馬車は3台あって、先頭の馬車に弓術士のミルさんが乗り、真ん中に僕とニルくんが並走し、後ろにメイルとクラウドとリーシアが乗っている。
あ、レイとクプレも走ってるよ。
サファイアはクラウドの横で座ってるけど……
走ってると言っても歩くのより少し速いくらいだから、そんなに苦ではない。
「ねぇねぇ、それでさ!
ネムアさんはこの狼の言葉って分かるの?」
出発してすぐ、ニルくんが寄ってきて話を始める。
「うん、分かるよ」
「じゃぁさ、狼は僕達の言葉は分かるの?」
「いや、分からないね」
「どうやって意思疎通するの?」
「僕の話す言葉は分かるんだよ」
「ふーん?
狼の言葉を話すとかではないんだ?
じゃぁさ!
体の一部を獣に変化させるのって出来るの?」
うーん、獣に変化させるのって純獣人しか出来ないってクラウド達が言ってたよね?
僕は普通の獣人って事にしておくつもりだから……
「いや、僕は出来ないよ」
「なーんだ、そうなんだー
残念」
ガックリと肩を落としたニルくん。
けど、金色の目を光らせ此方を見てくる。
「ネムアさん、変わった気配だから純獣人かと思ったんだけどなー」
ニッコリと笑っているのに、なんだか寒気を感じる。
「…純獣人だったら何かあったの?」
この空気感に耐えられなくて、適当に質問をしてみる。
ニルくんは僕から視線を外し、前を見たまま言う。
「ネムアさんはこの世界に何種類の種族が居るか知ってる?」
え、急に?
うーん、普通の人でしょ?
で、獣人と純獣人………
「3種族かな?」
「大抵の人はそう答えるよね。
普人族、獣人族、森人族」
森人族?
なにそれ?
「でも、この世界には7つの種族が居て、特にエルフ、獣人、ドワーフは昔と現在では能力が大幅に違うんだよね!
獣人なら純獣人、ドワーフならエルダードワーフ、エルフならハイエルフ」
???
「他の種族は人とあまり関わらないから昔のままだけど、その3つの種族は能力が落ちてる。
もし、昔のままの3種に会えたら………それはもう奇跡的だよね!
特にハイエルフ!
獣人もドワーフも街や都市で少し見るけど、エルフは中々見ることが出来ない。
それなのに、ハイエルフだなんて!
あぁー、でも絶対に見つけるんだ!
僕の旅の目的!
絶対に絶対に!
見つけてみせる!!」
………なんだか凄く興奮している。
変わった種族に会うのが嬉しいのかな?
でも、なんだか身の危険を感じるから、やっぱり僕が純獣人だって事バレないようにしよう。
実際は違うけどね?
それでも、純獣人のように見えるから大人しくしていよう。
「皆さん、馬車が停められそうな広い場所が見つかったので、一旦昼休憩にしましょう!」
1番前の馬車からコルネさんの声が聞こえた。
すると、馬車はゆっくりとスピードを落としていく。
前を見てみると、確かに少し広い平坦な場所がある。
馬車が止まると、中から人が出てきてテキパキと休憩の準備をし始めた。
「なんだか随分話が盛り上がっていたみたいだが、大丈夫だったか?」
後ろから声が聞こえ振り向くと、メイル達がいた。
「うん、特に何も無かったよ」
「そうか、それなら良いんだ」
メイルの斜め左後ろにクラウドが立っている。
………?
なんだか元気がない?
「クラウド、どうしたの?」
「いえ、ちょっと馬車で酔ってしまっただけなので………
大丈夫です」
確かに、顔色も悪い。
「少し、歩いてきます」
「僕もついていこうか?」
「大丈夫です。
クプレとサファイアが居ますから……」
そう言って、クラウドは歩いて行ってしまった。
大丈夫なのかな?
「ねぇ、私リリアっていうの。
貴方のお名前は?」
「えっ……と、リー…シア」
「リーシアっていうのね。
一緒にお昼まで遊ぼ?」
「えっ…うん」
僕をコルネさんの所まで案内してくれたリリアちゃんが、リーシアを遊びに誘って近くの丸太に座った。
最初はリリアちゃんが身振り手振りで話をしているみたい。
リーシアも緊張していたみたいだが、徐々に解れてきたみたい。
リーシアから話を始めたり、笑ったりしているようだ。
さて、僕はどうしようかな。
『もうあの五月蝿いのは来ないのね』
五月蝿い奴?
ニルくんの事かな?
確かに結構大きな声で話をずっとしてたもんね。
「でも、また移動するときは持ち場が一緒だから会うことになるかもね」
そう言うとレイは鼻の上にシワを寄せて唸り声を上げる。
『いつまで五月蝿いの?』
何時までだろう?
王都に着いたら別れるだろうけど、それまでずっとかな?
そう言えば、王都までどれくらいかかるんだろう?
「王都までどれくらいかかるか分からないけど、王都に着くまでだよ」
「王都までは今の感じだと、1週間ちょっとって感じですよ」
視線を上げると、クラウドが戻ってきたみたい。
「レイ、太陽を7回見るより多いって」
『最悪』
レイが地面に突っ伏してしまった。
「体調はマシになったの?」
「はい。
心配かけてすみません」
「マシになったのなら良かったよ」
「おーい!
クラウド、ネムア昼飯出来たぞ!」
メイルが何か器を持って此方に来る。
肉と野菜の入ったスープと茶色のパンみたいだ。
「受け取りに行きましょうか?」
「そうだね」
僕達は昼食を受け取り、3人で円になって食べた。
リーシアはリリアと一緒に食べているみたい。
随分仲良くなったようだ。
レイとサファイアはクラウドの鞄から魔物の肉を取り出し、それを食べている。
どうやらクラウドの鞄は時間が止まるらしく、新鮮な物が食べられるらしい。
あまり量は入らないらしいので、道中何か魔物を狩らないとレイとサファイアのご飯が無くなる。
「それではそろそろ出発いたしましょうか?
できれば2日後にはコメリナ村に着きたいと思っておりますので」
コルネさんがそう声をかけると、皆が持ち場に着く。
コメリナ村ってなんだろう?
僕は3台目に居るクラウドとメイルに近づき声をかけた。
「さっき、2日後にコメリナ村にって言ってたけど、コメリナ村ってどんなとこ?」
「コメリナ村は4年位前に出来た村の事ですね。
村の名前の由来となったコメリナっていう植物を栽培してるんです。
その植物を乾燥させて、次の街ラージャスタで染める材料として利用されてますね」
へぇー、クラウドは物知りだな。
「ラージャスタは染め物で有名になった街で、その有名になった理由がコメリナで染めた物だったそうです。
だから、コメリナを量産しようと新しく生産するための村を作ったみたいですよ」
「そうなんだ。
コメリナで染めた物ってどんな色なの?」
「薄い青色からほんのり紫を含んだ色みたいですよ」
「前方!
魔物の接近!」
突如、緊張したような声が聞こえた。
「おやおや、魔物が出てきましたか。
数は分かりますか?」
「正確な数は分かりませんが、10以上はいるかと……」
結構多いみたい?
前の馬車に近づいておく。
「もうすぐ見えます!」
その声を聞いてすぐ、深い緑色の鳥が姿を現した。
。。。。。。。。。。。。。。。
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種族:シーフクロウ
Lv10/53 状態:健康
HP 340 MP 292
力 204
防御 120
魔力 66
俊敏 430
ランクC−
[通常スキル]
つつくLv3 スニークLv3
ひっかくLv1 幻影Lv2
[特殊スキル]
盗むLv3
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「シーフクロウの群れですか。
商人にとっては天敵ですね……」
コルネさんが冷や汗をかきながらシーフクロウを見つめている。
「アローレイン」
ミルさんが荷馬車の上に立ち、上空に向けて矢を放つ。
弧を描き、飛んでいく途中で矢の数が膨れ上がった。
次々とシーフクロウに矢が刺さる。
けど、1部刺さらずに当たったと思ったシーフクロウが消えていく。
スキルの効果で多く居るように見せてるだけで、実際はもう少し少ないのかも?
『なに、あれ敵?』
「そうだよ。
でも、影だけの存在も紛れてるから範囲攻撃の方が良いかも?」
『分かったわ』
「ウインドカッター」
後ろから風の刃が飛んでいった。
振り向くとクラウドが手を前に出している。
クラウドが出したのかな?
僕も攻撃したいけど、吹雪は魔物に変わった時の攻撃って事でクラウド達に見せちゃったから、魔物の姿にならないと使えない。
さっきのウインドカッター?っていうのに似てるカマイタチで誤魔化そうかな?
僕も手を前に出して、カマイタチを放つ。
その様子をクラウドの後ろに居るサファイアが見ていた。