129話目
魔物に戻ってクラウドにしがみつかれていると、レイが寄ってきた。
『元の姿に戻って良かったの?
魔物って、人間と敵じゃなかったっけ?』
『なんだか獣人って種族が魔物の姿になれるみたいで、僕もそうじゃないかって言われたんだ。
そうだって言っておけば、もしこの姿を何かの拍子に見られても誤魔化せるなって思って、今のうちに見せておこうって考えたんだ』
『ふーん?
獣人って変わった生き物なのね』
『変わった生き物だけど、僕にとっては都合がいいよね』
レイと話をしていると、クラウドが離れた。
「すみません、ネムアさん。
くっついてしまって………
嫌じゃなかったですか?」
頷いておく。
「良かったです!
それにしても大きくて、透明の毛も光が反射して綺麗ですね。
何という種族なんでしょう?」
僕の周りを右に左に眺めながらそう言う。
「いや、なんでそんなすぐに受け入れてるんだ!?
俺は思ったよりゴツイのが出てきて、固まってたというのに!」
メイルが頭を抱えて叫んでいる。
そうだよね。
クラウド驚いても一瞬だったもんね。
「うーん、僕この子たちと長くいるから……かな?」
クラウドは困ったように言う。
「いやいや、大きさと迫力が違うだろ!
クプレはそこそこ大きいが鹿で、サファイアは猛禽系の見た目をしているが、そんなに大きくないだろ!?
ネムアは大きいわ、肉食獣だわで、獣人って分かってても身がすくむだろ!?」
「そう言われても、ネムアさんはネムアさんだしね?」
助けを求めるようにクラウドが此方を見る。
まぁ、僕は僕だけど……
あれだよね、最初ゼロが人間から竜に戻った時、圧で固まったのと同じだよね。
ということはメイルと同じなんだよね。
ごめん………クラウド。
僕はちょっと気まずくて、目線を逸らす。
「……そんな、ネムアさん………」
悲しい顔をして落ち込むクラウド。
ごめんよ、同じ経験をしたから頷けないんだ………
「まぁクラウドが変なのは前からだし、置いといてだな。
クラウドが言っていた、魔物特有の攻撃は出来るのか?
折角その姿になったんだし、少し見せてくれないか?
さっきの戦闘も近接攻撃だけだったしな、何か遠距離系があるなら見せて欲しい」
うーん、この魔物特有のスキルか。
やっぱり吹雪かな?
僕の前方に誰も居ない、何もない事を確認して吹雪を発動する。
風が吹き荒れ、草は凍り、雪が積もる。
1部分だけ冬になったみたいになった。
こんな感じだけど、どう?って感じでメイルの方に振り向く。
メイルはまた口を開け、固まっていた。
いや、すぐに再起動した。
何か俯いてブツブツ言っている。
「実際に見てないからどんな感じか俺は分からないが、ここだけ冬みたいに雪が積もっている。
もしや、林の異変って………」
「うわぁ、ネムアさん凄いですね!
葉っぱがカチカチに凍ってます!」
クラウドが吹雪を発動した所に行って、草を触ったり、雪を踏んでみたり、どんな感じか確認している。
もうそろそろ獣人になろうかな?
他の人に見られると面倒だし……
獣人の姿に戻る。
戻るとすぐにメイルが
「……なぁ、1つ確認だが、林の方でさっきの姿になって魔物とか倒したりしたか?」
うーん?
僕魔物の姿の方で狩りをしたっけ?
いや、逆に魔物の方でしか狩りしてない?
忘れちゃった。
「うーん、分からないや。
したような気もするし、してないような気もする」
「そうか……
まぁいいか、どうせ直ぐここを離れるし、離れて何も無ければ騒ぎも落ち着くだろ」
メイルは首を振り、
「お~い、クラウド。
今度は俺たちの戦闘をメイルに見せるぞ」
「あ、そうでした。
依頼を早く終わらせないとでしたね」
「ネムア、近くに切り裂きホッパーは居るか?」
うーん、どうだろう?
気配察知で探してみる。
結構遠いなぁ。
「さっきより随分遠くには居るみたいだけど……」
「遠いのか…
仕方ないな。
案内してくれるか?」
僕は頷き、メイルたちを切り裂きホッパーの方に案内する。
暫く歩いてようやく近くまで来た。
「このまま真っすぐ行けば切り裂きホッパーが居るよ」
「よし、じゃぁ、ここからは俺が先頭で行くか。
クラウドはいつも通りでよろしくな」
「分かりました。
クプレよろしくね」
メイルが先頭に立ち、クラウドの横にクプレが並ぶ。
そのまま進み、切り裂きホッパーが見える位置まで来た。
「よし、行くぞ!」
その声とともにメイルが走り出す。
切り裂きホッパーが此方に気付いた瞬間に、地面から茨が生えてきた。
そのまま切り裂きホッパーを捕まえる。
動きを止めた切り裂きホッパーに走っていたメイルがたどり着き、斬撃を浴びせる。
『経験値を158得ました』
無事に倒せたみたいだ。
凄く動きがスムーズでいつもこんな感じで倒していってるんだろうな。
「よし、どうやら逃げ出される前に倒せたみたいだな」
「そうですね。
メイルさんの攻撃力がどんどん上がってきてますね」
「いや、クラウドの獣魔のおかげだ」
メイルが此方に向き、
「今見てもらった通り、クプレが敵を抑え、俺が斬る。
茨から逃げたらサファイアとクラウドが魔法で攻撃する。
後、見ただけでは分からないと思うが、サファイアの支援があってこそなんだ」
支援?
さっきもなにかしてたのかな?
「サファイアにはさっきの戦闘では、俺に攻撃力アップを敵には防御力低下をかけて貰ったんだ」
へぇー、そんな事が出来るんだ。
「取り敢えず、簡単にだがお互いどんなものか分かったと思う。
これから戦闘を繰り返して、いい感じに連携できるといいな。
ネムアはあんまり変化しないようにするから、俺と一緒に前衛な。
あと、レイは………遠近どっちが得意なんだ?」
「レイは遠近どちらでも攻撃出来るよね?」
『そうね。
特にどちらがって言うのはないわね』
「どっちでも大丈夫みたい」
「それなら遊撃って感じで、時と場合によって切り替える感じで行くか。
それと、切り裂きホッパーの討伐依頼は後3匹だから2手に分かれて、気配が分かるネムア達に2匹倒してもらい、倒し終わったら俺達を探してくれ」
「分かった」
「よし、この調子なら明日には王都に向けて出発できそうだな。
それじゃ、まずは依頼を達成させるぞ!」
僕達は2手に分かれて切り裂きホッパーを倒しに向かった。
2匹倒し終わり、クラウド達の元に向かうとまだ見つけていなかった。
意外に数が少なく、中々遭遇しにくいみたいだ。
僕がまた切り裂きホッパーを見つけて、依頼は完了した。
その後、夕方まで各々旅の準備をすることになった。
そして皆で夕飯を食べ、他愛無い話をして、英気を養った。
その時リーシアという犬型の獣人を紹介された。
普段は宿とかで勉強をしたり、買い物を頼んだりしているらしい。
獣人には純獣人かどうか、すぐに見分けが付くらしく会って早々敬われることになった。
僕は偉く無いからそんな事しなくていいと、説得が大変だったな………
そして今日、王都に向けて旅立つ。
「よし、何も問題ないな?
行くぞ!」
僕達は歩き出した。
「おーい!
ネムアさん!!」
と思ったら誰かに呼び止められてしまった。
誰だろう?
振り向くと馬車の窓から誰かが手を振っている。
誰だろう?
僕の知り合いは少ないけど………
丸みのある体型………
コルネさん?
馬車が僕たちのそばで止まる。
さっきの人が馬車から降りてきた。
「おやおや、初めましての方もおりますね。
私サーベルキャット商会のコルネと申します。
突然すみません。
これからどちらに行かれるのですか?」
「えっと、王都に向けてまずは近くの村を目指そうかと………」
「それはそれは!
私どもも王都に向けて商品を運んでおりましてね。
宜しければご一緒してもよろしいですか?」
メイルとクラウドの方を見ると、2人も顔を見合わせている。
「あの、それは護衛ということでしょうか?」
「そうですね。
他にも護衛として冒険者を雇ってはいるのですが、生憎メンバーが減ってしまいましてね。
食事などは提供させて頂きますよ。
如何でしょうか?」
「どうします?
僕はどちらでも良いですが………」
「俺もどっちでもいいな。
ただ、獣人とか獣魔とか他の人は気にしないのかよ?」
「大丈夫だとは思いますが、護衛の方と会ってみますか?
ちょっと護衛の方を呼んできてもらえますか?」
コルネさんは近くにいた人に指示を出し、指示を受けた人は後ろの馬車に走っていった。
少しして、灰色の髪をした二人組みが此方に来た。
「今回護衛をお願いした、ニルくんとミルさんです」
「私はミル。
弓術士、よろしく」
「はいは~い!
僕がニルだよ!
回避盾をしてるよ!
ねぇねぇ獣人が2人も居るね?
僕とお話しようよ!」
あまり話をしない水色の目の人がミルさんで、テンションが高い金色の目の人がニルさん。
リーシアはクラウドの後ろに隠れてしまったので、ニルさんが僕の方にやって来る。
「ねぇ、あっちの子と君、同じ種族?
それとも家族なのかな?
でも毛の色が違うね?」
「僕は狼であの子は犬だよ。
家族ではないね」
「そうなんだ!
だから狼の魔物を連れてるの?
名前は何?
同種だったら言葉がわかるって本当?」
「えっと……」
「ニルさんちょっと質問攻めは止めてください。
この人達を護衛に追加しようと思うんですが良いですか?」
「僕はいいよ!
大歓迎!」
「私も特にない」
これで僕達はコルネさんの護衛として、王都を目指すことになった。
「それでそれで、君の名前は?」
「ネムア」
「ネムアさん!
旅の途中話しようね!」
随分賑やかな旅になりそうだな…………