126話目
ガヤガヤと沢山の人がいる。
皆、今か今かと待っている。
今日の昼からポトナフィーラが始まる。
木の側に近づくことは出来ない。
鎧を着た厳つい人達が辺りを見て、近づく奴を注意したり捕まえたりしている。
木に近づいたから沢山狩れるということではないみたい。
葉っぱの状態を狩っても何にもならないそう。
葉っぱの状態で木から離れ、距離をあけると動物の形になるそう。
その距離も葉っぱによって違うらしい。
だから僕は、木から大分離れてる。
それでもあの木は凄く大きくて、一番上が何処なのか見えない。
風が無いのに、木がザワザワと音を立て始めた。
木が、膨れ上がり大きくなったように見えた。
緑が広がる。
空が緑に染まっていく。
光が遮られ、薄暗くなっていく。
緑がチラチラ落ちてくる。
僕の側にも落ちてくる。
50センチ位の葉が落ちてくる。
落ちる途中形を変え、鳥になり再び空に昇っていく。
またはくるりと翻り、四つ足で地面に立つ猫。
地面に落ちた後スーッと細くなり、ウネウネと動き出す蛇。
ペタンペタンと地面を跳ねる蛙。
走り出す蜥蜴。
逃げる兎。
様々な動物で溢れかえる。
一瞬の静寂。
次の瞬間、地面が揺れたかと思う程の叫び声が響いた。
耳がビリビリする。
あちこちで魔法が乱舞している。
ポトナフィーラが始まったみたいだね。
僕たちも早く葉っぱの動物を狩っていかないと……
「レイ、近くの葉っぱの動物を狩ってみてくれる?」
レイは蜥蜴の形をした葉っぱに駆け寄り、爪で切り裂いた。
『経験値を100得ました』
蜥蜴は破けたまま地面に横たわり、そのままスゥーッと消えていった。
『うーん、手応えがないわ』
レイは消えていった地面を見ながらそう言う。
うーん、あんなに簡単に倒せるなら、吹雪では精神力が無駄になっちゃうかな?
ここはカマイタチを使ってみようか?
僕は3匹でかたまっている葉っぱに向けて、カマイタチを放つ。
昔の僕はカマイタチをよく使っていたのか、スキルレベルが高い。
そのため、少し僕の意思で風の刃を動かすことができる。
ネズミの形をした葉っぱをカマイタチで切り裂く。
1つは真っ二つに……
1つは首を狙って……
もう一つは尻尾を……
『経験値を300得ました』
『ネムアのレベルが1上がりました』
3匹ともやっぱりスゥーッと消えていく。
尻尾を切り落としただけなのに、倒したっていうことになるんだ。
少し攻撃して、葉っぱが破ければ良いのかな?
『これ、凄いわね。
こんな簡単に経験が溜まっていくなんて……
私、頑張れば進化できるかも!』
レイは目をキラキラさせて、葉っぱの動物を追いかけ回し始めた。
「レイ、爪で倒すんじゃなくてアイスニードルの方がいっぺんに攻撃できていいと思うよ!」
『分かった!
ありがとう!』
そう僕が言うと、葉っぱを穴だらけにしていっている。
さて、僕も沢山狩らないと!
魔力を練り上げ、カマイタチの刃数を多くする。
取り敢えず、当たればいいから………
僕はレイには当てないよう、手当たり次第にカマイタチを放っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「レーイ!
もう夕方になってきたし、船の出発もあるからそろそろ終わりだよー!」
『うぅっ、随分上がったけど進化には足りない……』
しょんぼりとして、帰ってきた。
最初の方は葉っぱの動物も沢山居たけれど、他の人に狩られたり、海の方に行ってしまったりで今はよく探さないと見つからない。
でもレイも僕も随分とレベルが上がった。
鑑定でどうなったか見てみよう。
。。。。。。。。。。。。。。。
ネムア
種族 : ブリザードウルフ
Lv35/135 状態 : 獣人化
HP 2624(5248) MP 5(1230)
力 1066(2132)
防御 520(1041)
魔力 623(1246)
俊敏 1336(2673)
ランクB+
。。。。。。。。。。。。。。。
。。。。。。。。。。。。。。。
レイ
種族 : アイスウルフ
Lv40/55 状態 : 健康
HP 2240 MP 390
力 975
防御 780
魔力 765
俊敏 840
ランクC
。。。。。。。。。。。。。。。
うん、大分強くなった。
4桁になったし……
「―――!」
周りがガヤガヤしてちゃんと聞こえなかった。
でも、呼ばれた気がした。
体の奥底が震える。
ゆっくり振り返る。
息をきらせて走ってくる少年がいる。
赤茶色の髪の少年。
僕の少し前で止まる。
息を整え…
「すみません。
急に声をかけてしまって………
僕の親友に雰囲気が似てて……」
僕は少年をまじまじと見て、何も言えない。
言葉が出てこない。
「おい、クラウド!
急に走り出してどうしたんだよ?」
もう1人少年が走ってきた。
クラ……ウド………
もう1人は赤茶の少年より大きい。
「あ、メイルさん。
ごめんなさい、どうしても気になってしまって……」
メイルと呼ばれた少年が赤茶の少年に近づき、コソコソと言う。
「獣人に魔物に似ているなんて、言ってないだろうな?
そんな事言ったら侮辱されたと怒られるんだぞ?」
「大丈夫だよ。
親友に似ているって言ったから魔物なんて思わないよ」
僕は耳がいいから全部聞こえてる。
親友は魔物なのか。
もしかして、僕も魔物ってバレてる?
「というか、ブランが獣人なわけないだろ?」
「そうなんだけど、なんか雰囲気がすごく似てて……」
体が震える。
ブラ…ン………
何か体の奥底から上がってくる。
「あ、ごめんなさい。
呼び止めた上に、僕たちで話をしてしまって……
僕はクラウドって言います。
隣はメイルって言います」
僕は少し、気が遠くなってきていた所に声をかけられ、意識が戻った。
「……あ、えっと……
僕はネムアで、隣の狼はレイって言うんだ」
クラウドはレイを見て、
「うわ~、真っ白で綺麗な子ですね!」
『なによ!
なんか文句でもあるの!?』
レイがじっと見られていることに、喧嘩を売られていると思ったみたいで唸っている。
「レイ、違うよ。
褒めてくれてるんだよ?
真っ白で綺麗だねって…」
『なっ……そんなこと………!』
レイがそっぽを向いてしまった。
でも、尾はブンブン振られている。
「やっぱり獣人の方は同系統の動物や魔物の言葉がわかるんですね」
クラウドさんが羨ましそうな声で言う。
「僕も魔物たちと一緒にいるんですけど、僕自身は言葉が分からなくて……
でも、1匹言葉を伝えてくれる子がいるからなんとかなってるんです。
その子に負担をかけてしまってるじゃと思ってて………
って、急にこんな事言ってすみません。
どうにも親友に似てて、ついつい話をしちゃって……」
「魔物と一緒って言うけど、今は居ないの?」
「僕はテイムじゃなくて、召喚で力を貸してもらってるので、今は船にも乗るので一旦帰ってもらってます」
「そうなんだ。
僕ってそんなに親友に似てるの?」
「そうですね。
見て目は全然似てないんですけど、何故か雰囲気が凄く似てて………」
クラウドさんは凄く悲しそうな顔をして言う。
僕はそんな姿を見て、体の奥底が痛い。
「親友には…会えないの?」
「えぇ。
僕と親友は一緒に旅をしていたんです。
けど、ある時親友が攫われてしまって………
メイルさんも相棒を攫われたんです。
だから僕たちは、親友と相棒を探して旅をしているんです。
ここに来たのも、こっちの方面に来たんじゃないかって話があったからで………」
クラウドさんは泣きそうな顔をしている。
なんとか慰めてあげたい。
そんな顔をして欲しくない。
クラウドさんには笑っていてほしい。
「僕も記憶を無くしていてね。
昔の僕を探す旅に出ようとしてたところなんだ。
もし、君の親友を見かけたら君が探していたことを伝えるよ」
「記憶を無くしてるんですか?
それは大変ですね。
僕達は聖都の方に行こうかと思ってるんです。
少し、噂を聞いたので………」
「聖都?
それは何処にあるの?」
「聖都はロート都市のあった大陸とは別の大陸にあるんです」
「そうなんだ。
僕はどうしようかな。
旅に出るとは言ったものの、何処に何があるのかも分からなくて、目的地も決めてないんだよね」
そう言ったのを聞くと、クラウドさんは少し期待をした目で
「で、でしたら少しの間僕たちと旅をしませんか?
ロート都市から南に行くと王都スタンベルクがあるんです!
そこなら大陸で1番大きな都市ですから、ネムアさんの記憶に繋がることもあるかもしれません!」
「うーん、僕は特に何もないから良いけど………」
そう言ったけれど、体の奥底は歓喜に震えている。
さっきから、なんだろう?
もしかしたら、昔の僕と何か繋がりがあるのかな?
「メ、メイルさん!
ネムアさんも同行してもらっても良いかな?」
「あ、あぁ、まぁ俺は別に気にしないけど……」
クラウドさんの勢いにメイルさんはタジタジでそう答えている。
「じゃ、じゃぁ、ネムアさん!
僕たちと一緒に旅をしましょう!」
「あぁ、分かった。
これからよろしく」
クラウドさんが手を差し出す。
僕もその手を握る。
クラウドさんは嬉しそうに手を振っている。
クラウドさんが喜んでいる。
僕は何故か凄く安心感を得た。
旅の途中でこの謎の感情が起こる理由が分かればいいな。