107話目
今回の話は途中で視点が変わります。
クラウドからサファイアに変わった後、時間が少し巻き戻った話から始まるようになっております。
僕たちはロート都市を目指すため、途中のスレンス村に立ち寄る事にした。
そこで宿を借り、今は少しばかりの休憩をしている。
メイルさんは何か重要な情報はないかと、村で聞き込みを行っている。
僕もしようと思ったのだけど、戦闘では役に立てないからと言って、代わりに情報を集めるのは俺がすると、休むように言われた。
役に立ってないというのであれば、僕が一番何もしてない気がするんだけどね。
だって、ここに来るまでに戦闘したのは2度で、僕がしたのは最初のブルーゼリー一匹に対してファイヤーボールを放っただけ。
そのとどめもクプレがしてくれたし...
後一匹はサファイアとメイルさんで倒しちゃってたし...
2回目のアイスハウンド三匹なんて、サファイアが三匹纏めて燃やして、一匹をメイルさんが、2匹をクプレが倒していた。
それで僕は今宿の一室でサファイアを、撫でているところ...
メイルさんは情報を集めるために村をあっちこっちに行っているのに...
やっぱり、僕も今からでも行くべきかな。
クプレは宿に入れなかったから馬小屋を借りている。
寂しそうだったけど、これはどうしようもないもんね。
もし僕が冒険をしなくなったら、クプレみたいな大きい子でも入れる家が欲しいなぁ。
そうだ、あの怪我だらけの子の治療をしなくちゃ。
......メイルさんは僕が召喚術を黙っていたことを許してくれたけど、流石にエルフであることを言うのは無理だよね。
僕、負い目が多いなぁ......
「サファイアとリーシア、僕はあの傷だらけの子の治療をしてこようと思うんだけど、どうする?」
『付いてく。』
そう言って、サファイアはベットから降りトコトコと僕の足元近くまで来た。
「リ、リーシアも一緒にいくよ!」
ここ数日歩いて野宿ばかりというのは、まだ幼いリーシアには随分と大変だったんじゃないかな。
さっきまでベットの上で伸びていたし、疲れているんじゃないかな?
「無理しなくてもいいんだよ?」
「無理じゃないもん。
リーシアは大丈夫だよ!」
うーん、でもやっぱり心配だなぁ。
何か良い言い訳ないかな?
リーシアが部屋で休んでいられるような言い訳.........
聞くんじゃなくて、行ってくるって言えば良かったなぁ。
まぁ、もう遅いんだけどね。
何かないかな......
あっ、そうだ。
これなら大丈夫かもしれない。
「リーシア、ごめん。
やっぱり留守番をしていてもらえないかな?」
「え、何で?」
「僕達全員が居なくなっちゃうとメイルさんが帰ってきたときに困るでしょ?
だからリーシアが留守番しててくれると助かるなぁ。」
「......うーん、そう言うことならわかった。
お留守番しておく。」
「ありがとう。
メイルさんが僕よりも先に帰ってきたら、召喚獣のことで少し用事があるって伝えといてくれる?」
リーシアはこくりと頷き、ベットに座り直した。
良かった。
これでリーシアもゆっくりできるだろう。
僕は部屋を出てクプレの所に向かう。
そしてクプレも連れて村の外の森の中に入っていった。
皆で拓けた場所を探したけど、あまり広いところは見つからなかった。
まぁ、仕方ないかな。
もっと人通りのある所なら広いところがあるんだろうけど、そこだと人に見られちゃうかもしれないからね。
僕は腕輪を外し、傷だらけの子を召喚した。
やっぱりまだ目は覚まさず、動きもお腹の辺りが僅かに上下しているだけだ。
今までも時間があれば回復をしてきたけど、傷もなかなか無くならない。
それに、いくつかは必ず残ってしまうだろう。
そんなことを思いながらも僕はこの子の体に手を置き、回復の魔法をかける。
他の子達はどうしてるだろう?
ついてくるとは言ってたけど、何もすることがないのに暇じゃないのかな?
そう思って、魔法をかけながら周りを見る。
サファイアは、やっぱり暇そうに地べたで丸まって目を瞑っている。
......寝てる?
何でついてくるって言ったんだろう?
宿で寝てる方が良いと思うけど.........
クプレは僕の様子を見たり、地面の草や花、周りの木を眺めている。
種族的なもので植物に興味があるのかな?
そういえば、クプレの種族ってなんだろう?
前はローズディアだったよね?
それは見た目的に合ってると思うんだけど......
でも、今の種族はさっぱり分からないなぁ。
サファイアもこの傷だらけの子も何か分からない。
ブランはゲイルウルフって分かるんだけど...
僕の知識不足かな。
この村には無いけど、次に行くロート都市には図書館あるかな?
あったら調べてみようかな。
『経験値を161得ました。』
唐突にそんな声が聞こえた。
.........えっ?
なんで?
急いでサファイアとクプレを見たけどさっきと様子は変わらない。
僕たちは何もしてないのに...どうして?
僕が不意の声に困惑していると、置いてある手が震えを感じた。
その瞬間、
『主人!そいつから離れろ!!』
僕がその言葉の意味を理解する前に強い力で後ろに引っ張られ、僕が居たところはあの傷だらけの子が鼻で地面を打ち据えていた。
......な、なに?
突然に物事が起こりすぎて、僕はただ呆然と傷だらけの子を見ていた、
けど、あの子の目は黒い炎が見えそうなほどに強い憎悪が宿っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・
主人があの黄色いのを治しに行くらしい。
...面倒ではあるが、ついていかなくては。
主人に何かあってはいけないからな。
それに、無茶をして倒れられても困る。
森の中に入り、主人が黄色いのを喚んで治し始めた。
俺は少し歩くのに疲れた為地面に座る。
そして目を瞑り周りの気配を気にしておく。
害をなす奴が来ては困るからな。
......だが、俺ではさっぱり分からない。
まぁ、今まであまり気にしてなかったからな。
俺よりもあいつの方が...
それに、こんな風に歩き疲れるというのもなかった。
...そういえば、クプレも主人も俺が歩くと言うのに凄く驚いていたな。
少しでも速く自分で動けるようにと思ってやってみているが、なかなかに歩きづらい。
......やはり、飛ぶべきだろうか。
いや...しかし.........だが...
ふと前の奴が出てきた。
『鳥の癖に飛べないとか、ただの肉だな。』
少し様子が変わって、
『ほら、どうした!
四足の猫のような見た目の奴でも飛べるぞ!
お前の翼は飾りか!?』
頭を振って奴を追い払う。
俺は人の言葉は分からない。
だが強くそう思えば、念話が伝えてくる。
純粋な感情が伝わってくる分、言葉で言われるよりもその方が辛い。
なぜ、俺にこんなスキルがあるのか。
こんなもの損でしかない。
なければ良いのに.........
そう何度思ったことか。
だが今はまぁ、あってもいいかなとは思うようになった。
今度は黒い犬が現れる。
......いや、狼か?
『飛ぶ練習をしよう!』
『何か悩みがあるのなら相談に乗るぞ?』
お前は俺が素っ気なくしていても、そんなことを言ってきたな。
その前だって自分の餌を分けるほどにお人好しだった。
...あの時は飢えすぎていて、何も考えてなかったけど普通はそんな事しないよな。
あいつは何かと変ではあるけど、無表情に痛め付けてきたあの猫とは違う。
『......』
ん?
何かが聞こえたような気がした。
『...い......間』
どこからだ?
『おのれ、人間ども。
私を縛り、自分の身に危険が及ばないからと図に乗って...
この首輪がなければ、人間ども全てを根絶やしにしてやる。』
な、なんだ?
凄い怨みを感じる。
一体何処から......あの黄色いのか!
『人間.......おのれ人間...
ん?側に居るのは...人間?』
ヤバイ、このままでは主人が危ない!
『クプレ、主人が離れるのが遅そうなら黄色いのから離せ!』
クプレにそう言うと、首を傾げつつも了承してくれた。
『主人!そいつから離れろ!』
主人に注意を促す。
だが何か考え事をしていたのか、ぼぅとしている。
するとクプレが急いで蔦で主人を此方に引き寄せてくれた。
その瞬間に黄色いのが目を開き、鼻を主人が居たところに振り下ろした。
『おのれ!人間!
私にまた何をしようとしていた!
今ならば、お前たちの縛りはない。
血染みに変えてくれる!!』
怨みの籠った目で主人を見ている。
主人は何があったのか分からないようで呆然としている。
......主人は今は無理だな。
なら、俺が相手をしてここは一旦落ち着いてもらうか。
と言っても、話が通じるだろうか。
『クプレ、主人を頼む。
俺はあの黄色いのを落ち着かす。』
『分かったわ。
でも、あいつの相手なんて大丈夫なの?
なんか凄く恐い雰囲気なんだけど...』
『まぁ、無理かもな。
だがあいつには少し分かるところがあるような気がする...
いやまぁ、兎に角頼んだぞ。』
俺は主人と黄色いのの間に入る。
それでも尚、主人に対して憎しみの目を向けている。
さて俺でどうにかなるのだろうか。
黄色いのに会話を試みる。
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