106話目
間に合わなかった...
朝、目を擦りながら歩いているリーシアの手を引いて、僕はある所に向かっている。
隣にはクプレとその後ろをポテポテと歩いているサファイア。
クプレの背に乗らないのかと聞いたけれど、いいらしい。
クプレが嫌とか言ったわけでもなく、クプレも乗って良いと言っているけれど、何故か自分で歩く方がいいらしい。
まぁ、急ぐときはクプレに乗るそうだ。
急にどうしたんだろう?
何時もブランには乗っていたのに...
今は朝早いということもあって、店も露店もやっていないみたいだ。
まぁ、そうだろうと思って昨日の内に準備はしておいたから大丈夫なんだけどね。
僕らは真っ直ぐと道を歩いていく。
そうすると、門が見えてきた。
第1の鐘が鳴ると閉め、第2の鐘が鳴ると開くようになっている。
今はまだ鐘が鳴ってないから閉まってる。
それを狙ってリーシアにも少し無理を言って、こんな時間にここに来ているんだけどね。
門の前には少しばかり人がいる。
何か用事があって、急いでいるのだろう。
まだかまだかと、ソワソワしている。
僕はその人たちを見て、メイルさんが居ないか探す。
僕にも来ないかと誘ったとき、もし気が変わったら今日の門が開くと同時に出発するから、と言っていた。
...うーん、でも早すぎたのかな?
メイルさんらしき人が見つからない。
これで分かると思うけど、僕はメイルさんと一緒に行くことに決めた。
でもその前に僕は召喚術も使える事を言って、謝らなければいけない。
もしかしたら、それで一緒に行くことは出来なくなるかもしれない。
それでも、サファイアから聞いたことをメイルさんに伝えたい。
ヴィオラは連れ去られただけで、今も生きていると...
「...来てくれたんだな。」
考えているとふと声が聞こえた。
顔を上げると、メイルさんが目の前に立っていた。
「あ、おはようございます。」
「...おう、おはよう。
随分早くにここに来たんだな。
念のために聞くけど、俺と一緒に来てくれるという事でいいんだよな?」
「えぇ、メイルさんが良いと言ってくれるなら...」
「ん?
俺は逆についてきて欲しいぞ。
俺一人では出来ることは知れてる。
それに、クプレだっけか?
強そうになったな。」
メイルさんはクプレを上に下に見回している。
「角が特に立派だよな。
けど、角にも足にもあったトゲトゲは無くなったんだな。
......あれ?
うしろに何かいる?」
あ、どうやらクプレの後ろにいるサファイアに気がついたみたい。
「メイルさんその事で僕、言わないといけないことがあるんです。」
「なんだ?」
メイルさんは首をかしげ、続きを促してくる。
僕は一度大きく息を吸って、吐いた。
言うって決めたんだ。
今さら尻込みするんじゃないぞ、僕。
「クプレの後ろにいるのは、サファイアなんです。」
数秒の沈黙。
でも、僕にはとても長く感じた。
怒るだろうか?
嘘つきと罵られるだろうか?
軽蔑されるかもしれない。
メイルさんが口を開いた。
僕はとっさに体を強張らせ、目もきつく瞑った。
「良かったじゃないか。」
僕の耳に届いたのは罵倒や叱責ではなく、ただただ安心と祝福の言葉だった。
「えっ...」
予想外の出来事に僕の頭は真っ白になる。
.........あっ、違う。
僕はまだちゃんと話せていない。
サファイアが上手いこと逃げて帰って来たとしか、これでは思えない。
実際上手いこと逃げてきた様なものだけど...
「いや...あの、僕が言いたいのは......サファイアが飛んで逃げてきたとかではなく...サファイアは召喚獣なんです!」
僕はいつの間にか俯いていて、メイルさんの顔は見えなかった。
いや、見たくなかった。
今はまだこの事に驚いているのだろう。
沈黙が続く。
僕は何か言われるのが怖くなってきて、また口を開いた。
「サファイアは召喚獣だから、強制帰還っていうので無理に帰って来たんです。
黙っててごめんない!
...それで、昨日強制帰還のデメリットが終わって、サファイアを再召喚すると、ブランもヴィオラも捕まっただけで、殺されてはいないようなんです。
何処かに連れて行って、殺すというのは考えたんですけど、サファイアが見たのでは、何か首輪の様なものを付けていたみたいなんです。
わざわざそのようなものを付けると言うことは何かに利用するつもりなのかもしれません。
だから、殺されてはいないはずなんです。
取りあえず、それだけは知っておいて欲しくて......」
これで、全て話した。
メイルさんはなんて言うだろう。
怒って一人で行ってしまっても、仕方がない...
「そうか。」
ポツリとそんな言葉が聞こえた。
続きの言葉は何て言うのだろう...
でも、聞きたくない。
でも、僕は聞かなくてはいけない。
「それが知れて良かったよ。
...あんなこと言っといて言うのはなんだが、俺も2度と会えなくなってしまったんじゃないかって...
だが、そんなことはないって思いたかったんだ。
だからあれは、クラウドに言っているようで自分に言い聞かせてたんだよな。
...なんだか、恥ずかしいな。
まぁ兎に角!
ありがとうな、その事を知らせてくれて...
気が少しは楽になった。
これからヴィオラとブランを頑張って探そうな!」
...えっ?
ヴィオラと...ブラン?
探そうな!って、もしかして......一緒に行っていいのかな?
その前に、何故怒らないのだろう?
「...あの......」
「ん?
どうしたんだ?」
「何故、僕を怒らないんですか?
それに、一緒に行っていいんですか?」
僕は恐る恐るメイルさんの顔を見た。
メイルさんは心底不思議そうに首をかしげていた。
「...は?
何故俺がクラウドを怒るんだ?
何か怒るようなことがあったか?
一緒に行っていいも何も、俺最初に付いてきて欲しいと言ったんだけど...
おんぶに抱っこ状態にならないようにするが、俺結構クラウドを頼りにしてるぞ。
この前のクエストだって、俺ほとんど役に立ってないしな。」
はははっ、と苦笑気味に笑っている。
本当に僕に対して何も怒っていないようだ。
何故怒らないのだろう...
黙っていたのに...
「メイルさん、何故僕を怒らないんですか?
僕はサファイアとクプレが召喚獣であることを言わなかったんですよ?
それに、ブランはテイムであると言ったから、普通であれば他の子達もそうだろうと考えると思うのですが.........」
「別に、言わなくてもいいんだぞ?
冒険者なら手の内は秘密にするべきだ。
それで怒っていたら、俺は全ての冒険者に怒らなくてはいけなくなる。
それに、俺だってクラウドに全てを話した訳ではないだろう?」
「いやでも、僕の場合は珍しいテイム仲間という事で、親しくして貰ったじゃないですか...
それなのに僕は...」
「あー、だがブランはテイムしたんだろう?
それで十分だ。
結局テイムはしてるんだからな。
その事は気にしなくていい。
...それより、もう門が開くみたいだぞ?」
リーンゴーンと鐘が鳴っている。
門もゆっくりと動き始めた。
「じゃ、クラウド行こうぜ。
あの話が本当ならロート都市に向かってるはずだ。
取りあえずは、そこを目指す感じでいいか?」
僕は頷く。
「よし、大分遠いが頑張ろうな。」
「はい!」
そうして、僕たちはロート都市を目指して歩き始めた。
ブラン待っててね。
必ず見つけて、助けてあげるから!
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