103話目
......くっ、ここはどこだ?
辺りを見回すも白一色だ。
俺は何をしていたんだったか...
...あぁ、そうだ。
ギルベルトとか言う奴に裏切られ、捕まりそうになったから無理やり帰還したんだったか。
早くその事を主人に知らせなければいけないが、無理な帰還をしたからすぐには呼ぶことが出来ないだろうな。
呼ばれるまで、おとなしくここで待つしかないか。
...
それにしても、ここは何もない。
召喚獣と言うものはこの様なところで長いこと居らされ、戦闘のときだけ駆り出される。
それに、自分自身が思ったことは完全に無視で、主人の言いなりに動かされる。
前の主人はクソだったが、今の主人はそんなことはないから良かったがな...
前の奴など主人とも言いたくない。
...いつか必ず目に物を言わせてやる!
取り敢えずは主人に呼ばれるまで寝ていよう。
眠れば、昔の事を考えたからか夢は昔の事のようだ。
・・・・・・・・・・・・・・・
体の周囲が暑い。
けれどそれが心地よかった。
俺は暑いところが好きな種族。
岩肌に体をくっ付け更に熱を求める。
...本当は兄弟達とくっつくのが一番だが、俺は兄弟達に避けられている。
色が違うと言うだけであるのに...
バサバサッ
あ、親が帰ってきたようだ。
俺達はまだ雛で成長途中なので何時も腹が減る。
その為親は餌を常に取りに行かなければならないのだ。
常に取りに行っても、食欲旺盛な俺達は満腹にはならないが...
親に餌を貰うべく、欲しい事をアピールする。
しかし、少しくれるだけで後は何もくれない。
「ギャー(子供達、もっと欲しいのなら私の所までおいで)」
そう言って家から離れた、家よりは低いところにある少し広い場所に飛んで行ってしまった。
「キャー(お母さんご飯ちょうだいよ)」
「キー(お母さんお腹すいたよ)」
「ギー(ご飯くれよ)」
兄弟達はご飯が欲しいと喚いている。
俺は家と外ギリギリのところまで行き、お母さんの方を見る。
...大丈夫、距離は少し。
俺なら出来る。
翼を広げ、その場で羽ばたいてみる。
大丈夫。
ちゃんと風は捕まえられる。
ドンッ
背後から何かがぶつかった。
俺は突然の事で家から落ちてしまった。
落ちるとき家の方をちらっと見れば、兄弟の内の1羽が俺を睨み付けている。
あいつに押されたんだな、と分かった。
考えていたのはそこまでで、必死に羽ばたくも体勢を崩されたままで俺はどんどん下に落ちていった。
怖い。
怖い怖い!
死んじゃうッ!!
『トラウマLv1を得ました。』
その声を聞いたところで俺は闇に包まれた。
・・・・・・・・・・・・・・・
再び明るくなった。
俺はお腹が空いている気がする。
当たりを見回せば先程の岩場とは違い、何か良く分からないものが所狭しと置かれている。
あぁ、これは前の奴の住みかだ。
召喚されて1日目のことだろう。
何故かこの最初の日だけはずっと召喚されていた。
しかし、俺は体とほぼ同じ大きさの篭のような物に入れられている。
外を見ることは出来る。
それにこの住みかより外も見える。
外を見れば、若葉色の毛を持つものと奴がいる。
奴は何か怒っているように叫んでいる。
このとき念話を使っていれば、何か知ることが出来たかもしれないなと今さら思う。
しかし、俺はこの時奴が恐ろしく、奴が何かを言った通りにしなければならないと思っていたのだ。
今になって分かるが、奴は命令を使い、言うことを聞かなければ痛みが走る。
俺はこの時はその事を知らなかった為、奴が何か言った通りに動かなければ痛みが来るものだと思っていた。
奴は俺が念話を使えることを知ってはいると思う。
召喚されたとき何か丸い透明な物に触らせられた。
それを見て奴は怒っていたのだ。
多分俺の能力を知って、弱すぎるから怒っていたのだと思う。
あぁ、これも今になって分かったことだ。
当時は俺は何も知らないし、分からなかったのだから。
まぁ召喚されたとき奴と同じような種族大勢の側には、俺よりも強そうなのばかりいたからな。
それと比べて、自分自身が喚んだものが弱いと言うのが嫌だったのだろう。
しかし、それを俺に求められても知らん。
もしかしたら俺は召喚される直前に大蛇に襲われていたので、大蛇の方が本来は召喚されるのだったかもしれないがな。
俺は喰われる寸前だったから、何でもいいから助けを求めていた。
それが召喚に影響したのかもしれない。
だが、まだ最初の方は良かった。
俺が飛べないことを知るまではまだましだったのだ。
奴よりは背の高い奴が1人前に立って、何かを言い、その奴の側にいた魔物が獣魔でない魔物を倒しているのを見せ、それを奴やその他大勢が獣魔に命令をくだし、魔物を倒す。
時には獣魔同士で競うこともあった。
そういう時、俺がちゃんと命令を聞き、上手く行けば餌を何時もより多く貰えたし、怒られることはなかった。
ただ、俺が鳥であるのに飛ばない事に不満を抱いていたが...
飛べと命令されても跳ねるだけ。
鳥であるのに空という利点を生かせない。
また地べたでは鳥は速くは動けない。
それであるのにこれと言った強い攻撃は出来ない。
最初はそれでも何とか上手く行けていたのだ。
ただ周りの者達が成長し、絆を深め、命令がスムーズになるようになってきた。
そうすれば、俺はどんどん負けるようになってきた。
すると奴も機嫌が悪くなり、まず最初に飯を抜かれた。
うまく行っても少しだけ...
普通の飯の3分の1。
次に俺が飛べないからダメという事で、高い所から幾度となく落とされた。
鳥であれば飛べるだろと...
飛べなければ、飛べるようにならなければ死ぬぞと...
そんな風に言われているような気がした。
いや、実際にそう言ってたかもしれない。
俺はその時奴の声などもう聞いてはいない。
ただひたすらに死なないようにしていた。
その次は若葉色の髪の奴と、銀色に覆われた奴と共に色々な所に行った。
まぁこれは別段俺は何もしなくてよかったから、別に良かったのだが...
奴も俺も弱いというのに、何故か強敵がいる所にばかり行った。
若葉色の奴が強いようで、大抵の魔物は一瞬で動けなくされていたが...
銀色はただ、側に立っているだけ...
こいつも不思議だ。
なぜいたのか。
それよりも最後だ。
俺はまたも暗闇に覆われた。
・・・・・・・・・・・・・・・
俺は地面に転がっている。
足や、翼に力を入れて起き上がろうとするも、力が入らない。
俺の目の前には奴と新たに契約した獣魔がいる。
奴は嘲笑ったような顔をして何かいってるが、俺には聞こえない。
聞きたくもない。
もう随分前からそうなのだから、今もそうだ。
契約した獣魔は尖った耳に丸い顔。
目は大きく、牙は鋭い。
体はしなやかで、四足で走っても音はあまりしない。
尾は細長く、何より背中に翼がある。
俺と違いちゃんと飛べるようだ。
俺は新たに契約した獣魔の性能をチェックするために呼ばれ、一方的に遊ばれている。
俺は何も出来ない。
命令されているわけではない。
純粋にこの獣魔と格が違うのだ。
暫く、地べたに倒れたままいれば、奴は興味が失せたように反転し、何処かに歩いて行こうとした。
それに少し遅れるようにして、新しい獣魔が帰還させられる。
そして、俺の中の何かがプツリと無くなり、俺もまた何処かに飛ばされた。
そう、これは契約を切ったのだ。
さんざん俺をなぶって、ストレスを解消して捨てたのだ。
俺は絶対に奴を許さない。
必ず目に物を見せてやる。
奴を殺すまで俺の復讐は終わらない。
しかし、簡単には殺してやらない。
俺にしたように、奴にも同じ目に合わせてやる。
そこで、呼ばれたような気がした。
...あぁ、主人が呼んでいる。
もう呼べるようになったんだな。
そして俺は現実の世界に呼び出された。
主人の顔は今にも泣き出しそうで、しかし有りもしない希望を少し抱いて俺を見つめている。
俺は起こった事を事細かに話そうとした。
そこでふと思った。
この主人には良くしてもらっている。
俺が復讐をするときに迷惑がかかるかもしれない。
それは嫌だと思うくらいには、恩を感じている。
その時には普通に別れることはできるのだろうか?
この主人は仲間だと思えば、魔物でもこんなに心配し、気に病むのだ。
俺が契約を解消して欲しいと言えば、理由を聞くだろう。
そうすれば......
...いや、今はそんな事を考えている場合ではないな。
とにかく話をしなければ。
そして、俺は起こったことを話し始めた。
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