コカイン売りの少女
粉雪が舞い降り、空気中をふわふわと漂っている季節でした。路上は凍結していて、心まで冬の厳しさが刺さる寒さです。夕餉の匂いがして、それだけが唯一の安らぎでした。通りには香辛料をふんだんに使った七面鳥料理の香りが鼻に残ります。そんな寒空の中、一人の少女が街中に声をかけています。
「コカインは要りませんか? 上等なコカインは要りませんか? 一発キメるだけですぐに極楽にいけるコカインは要りませんか?」
栗色の毛をした少女がフードを被り、粉雪が頂上に積もっています。差し出した手のひらには、白い粉末を掴んでいます。しかし、ハット帽を被った男性紳士は見向きもせずに通り過ぎてしまいます。
代わりにその傍らにいるマッチ売りの少女のマッチを買っていきます。
というより、マッチ売りの少女が街灯の至る処に立っています。はっきりいって居すぎでした。総勢三十名余りが通りに立って闇夜に光を浴びて浮かび上がっています。
「クソが!! この売女どもあの伝説のマッチ売りの少女の流行に乗っかって、ボウフラみたいにわきやがって」
コカイン売りの少女は嘆きます。というより毒を吐きました。
コカイン売りの少女には、夢がありました。それは銃を買って虐殺テロを起こすことでした。
しかし、少女に銃を買うお金がありません。簡単に稼ぐなら体を売ることでしたが、加齢臭のするオッさん相手に触れられることが嫌なので、仕方なく他人を廃人にする道を選びました。
ああ、それにしてもコカインが売れない。気づくとどこの阿呆が通報したのか、警察官が走り寄って来ます。警察官はよだれを垂らして今月の点数だとかなんとか叫んでいます。
「狂っていやがる」
国家権力の裏側を垣間見た少女は死にものぐるいで走り出します。少女は路地に逃げ込み追跡を避けました。レンガの壁に背を預けてズルズルとへたり込みます。出てくるのは白いもやのかかった吐息。コカインはまだ一袋も売れていません。これでは銃を買って虐殺なんて夢のまた夢です。
「そうだ。コカインで一発キメて楽しい気分になろう」
コカイン売りの少女は包みを開けて、ストローで鼻から粉末を吸引します。するとどうでしょう。世界各国のファシストのブタどもに風穴を開けている幻想に浸れました。ブタどもの阿鼻叫喚している姿が大変面白く、次々に鉛玉をぶち込みます。
しかし、少女はコカインのやり過ぎで効果がすぐ切れました。そこで少女はコカインを大量に服用します。なんともいい気分でしょう。言葉に表すことの出来ない高揚感が少女を包み込みます。
ああ、今やファシストどもは彼女に跪いて命乞いをしています。なんて素晴らしき世界でしょう。脳天に次々弾丸をぶち込みます。
すると、頭にゲンコツをぶち込まれます。快楽に溺れている大海の中で、小型漁船が突っ込んできたようなものでした。大して騒ぎ立てるものでもありませんが、頭頂部には小さなたんこぶができています。頭上を見ると、ヤニのついた黄色い歯をしたお父さんが立っていました。
「こら勝手に俺の物を使い込みやがって。まったく不貞な野郎だ。というよりその年で売人なんてやるんじゃねえ。まったく悪い子だ。やるなら売春にしろ。俺がロリコンのキモヲタ共を売春させてやる」
それだけ言うと父親は少女の襟首をつかんで家路につきます。
明日から、太っちょのちっこいブツをペロペロしないといけないのかと考えると、少女は死んだほうがマシだと思いました。
ともあれ、少女の虐殺は免れて、社会にあった需要のあるところに少女の生き方が決まって、世界は平和のままでした。
めでたし、めでたし。