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一.初心者ですがレベルアップが止まりません

 この世界に降り立ってからおよそ一時間が経過した。

 どうやら僕は今、“骰子迷宮(サイコロ・ラビリンス)”という名のダンジョンに居るらしい。

 暗くてじめじめとした、洞窟みたいな場所だ。


 いや、壁も床もまっすぐに切り出された岩か何かを積んでできているようだから、洞窟というよりは人工物だな。

 現在地名も加味して考えると地下遺跡のような場所と表現するのが妥当だろう。


 そして、その“骰子迷宮”の最深部で僕は輝いている。

 比喩表現ではなく、ヒューマントーチが如く本当に体から光を発しているのだ。


『レベルアップおめでとうございます!』


『レベルアップおめでとうございます!』


『レベルアップおめでとうございます!』


 それと同時に、タガが外れたようにメッセージウィンドウが増殖を続けている。

 つまり体が光るのはこのVRMMO、“天神地祇オンライン”内におけるレベルアップ時の視覚効果(エフェクト)で、先程からものすごい勢いで僕のレベルは上がりまくっているという訳だ。


 はじめは律儀に右上の“×”印のアイコンに触れて画面を消していたのだが、埒が明かないので諦めた。

 ……諦めたとは言ったが、まあ、後でまとめて消す。今は諦めたということで。


 メッセージウィンドウに埋もれてしまわないよう、傍らに除けておいたステータスウィンドウに目をやると、これまた狂ったように経験値バーが爆発的な伸長とレベルアップに伴う収縮を繰り返している。


 あまりに目まぐるしく動くものだから、反対にコマ送りで経験値が減少しているんじゃないかとさえ思う。

 なるほど、これがストロボ効果というやつか。妙に納得してしまった。


「ギャハハハ! レベル上がり過ぎだろ常識的に考えて!」


 バーの伸縮に釘付けになっていた僕に向けて、赤髪の少女が笑い声を飛ばした。

 言葉遣いが少々アレなのは中の人が男性だからに違いない。


 この手の不一致はVRMMOに限らず、オンラインゲームではよくある話である。

 幾つかのゲームを渡り歩く中でそういうケースに何度も遭遇したし、かくいう僕もここでは黒髪ロングの幼女だ。


「アリスさんのおかげでピッカピカです」


「ヒャハ、そりゃあ結構! おっと、後ろ、気ぃ付けな!」


 言うが早いか、後方から飛び掛かってきた骸骨の化け物がアリスの大槌(ハンマー)によって半身を叩き潰された。

 それでまた僕が光に包まれた。彼女は良い笑顔でサムズアップ。

 そして、次の獲物を求めて彼女は石室の奥へと消えていった。


 もうお分かりだと思うが、一連のレベルアップ現象は彼女が意図したものだ。

 僕と彼女とでパーティを組んで彼女がバカ高いレベルの化け物を倒しまくれば、経験値分配システムによってこちらに大量の経験値が流れ込んでくる。


 要するに僕は今、俗に言う吸わせてもらっている状態、英語で言うとパワーレベリングと呼ばれる作業の最中にある。

 勿論これはバグでもチートでもなく、ゲームの仕様に則った正当な行為だ。

 正攻法かと聞かれれば、僕を含め、多くの人がそうではないと答えるだろうがね。


 * * *


「おうい、イザベルー! 何レベまで行った?」


 しばらくの静寂の後、不意に暗闇からアリスの声だけが聞こえてきた。


「今レベル72です!」


「把握! もう一回りしてくる!!」


 返答の返答として、いくらか遠くなった彼女の声と地響きが戻ってきた。

 それに合わせて僕の体がまた光る。おめでとう、僕はレベル73になった。


 アリスの後をついて行こうにも、レベル300を超える骸骨の攻撃が掠りでもすれば丸腰の僕はお陀仏になってしまう。

 できることと言えば、指示された通りに折れた石柱と壁の隙間にできた僅かな空間――その狭さゆえに敵キャラが出入りできない、所謂安全地帯――に身を寄せて彼女の帰りを待つことだけ。


 爆上げするレベルに呼応して虚しさが込み上げてきたが、この虚しさと引き換えに僕はゲーム内での強靭な肉体、あるいは明晰な頭脳を手に入れるのだ。

 文句は言えまい。甘んじて受け入れるとしよう。


 その後、“骰子迷宮”の入口でレベル80になった僕とホクホク顔のアリスは別れることになった。

 アイテムインベントリには先程まではなかった大量の化石が詰め込まれている。

 後から合流してきた彼女の仲間の弓使いから譲り受けたものだ。


 これを隣のマップにいる考古学者に渡せば、クエストを達成したことになり、その報酬としてかなりの経験値を得られる。

 彼女の見立てによれば、それで恐らくレベル100に到達するだろうと。

 一日目でこれなら上出来。やはり古参の彼女に頼んで正解だったようだ。

 キリが良いところまで見通しも立ったし、今日はこのぐらいにしておくか。


 エスケープウィンドウを呼び出し、赤髪の彼女、いや、業者の男とその仲間に支払う謝礼のことを考えながら僕は目を瞑り、ログアウトをした。

 ……後進がのし上がるためには多少の犠牲はつきもの。そういうことだ。

設定


イザベル 性別:女 職業:道士(メイジ)(遠隔魔法型・基本職) レベル80

外見は黒髪ロングの幼女、中身は一人称が“僕”の男性。

自分の所業が邪道だと分かっていながらも、効率のためには手段を選ばない。


アリス 性別:女 職業:魔騎士(イビルナイト)(近接物理型・上級職) レベル300

大槌(ハンマー)で戦う古参のプレイヤー。言葉遣いが少々ネットに毒されている。

経験値やゲーム内通貨、アイテムを現実世界のお金で売る、所謂RMTer。

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