野蛮な女騎士
美しい可憐な少女に呼び止められた。
次いで聞こえたのは、
バキッ!
という金属音だった。
ん?なんだ今の音?
見ると、床に半ばから折れた刃だけの剣が落ちていた。
「凄い!私の聖剣エクスカリバーがこうも簡単に破壊されるなんて!」
彼女の手には、両刃が半分ほど破壊されて柄だけとなった剣をもっていた。
つまり状況を察するに、この女の子は俺の体に剣を使ってーーしかもやたらやばそうな名前のーー実力を確かめたという訳か。
「……………って、なに冷静に分析してるんだ俺はっ!」
「あなた!私とパーティーを組みなさい!」
「できるかぁ!どこの誰とも知らない女とパーティーなど組めんわ!」
「なんですって!?」
しかも、いきなり剣でぶっ刺してくる危ない女だぜ?明らかにヤバイ。
それに俺は、一人気ままでのんびりな異世界ライフを送りたいんだ!ルールで縛られたパーティーになんか入ってたまるか!
この女は面倒だ。適当に言い訳作ってご遠慮願おう。
「あの、勘弁してください。俺…、僕、これからクエストに行こうと思うので……」
「ッ!ふふ、ちょうど良いじゃない」
水色の手甲を着けた両腕を組んで、俺をーー俺より背は低いのだがーー見下ろした。
「なら、私の実力を見せてあげる!もしも認めたなら、あなたは私のパーティーに入る。それで良いわね?」
「………いや、その前にお前だれ?」
正直に思った疑問を口にした。
「あら、まだ名乗ってはいなかったわね」
すると、凄まじい速度でエクスカリバーを抜刀し、それを天に掲げて彼女は叫んだ。
「私の名は、セレナ!元ゲリラン帝国の騎士で今は腕利きの冒険者よ!」
「自分で腕利きとか言っちゃいます?」
「だが、私も志望したのはいいが、これからどうすればいいか分からない!よって、力を合わせて頑張っていきましょう!」
「アレ!?パーティーに入るの決定!?てか、アンタもなりたてかよ!」
見た目は高級そうな胸当てや手甲で女騎士風といった様だが……。
まぁー、コイツを見てたら残念な気持ちになってくる。
俺の皮膚により折れて柄だけとなったエクスカリバー(笑)をドヤ顔で掲げている姿はまさに滑稽の極み。
あげくに冒険者になったばかりのひよっこが堂々と勧誘するなど目を覆いたくなる。
もうね。なんて言っていいか分かりません。
執拗に誘ってくるセレナが煩わしい。なんとか追い返そうとするが、そうは問屋が卸さない。
女騎士の名前を聞いた冒険者達の間でどよめきが走る。
「お、お、おい……。リック?き、聞き間違いじゃなければ、あの女、セレナって言ってなかったか……?」
「あ、ああ、ザック。き、聞き間違いなどじゃないぜ。確かにあの女、セレナと名乗ったさ……」
「ッ!?嘘だろ!それって、ゲリラン帝国が生んだ化け物!戦場で敵兵士に残虐の限りを尽くし、あまつさえ血肉を食らうって言われるあのセレナか!?」
「あ、ああ……、ヤツに捕まって生きたものはいない。さらに、冷酷なまでの残虐性から、捕まえた捕虜をじわじわと死なないように地獄の拷問をした後、ゆっくりとなぶり殺しにするらしいあのセレナさ」
酒を飲んで酔っていたはずの冒険者二人は、血の気を失ったような顔をしてセレナを見た。
そして乱闘はピタリと止み、今までの暴走が嘘のようにギルド内が静止した。
沈黙を破ったのは、セレナだった。
周りを見渡し、最後に俺の目線に合わせる。
「と、まぁ、私はそこそこ名が知れ渡るぐらいの強さを持っている。ふふん、仲間として不自由は無いわ!」
答えを求めて手のひらをクイッと動かす。
それを受けた俺は、
「いや本当に無理です。ごめんなさい。もう勧誘とかしないで下さい。お願いします。いえ、お願い致します。頼みますから俺に近づかないでください。もうむしろ俺と目線を交じ合わせないでください。俺はただ気楽に冒険者を目指そうとしただけなんです。そうなんです。よろしくおねがいしますから俺の傍に寄んないで。もう俺に関わらないで。てか俺絶対足引っ張っちゃいますよ。使いもんになんないですよ。ろくに金持ってないし住む場所無いし武器防具身に付けて無いし足臭いしもう俺って死んだ方がいいくらい役立たずですから。と、いうことで、サヨナラ、お元気で、また会う機会があっても会わないようにしましょう。それじゃ!」
早口でまくし立て、回れ右をしてギルドの入り口に向かいスタートダッシュを決めようとするが、
「おい、どこに行く?」
「ぴぇぇぇぇぇッッッ!?!!?」
信じられない握力で肩を掴まれ、強制的に回れ右される。
「そこまで気負わなくていいの。ただ私のパーティーに入ってくれればいいだけ」
「それが嫌なんだよ!」
この女となんぞ組んでみろ!たちまち事件に巻き込まれては肉体的にも精神的にもズタボロになるぞ!俺が!
「うふ、いざという時は私が守ってあげるから!」
「だから、俺は気楽に冒険したいんだってーー!」
有無も聞かずにセレナは、冒険者ギルドから俺を引きずって連れ出した。