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冒険者になりました



まずは、冒険者ギルドを探そう。


これは情報収集も兼ねてだが、宿の問題もある。金なし宿無しなど誰も受け入れてはくれまい。


あまり気は進まないが、誰かに聞くか。


そもそも、日本語が通じるのか?


俺は大勢いる人々の中で、比較的話しやすいーー幼女なのだがーー人を選んで話しかけた。


「え?おにいちゃん。わたしになにか、ごようじ?」

「ッ!」


おお、言葉分かった。


「えっと……、冒険者ギルドってある?」

「?、あるよー。あっち!」


元気に指さす幼女。

その方向の先には、巨大な建物があった。


「あそこか……。サンキューな」

「えへへ。バイバイ」


お礼に頭を撫でると、照れたようにはにかみながら人混みの中に消えていく。


第一関門は突破か。


俺は、示された方向の冒険者ギルドに到着する。


「冒険者ギルド。初めて見たな」


身の丈の何倍も大きい建物を見上げる。

赤い垂れ幕を下ろし、複雑な模様が刺繍されている。


……一応、初めてではないな。ゲームの中で似たようなものを何度も見たのだから。


「ッ!?」


中に入ると、鼻に強烈な臭いが入り込み咄嗟に押さえた。


これは、大量のアルコールの臭いと凄まじい男臭だ。


いくつものテーブルでは、屈強な男達が酒を酌み交わしていた。


「ガハハッ、大儲けだぜ!リック!」

「ああ、ザック!もっと飲めー!」


ギルド内は賑わっており、活気に満ちていた。

羽振りの良い冒険者は、次々と酒を注文しては、席に運ばれていく。


「………………」


騒がしい所は好きではないが、これはこれで良いかもしれない。


俺はすぐそばにいた女性店員に近づいた。


「すみません。冒険者になりたいんですが、受付はどこにありますか?」

「はい!冒険者志望の方ですね!受付はあちらにあります!」

「ありがとうございます」


店員にお礼を言い、受付の方に移動する。


そこには、(だいだい)色の髪をした女性がいた。


「こんにちは、冒険者志望の方ですか?」

「はい」

「そうですか。ありがとうございます。

私は受付を担当しています。レノンと申します。以後よろしくお願い致します」

「ど、どうも」


歳は俺より少し上か。

バーテンダーのような黒いベストに蝶ネクタイ。ベストの下は上質や白いシャツを着ており、胸がはち切れんばかりに押し上げられている。


「でしたら、まず登録料を払って頂きます。登録料をお手元にお持ちにならない場合は後からでもお支払い出来ますが、以下がしますか?」

「あ、後からで……」


俺とレノンさんとのやり取りは、冒険者たちの目に留まった。


「おい、リック!冒険者になろうってやつが来てるぜ!」

「ああ、ザック!あんな細い体で冒険者になるなんて命知らずなやつだな!」

「「ガハハハハハ!」」


2人の冒険者につられ、ギルド内が笑いに包まれる。


だが、イジメの類いの笑いではなくノリの感じだ。

なので俺も、別段気に触らなかった。


「かしこまりました。では、登録前に簡単な注意事項を述べます。当冒険者ギルドは、冒険者が怪我、損傷、もしくは死亡したとしても一切の責任を負いません。なお、身の安全も保証しかねます。よろしいですね?」

「………………」


現代日本では考えられない。

美しい女性の口から伝えられた死という言葉は、きっと本物の死だ。

ゲームではない。リアルの死亡。


けれど、そんな事を考えていたら、きっと冒険者などにはなれないだろう。


それこそ、ここにいる冒険者の笑いものである。


「よろしいですか?」

「はい、お願いします」


念を押すような同じ問いに、俺は二つ返事で承諾した。


「次に、こちらの水晶に手をかざして下さい」

「水晶に手を乗せればいいんですか?」

「はい、これは冒険者カードという登録証を作るためのものです。

ちなみに他にも、ステータス、職業、称号などが記載されます」

「は、はあ」


俺はゆっくりと手を伸ばすと、色の無い透明な水晶の上に置いた。


すると、中に見たこともない文字が浮かび上がり、水晶が強く輝く。


「はい、今日からあなたも冒険者の一員です」


レノンさんは、水晶から飛び出した一枚の紙を華麗にキャッチする。


銀色の光沢のある太めのカードだ。


それを見て、俺も冒険者となったのだなと思いワクワクすると、レノンさんが驚嘆したような顔をした。


「ッ!?!!」

「ど、どうしたんですか?」


レノンさんは、俺のカードを端から端まで目を見開かんばかりに大きく見つめていた。


その様子に、他の冒険者たちも訝しむ。


レノンさんは、驚きを隠せない声音で、恐る恐る口を開けた。


「こ、これは、ステータスの一項目が………と、とと、トリプルS、です」


シン、とギルド内が静まり返り、次の瞬間、大騒ぎとなった。


「「「「な、なにいぃぃぃ!?!!」」」」


レノンさんと同じく、皆驚きを隠せないといった感じだ。


い、一体どうしたというのだ。


冒険者たちが一斉に喚きたてた。


「レ、レノンちゃん!それは本当なのかい!?」

「え、ええ。ステータスの一項目、耐久値が恐ろしく高いです」

「なんだよ。耐久値かよ。それなら使いもんにならないんじゃないか?」

「馬鹿!耐久値がトリプルSっつったら、今まで前衛で体張ってたタンク全員分をアイツひとりに任せりゃ、他をアタッカーに回せるっつうことだろうが!」

「なっ、そ、そうか!そうなりゃ、今までの稼ぎの効率が一気に跳ね上がるぞ!」

「だろ!?てことは、アイツを入れたパーティーはたちまち大金持ちだ!」


その一言が呼び水となった。


冒険者一同が俺に視線を向けてくる。


「よう、お前さん!すげえな!新人の癖にやるじゃねぇか!どうだ?俺のパーティーに入らないか!?」

「へっ!お前の非効率なパーティーはタンクよりアタッカーを探した方がいいぜ!て事で俺達のとこに入らないか!?」

「あっ!てめぇ!いやいや、俺達と……」


そこからは、冒険者のプライドを賭けた戦いだ。

各々が俺を取り合い、口汚く罵りあい、あげくに乱闘を始めてしまった。


ここに居ればまた巻き込まれる。


俺は早急に立ち去ろうとしたその時、


「待ちなさい!」

「ッ!」


俺を呼び止める声。

振り返る。


するとそこには、美しい銀色の髪をした美少女が立っていた。

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