可愛い女性が恥ずかしがる姿を想像してください(旧題:ご飯はきちんと食べましょう)
何か短編でいいから書いてみたくて書いた処女作です(冒頭ですぐに終わる物は作品とは呼べないので)。
批評や感想があれば嬉しく思います。
※一人称ですが、主人公を眺めるイメージで読めば、より楽しめるかもしれません。
「ごめんねぇーーーーまちがえちゃったぁ」
なんかビッチっぽい絶世の美女から語尾に『星』や『音符』が付きそうな声音で謝られた。透けて見えそうな布地で、ゆとりを持たせつつも体のラインを強調するような服装がビッチらしさに拍車をかけている。
「ビッチじゃないし!」
いや、ビッチでしょ。見た目がもう完全に。金髪タレ目で泣きぼくろ、女性の象徴たる胸は母性を感じる大きさで腰周りも性的に惹きつけられるものを感じる。どう見てもビッチ。実際にどうかは知らないけど。
「だからビッチじゃないと言ってるでしょうが!?!!
頭にきたわ。あなたを私の使徒にしてあげるわ。拒否権はさっきのやりとりで消えたわよ」
なにこいつ。頭沸いてんの? これ以上関わるのやめよ。
そう思い、意識をビッチから周囲に向けると見渡すかぎり何もなかった。否、何も知覚できなかった。
色も。
音も。
匂いも。
足元の感触さえも。
は? いや、は? 待て待て待て待て。……え?
「やっと気付いたようね。体がなくなった気分はどう?」
ビッチはそう言うと、可笑しなものでも眺めるかのように笑みを浮かべた。が、混乱の極みにあるせいでビッチの言葉は耳に入らない。
おおおおお、おちつけおれ。おち、落ち着こう。落ち着かず。落ち着くとき。落ち着く。落ち着けば。落ち着け。いや落ち着けるかい! そうだ素数を数えよう。1、3、5、7、9、11、13、………………、101。これってやる意味あんのかな。今更だけど。……やめよ。とりあえず深呼吸しよう。
「吸って〜」
すぅ
「吐いて〜」
はぁ
「吸って〜」
すぅ
「吸って〜」
すぅ
「吸って〜」
すぅ
「吸って〜」
ん? すぅ
「吸って〜」
って吸えるか!
「体がないんだから吸うもなにもないでしょうに」
おバカね〜と言うビッチに苛立ちがつのるが、同時に納得してしまった。苦しい気がしていただけだった。際限無くどこまででも息を吸えそうだった。不思議なこともあるもんだな。
気が付くと落ち着いていた。
そろそろ現状把握につとめようかな。いったいどうしてこうなったし。
「話が聞けるようになったわね〜。どうなったのか一度だけ教えてあげるから、よぉく聞きなさぃ。異論反論抗議質問口答えは認めないわぁ。あなたは死んだの。そしてここは輪廻の輪に向かう前の狭間の世界。
私が何者なのかということはどうでもいいわ。だってビッチですものねぇ? 何か不満でもあるのかしらぁ? くすくすっ。あなたには私の使いとして働いてもらうから。しっかりと勤めなさぁい」
はははっ。脳内お花畑なのかな?
この体がない状態から考えて、ここがこの世とあの世の堺だというのも分からんでもない。そこは譲ってそういうことにしとこう。
でもいきなり働けとかもう笑うしかないわ。誰が働くかよ。絶対に働かない。
はたらいたらまけ。
「ふふふっ。そういうと思ったわ。だから働きたくさせてあげる。そうねえ。まずはあなたが死を迎えた後、どうなったのかを見せてあげる」
ビッチが何もない空間に手を振るうと、そこに円形の窓が現れた。窓にはテレビ画面のように風景が映っている。おれの部屋だった。
1DKの部屋の真ん中には柔らかそうな厚手の布団。そこにはフワフワとした淡いピンクのパジャマに身を包んだ、亜麻色のクリクリとした髪の可愛らしい一人の女性が、ヨダレを垂らして横になっていた。
呼吸をすれば上下していてしかるべきボリュームのある胸は、よく見るとピクリとも動いておらず、それは彼女が覚めることのない永遠の眠りについていることを示している。
その周りには服や包装袋などのゴミ、黄味がかった液体の入ったペットボトルなどで散らかっていた。
隅にあるディスプレイは電源が入ったままになっており、美男子が女性に覆いかぶさるような体勢のCGが映っている。耳元で何かを囁いているようだった。女性の顔は羞恥と喜びに赤く染まっていた。分かる人には一目で分かる。いわゆる乙女ゲーム(十八禁)だ。ディスプレイからは高音質のノイズキャンセラ付きヘッドホンが延びていた。
「あっはっはっはっはっ。あははっ。ふふっ。ぶぁはははは。あぁおもしろい。死因が衰弱による餓死で、衰弱したのも食事を面倒くさがってゲームしてて気付いたときには立ち上がれなくなってそのまま逝く。それも濡れ場のシーンで。あなたの遺体はあなたの敬愛するお兄さんがみつけるんだけど。ねえねえ俺っ娘の廃人乙女ゲーマーさん、いまどんな気持ち?」
うわぁぁぁああああああ!!!
恥ずかしい。顔が熱い。穴があったら入りたい。もはやなんというかもう死にたい。
いっそ殺せ! もう死んでた! くそったれ!
しかもこれを見つけるのがお兄様だと?!
いやだ! だめだ! こんな!
こんな、はした無い姿を見られるなんて!
くうぅぅ……。
「そんなあなたに…………妹が寝ていると勘違いして、そのまま好奇心に負けて乙女ゲームをプレイされたあげく、画面をデスクトップに移した時にBL物も見つかってしまった上に、ペットボトルの中味を悟ってしまったお兄さんに、遺体を発見されたあなたに朗報です」
ビッチはとても楽しそうに華やかな笑顔で、そう言った。
神は死んだ…………………………。
「この事態を回避する方法があります」
……………………?!!。
「私の元で下僕として働きたくありませんか?」
おれは一も二も無く働くことを決心した。
「誠心誠意、働くことを誓いますか?」
誓う! 誓います!
だからお兄様にだけはこんな姿のおれを見せないで!
「よろしい。働くと言った言葉。しかと聞き届けました。あなたがこの誓いを守る限り、この状況を回避させてあげましょう。もしも誓いを反故にすることがあれば、もっと面白いことになるとだけは言っておきますね? あと、俺っ娘とか流行らないんでやめなさい」
ぜったいに、天地天命に誓って、愛しのお兄様に誓って働こう。うん。絶対。
◇
気が付くと見知った天井があった。
どうやら夢だったみたい。
思い出すだけで顔が熱くなる。手が震える。
「夢だったの……? 」
ふと見ると、ディスプレイには電源が入ったままになっていた。
さっきの夢で見た乙女ゲームの中盤。といっても攻略ルートが四つあり、全て攻略しないとでないトゥルーエンドを合わせると五つになる。おれは最後のトゥルーエンドのルートを半分以上を攻略していた。そのはずだ。
それなのに画面には中盤の各ルート共通のシーンが映っていた。なんということだ。ストーリーが分からなくなった。どこまでが現実で、どこからが夢という名の妄想なのか分からない。
もう一度じっくりとプレイして辻褄を合わせていかなければならないことに嘆息し、思わず天井を見上げるとカレンダー機能付きの壁時計が目に入った。
「えっ?」
時刻は昼前。そしてなによりも日付けがおかしかった。
日付けは、このゲームが宅配で届いた当日だった。
届いたのは朝の九時前ごろだった。予約をして待ちに待った到着。すぐにプレイを開始した。とはいえ、三時間やそこらで一つのルートを攻略できるようなプレイスピードをおれは持っていない。
プレイしたのは初めてだし。だいたい、これが発売開始されたのは昨日のこと。
なのに、それなのに、この後の流れを知っている。どんな流れで、どんな選択肢が出るかを覚えている。
訳が、分からない。
……………………。
分かりたく、なかった。
続きをじっくり楽しみたいけれど、恐怖の方が先にたった。
物語を、スキップ機能を使って、DVDの早送りのように次々と進めていく。
見覚えのある、背景。日常のCG。そして、選択肢。
――――死因は衰弱による餓死……。
――――この状況を回避する方法があります。
つまり、こういうことか。
……夢だけど、夢じゃなかった。
その日、おれは――――わたしは久しぶりに外へ出た。
「とりあえずご飯たべよう」
読んでくださり、ありがとうございました。
1p〜5ptで評価ポイントを付けて行ってもらえると励みになります。
↓の『小説家になろう 勝手にランキング』も良ければクリックしてください。