05 - 余波の諸々
青春タグ、入りました。
でも、恋愛タグが行方不明です。
というか、ヒロイン()もですけど悪役令嬢も行方不明です。
女っ気が欲しいです、安西せんせー
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年が明けた。
年賀の行事もあった。
学院も授業を再開した。
そしれ俺は空いた時間を全部、修練に費やす。
だって悔しいじゃないか、格上相手とはいえ一方的に負けたのって。
木剣を振るう。
無心に振るう。
何度も何度も。
何度も何度も。
1日に1000回を目指して振るう。
休みの日ならば3000回だ。
そんな事をすれば体を壊したりもしかねないが、今の俺には護符がある。
治癒の魔法が使えない人間でも、護符に魔力を込めれば治癒の魔法が使えるという優れものだ。
貯めてた小遣いをはたいて、それでも足りない分は親に強請って買った逸品だ。
だがその甲斐はあった。
どれだけ訓練をしても、更に訓練が出来るのだ。
しかも魔力を消費する事で魔法の訓練にもなるので一石二鳥だ。
魔力と言うのも、使えば使うほどに拡大していくものらしい。
コッチは魔法の天才児、ベルベット坊やが教えてくれた。
修練所におずおずと顔を出したので歓迎して、ついでに教えを乞うた。
半分は、人見知りっぽい所が見えたので食いついて来やすい話のネタとしてだったのだが、コレが凄かった。
自称なのか他称なのかは知らないが、魔法の天才児といううたい文句には偽りなし。
奴には俺の魔法の使い方に関して不効率の極みだと散々怒られたが、俺流の短縮魔法はかなり効率的、効果的になった。
だが、先ずは剣だ。
一心不乱に剣を振ろう。
体を動かし過ぎて腹の中までカッカとしてきたので休憩を取る事にする。
適度な水分補給も大事だ。
回復魔法だけで補えないものもあるから。
と、休憩所を見れば悪友たちが来ていた。
なかなかの規模の商家の次男坊で独立貿易商人を夢見るシェン・カーと、リード公爵家寄騎で男爵家の当主でもあるパークス・アレイノートだ。
理由は違えども共に剣を修めようという友だ。
「朝も早くから熱心だな!」
軽い口調で言って来るシェンは、商家の人間らしく気楽な奴だ。
情報通な上にその生い立ちからか人の機微にも長けている。
と、投げて来る水袋をキャッチして飲む。
浴びる様に飲む。
新年、まだまだ寒い時期だが全然冷たく感じない。
体があったまり過ぎたか。
「気合を入れ過ぎない様に、な」
生真面目な口調で言ってくるのがパークス。
口調程に堅苦しい奴ではないが、男爵家当主らしい大人らしさと言うか、そもそも生真面目っぽい奴である。
本人に言わせれば係累無しの名ばかり男爵家の貧乏当主だと笑っているが、リード公爵家嫡男の側仕えという、俺たち3人の中では一番、身分の高い奴である。
「ぷはっ」
飲み干す。
もう少し飲みたいかな。
吸い口をペロッと舐める。
1滴も甘露に感じられるのは、少し動きすぎたか。
「しかし、2人揃ってとは珍しいな」
「俺は年中暇だし? それよりもパークスだ。最近は顔を見せなかったからな」
「すまんな。旧年中から閣下が王都に来られていたので忙しかったのだ。とはいえ、今日はリード家でも特に用事が無くてな。若からお暇を貰ったのだ」
「そいつはご苦労様」
「だな。伯爵家のとはいえ、次男坊に生まれた気楽さを思うよ」
「羨ましいし妬ましい。商家だと年末年始はクソ忙しくこき使われたぞ!」
年末年始、店は開かなくとも商品の在庫整理などやらで商家は忙しかったらしい。
本来は雇ってる連中でする仕事だったりするのだが、年末年始はお休みを出していて、家人総出で動いていたと言う。
此方もご苦労様って奴だ。
とはいえ、パークスは訳知り顔で頷く。
「それも勉強だな」
「くそ、他人事だと思って! 帳簿確認とか眩暈がしてくるんだよ!!」
「しかし、それ、商人として独立するなら必須じゃないのか?」
「ウィルビア、お前まで! 友愛の心は無いのか!!」
芝居じみて天を仰ぎ、そして笑う。
俺も笑う。
パークスも笑う。
ああ、笑いは良い。
心を健康にしてくれる。
「あー ウィルビア、お前は根を詰めすぎだ。少し休んどけ。体に悪いぞ」
「コレがあるから大丈夫だぞ?」
「道理から外れるから使いたくないって言ってた奴が、変わりようだ」
「そうか、買ったのか」
マジマジと、俺が首から下げていた護符を見るパークス。
認識票みたいな純銀の板に魔力起動式が刻み込まれている。
「良い買い物だとは思うが、機能はどうなんだ?」
「アーレルスマイヤー伯爵家ゆかりの工房で誂えた。聞いて驚け怪我と体力も回復させてくれる特注品だ」
三頂五大の一角、魔道伯の呼び声もあるトールデェ王国の魔法技術の総本家 ―― の系譜製だ。
少しだけ自慢したくなる。
「それは凄いな」
「お大尽め! 高かったんじゃないのか?」
「蓄えと、今年の分のお小遣いが消えたよ」
「馬鹿野郎! それで買えるんだから金持ちだってぇの!! よこせ!!!」
「嫌だね!」
「くそ、俺が大金を稼いだらそれより良い奴を買って、真っ先に自慢してやる!」
「期待しとくよ」
「してろ!」
悪友との馬鹿話とは、実に良い。
汗と水で濡れた頭をごしごしとタオルで拭く。
気持ちが良い。
ついでに服を1枚脱いで体温も下げる様にする。
座ると、足から尻から何かが上がってくる感じがする。
こういう時に、魔法だけで回復出来ない何かってのがあるってのを実感する。
でも、コレを乗り越えないと常在戦場、戦場の気持ちって奴には近づけない訳で。
オズウェルさんの顔が浮かぶ。
悔しいので立ち上がる。
上がろうとした。
「慌てるな」
止められた。
パークスだ。
「過度に体を動かすのは良くないぞ」
「だが護符がある」
諭すような言い方に、少し、ムッとした。
だが、そんな俺の気持ちを見透かしたようにパークスは重々しく頷きやがった。
落ち着ける様に、ゆっくりとだ。
子ども扱いするな。
同い年だ。
「魔法の力だって万全万能じゃない。その事はお前とて知っていたし、以前は使う事に疑問を感じていたな?」
「使ってみれば、こんな簡単な事だとは思わなかったんだ」
「だが体力とは違う部分を消耗する。それに魔力もな。焦るな、ウィルビア」
「焦り、焦りか」
溜息と共に座り直す。
そんな積りは無かったが、よっぽどに俺は悔しかったのか。
そうかもしれない。
「かもな」
頭を掻く。
冷却の魔法が掛けられた壺も用意しておいたので、そこから水を注ぐ。
冷えは水は喉に来る。
美味い。
「はーん。よっぽど御姫様の前で負けたのが悔しかったのか」
「ぶふぉっ!」
って、水を噴くわ!!!
気管に入った。
むせる。
痛い。
ちょっと待て。
「そうなのか?」
「ごふぉっ、ごっ、ごっ、あはっ。いや待て、シェン! どうしてそうなる!? 後、納得するなパークス!!」
「だってお前、気に入ってるだろ、クリスティアナ嬢の事? それとも嫌いか?」
「好きか嫌いかで言えば好きだぞ。だがそれは__ 」
「惚れた腫れたの類じゃないって?」
「そういう事だ」
クリスティアナ嬢は友だ。
それに、高嶺で棘付の花だ。
魅力的な女性であるが手を伸ばすのは良くない。
滔々と述べたらドヤ顔っぽく笑われた。
「ソレ」
「は?」
「そうやって理屈を付けてる時点で、気持ちを漏らしているじゃねぇか」
「あ、いや、え? おっお前、何を!?」
口がパクパクと動くが、何というか言葉が出ない。
アレ、ななんだ、コレは。
「そうなのか」
「それ以外に無いだろ。そう言えば婚約者の馬鹿大将にも結構辛辣だったし」
「ふむ、言われてみれば」
「あ、あえ?」
何かを言おうとするのだが、言葉に出来ない。
何だろう、何でだ?
どうしてこうなった。
剣を振り過ぎて力を使いすぎたか!?
「ああ、ウィルビア。反論するなら水を飲んで、共通語でな」
オーケィ。
オーケイオーケイ。
落ち着けと言うか、この野郎。
ガーッと水を注いで一気飲み。
もう1杯。
「深呼吸もな」
よしきた。
大きく息を吸って吐く。
落ち着いた。
反論してやろう。
そう思った時だった。
「生徒ウィルビアは居ますか?」
学院のスタッフが見知らぬ奴らを連れて来たのは。
中々の偉丈夫さんと同じ年っぽい奴。
2人とも見た事は無い。
俺をご指名っぽいけど、誰?
挨拶と自己紹介。
誰かと思ったら中々の偉丈夫さんはフォルゴン公爵家の人、フォルゴン<焔馬>騎士団の騎士さんだという。
「ズィンという。家名は無い。騎士と言っても正式な爵位は無い一代騎士でな。気楽にしてくれ」
軽く言って来る。
逆に言えば実力で1代限りとはいえ騎士爵位を得たのだから中々の人物だ。
「有難うございます。ゼキム伯爵家の子、ウィルビアです」
チョッとした世間話。
だけど、俺は伯爵家の息子で、男爵家当主も居るって事でかズィンさんやり辛そうだ。
なので話をふってみる。
「しかし、今日はどの様なご用件で?」
「いや、我が若に直々に手ほどきを受けた学生が居ると聞いていたのでね、用事ついでに顔を見てみたいと思ったのだよ」
隙のない仕草、姿勢の良さ。
オズウェルさん程じゃないが、この人も、強い。
だけど、割とフレンドリーだ。
といっても目が笑ってないので、見定めに来たっぽいけども。
「こんな奴でしたけどね」
目つきも態度も、そして発言すらも喧嘩腰なお連れさん。
フォルゴン<焔馬>騎士団の見習いで従者なガライス大騎士爵家の子、バルドッド・ガライスだ。
ゲルハルド記念大学に通っている騎士の卵との事。
ネクタイが赤の無地なので戦闘科の1年生っぽい。
タメか年下か。
にしても舐めてるのか?
「こんなのが相手なんだ、閣下のあの噂だって嘘ですよ」
「噂?」
シェンが食いついた。
生家が商家で商人志望なだけに情報には目が無い。
が、バルドッド、鼻で笑いやがった。
「フン、庶民に教えてやる義理は無いな」
シェンはこの場で一番、身分が低い。
それは事実だが俺の友人だ。
気に入らん。
パークスをチラ見すれば、目を細めてる。
俺に頷き返してくる。
なぁ、気に入らないよな。
「そう仰らずに」
血の気の多い俺たちと違い、シェンは営業スマイルを崩さない。
下手に出ながら食いついていく。
情報は金になるって事を良っく理解している奴だ。
流石、商家の血なんだろう。
「黙れ! 俺は大騎士爵家の嫡男だぞ!!」
怒鳴りやがった。
我がトールデェ王国には身分がある。
上から王族、貴族 ―― 公候伯子男ときて騎士爵、そしてそれ以外。
要するに下から3番目の嫡男風情が、何貴族風吹かしてやがる。
そもそも、身分はあっても割と流動的なのだ。
貴族から1代で男爵家に上り詰めた奴だっている。
後、国是というか、敵が毎度毎度やってくる場所柄故に国家総力戦がデフォだ。
何が言いたいかと言えば、身分差を吹かす野郎はケツの穴と見識の狭いクソ野郎って事だ。
「では俺が質問してやろう。噂とは何だ? 貴様の理屈なら、まさか大騎士爵家の嫡男風情が伯爵家の人間に逆らわないよなぁ?」
チラとパークスを見れば、以心伝心、頷いた。
「俺は男爵家当主だな。ガライス騎士爵家の子」
有無、見事な嫌味。
大騎士爵と一般に言われるのは、領地持ちで世襲身分の騎士爵家である。
要するに大騎士爵家とは分類上で言われるし、自称もするけど確たる制度ではないのだ。
だけど、連中のプライドではある。
他人のプライドを尊重できない奴の面子って、踏みにじっても良いよね!
シェンは、声を上げずに笑ってる。
護りたい、この笑顔。
「どうした、答えないのか?」
「っ!」
睨んでくる。
だから笑顔で返してやろう。
「申し訳ないですがそこまでで許して貰えないでしょうかね」
下手に出て来るズィンさん。
口調が変わってるのは、身分の話になったからだろう。
苦虫を噛みしめた顔でバカの首根っこを掴んで、頭を下げさせている。
「私の顔を立てるという事で。この者には隊に戻ってから教育しておきますので、どうか」
「であれば、ズィン卿の仰られる通りに」
国を護る最前線に居る練達の騎士相手に上から行くのは趣味じゃないので、矛を収める。
パークスも、俺に乗ってくれた。
コイツは多弁じゃないがキチンと空気を読んでくるので、阿吽の呼吸が出来る。
得難い友人だ。
「有難い」
さて。
自業自得で不貞腐れているバカが連れてこられた理由だが、同じ年頃という事での試合相手だった。
人品は兎も角として、剣の技量なんてのは実際に戦ってみなければ分らない。
だから、同じ年頃の奴を充てて様子を見てみる積りとの事だ。
等という深い理由は一切なく。
オズウェルさんに憧れていたバカが、自分がしてもらえなかった稽古を、フォルゴン家はおろかフォルゴン<焔馬>騎士団とも関係の無かった俺がしてもらったのを妬んで、ズィンさんに無理やり付いてきたとの事。
いやまぁ、ズィンさんオブラートに包んで言って来るけど、その内容をざっくばらんに分解すれば、そういう事らし。
他にも理由があったらしいが、そこは団の恥なのでと言われた。
そう言われると追及出来ない。
しかし、バカ。
馬鹿だ。
本物の馬鹿だ。
ズィンさんとしても、このバカを連れて来るのはトラブルの元と考えていたらしいのだが、身内がフォルゴン<焔馬>騎士団の上に居るらしく、断り切れなかった模様。
トールデェ王国南方を守る精鋭集団というイメージが実に傷ついたぞ。
コネとかやっぱり駄目だよね。
「ウィルビア・ゼキム! 俺と勝負しろ!!」
あ、バカが立ち直った。
自前の木剣と盾を持ち込んでいたのか。
用意の良い事で。
「良いぞ。相手になってやる」
とはいえ、ズィンさんに確認はする。
良いですか? と。
教育しますよ、と。
「宜しく頼む」
返事は、最初の威厳がどっか行った、投げやりモードでした。
お疲れ様です。
「ルールはどうする?」
一応、決めさせてやろう。
慈悲だ。
死に方くらいは決めさせてやろ。
「致死以外の無制限だ」
自信満々だね。
その綺麗なお顔を歪めさせてもらおう。
卑怯臭いが、初見殺しを食らわせてやる。
「姫に気に入られたからって、どうせ貴族の身分で色々したんだろうが。身分が守らない本当の戦い方を教えてやる」
「お、おう」
下には差別、上には嫉妬。
凄いね、コレ。
馬鹿だけど、突き抜けて馬鹿だ。
下方向に。
アレが、身分に守られての戦いだってんなら、戦場の現実はどんなものなんだろうな。
ワクワクしてきたぜ。
ギュッと剣を握りしめる。
「ガライス大騎士爵家の子、バルドッド・ガライス」
「ゼキム伯爵家の子、ウィルビア・ゼキム」
切っ先を合わせる。
そして距離を取る。
中型剣と中型盾を構えている。
何というか、オズウェルさんの縮小再生産版って感じだ。
フォルゴン<焔馬>騎士団の伝統スタイルなのかもしれない。
どうでも良いが。
盾の隙間からコッチを獰猛な顔で睨んでいる。
だから嗤ってやる。
「行くぞ」
剣は中段に構えて1歩目を踏み込み、2歩目3歩目。
加速していく。
それも魔法で。
「“倍力!”」
全身に力が漲る。
足の力が身を前へと押し出す。
加速。
「!」
俺と奴の距離がゼロになる。
盾で防御しようとするが、無駄無意味。
全力の突き打ちが、盾で止められる筈が無い。
鈍い音と共に盾が割れる。
驚愕した顔が見える。
腰が引けて、退こうとする。
だが、まだ俺のターン!
「ヤーッ!!」
距離を詰めてからの更なる踏み込み打ち。
2段突き。
狙うは喉 ―― は我慢して、首の横辺りだ。
魔法で強化した俺の筋力で喉なんて潰すと死にかねないからね。
治癒魔法の使い手でも居れば別だけど。
良い手ごたえ。
コレで持ちこたえたら褒めてやる。
一歩下がる残心、今度は上段に剣を構える。
が、耐えられませんでした。
「あご、あがぁ!?」
倒れてのたうつバカ。
涎と鼻水と涙を流して酷い有様だ。
同情しないけど。
しかし、これじゃ言えないな、決め台詞。
聞こえないだろうから。
弱いと言うのは罪だな ―― なんて、言ってみたかったんだけど。
れ、恋愛要素だって少しは進んでるよ!
進んでるよ!!!
それに、封建社会っぽい所だから恋愛もだけど、家と家との結びつきとかも大事だよ!!
大事だよ!!!
尚、次回は、気が向いたら(後、吾が輩のスキル的に出来るならば)、三人称で捕食者側なクリスティアナ嬢編をするかも?
無理か?




