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04 - だって男の子だし! だし!!

お客様の中で恋愛タグのお持ちの方いらっしゃいませんか!?

作中の恋愛要素が行方不明になりました!!

このままでは、恋愛タグがタグ詐欺になってしまいます。

ビターはありますけど、それ以上が欲しいのです!!


誰か、お客様の中で恋愛タグ持ちの方ぁ!?

誰かー!!


+

 練兵所のグランドに立ってみると、ここが広くも無ければ狭くも無いってのが良く分る。

 というか、王都の中心にそびえ立つ王城にあって、その中に練兵所のエリアがあるというのが普通、おかしいと思う。

 いや、この国ってかなり軍事優先だから、色々と考えて作ってるのかもしれないけど。

 角度とか。

 多分。

 ああ、空がとても青い。



「さて、用意は良いかな、ゼキム家の子、ウィルビア」



 現実逃避しても、向こうから追って来る無慈悲な現実オズウェル・フォルゴン


 準備が終わって出てきたその姿は、完全武装だ。

 俺が中型剣(ロングソード)一本なのに、相手は無慈悲に中型長剣(バスタードソード)大型騎乗盾(カイトシールド)である。

 体格に似合っているけど似合いすぎ。

 もうなんだ、やる気あり過ぎて困るというレベルだ。



「何時でも大丈夫です」



 軽く準備体操は実施済み。

 即戦闘可能(アイドリング)状態という奴だ。



「大変結構」



 頷いてたオズウェルさんが、視線を走らせた。

 見ると王太子殿下とクリスティアナが椅子に座ってた。

 それ以外にも騎士っぽい人たちが集まっている。

 公衆面前で戦うのって、割とやり辛い。

 下手をしないか、緊張する。

 剣を握り直して確認。

 ホントに、なんでこうなったんだろう。



「両者、準備は良いかな」



 審判役っぽく、ベテランの戦士の風格をした人が声を掛けてきた。

 これまたゴッツイ人だ。

 いや、周囲の騎士兵隊さん達も筋肉が凄いしオズウェルも凄いけど、この人はその上を行く。

 そそり立つ筋肉って感じだ。



「大丈夫ですよ、ガルンスト卿」



「私も問題はありません」



「宜しい。しばし確認するので少しまてい」



 俺のオズウェルさんの武器を確認するガルンストさん。

 事故防止って事だろう。

 しかしガルンスト()、どっかで聞いた名前だ。

 敬称付って事はお偉いさんだろうけど、思い出せないけど。



「盾と剣を象する軍神シュテルマーネの名において問題が無い事を認める」



 決闘の類じゃないんだから、そんな所で神様の名前なんて出してほしくない。

 という本音を飲み込んで剣を眼前で捧げる剣礼をする。

 何だろう、軽く剣を交えて汗を流そうとか、そんな話だったのに。



「若き力をぶつけ合うのは良き鍛錬である。全力を出したまえ。我輩は治癒魔法も使える故、軽い怪我であればこの場で癒して進ぜるからな」



 そこで軽く言われても、困ります。

 ガルンストさん。

 怪我をしないようにとか言ってほしかったです。

 ガルンストさん。

 見た目通りの脳筋ですか!


 内心の叫びが届くことなく、下がっていくガルンストさん。

 後は俺とオズウェルさんだけの世界。

 少しだけ距離を取って剣と剣、その切っ先を合わせる。

 戦いの合図だ。



「では」



「はい」




 オズウェルさんの戦闘スタイルは、割とセオリーに沿ったものだった。

 盾で敵を防ぎ、剣で戦う。

 但し、普通じゃない。

 盾の使い方が割とアクティブというか攻撃的な牽制までやってる辺り凄い戦闘センスだし、両手持ちが割と普通の重めな中型長剣(バスタードソード)をブンブンと振り回してくるのは規格外のパワーだ。

 知己で言えばパークスが両手で重剣(グレートソード)を振り回してくるけど、アレと同じくらいには自由自在に動かしてくる。

 俺は両手で中型剣(ロングソード)を使ってるってのに、近い速度だ。

 化け物め。

 躰に恵まれているってのは、実に羨ましいよ。

 本当に。



「オォォォッッ!」



 中段から打ち込まれてくる剣を流す。

 踏み込み、切っ先ではなく根本の力が入る場所で。

 でないと剣が弾かれます。

 その儘に打ち込まれます。

 マジ、剛剣。


 距離を詰めたんでそのまま打ち込みに入るけど、入りきれない。

 盾が絶妙に邪魔してくる。

 盾ごとに斬撃を入れるには、剣を振るうだけの空間が無い。

 なので柄の側で盾をぶん殴る。



「イェィッ!!」



 こういう荒っぽい使い方が出来る様に、柄は長めにしておいてあるのだ。

 即席でしてもらった剣 ―― 木剣の調整も、ココがポイントだったりする。

 が。

 盾は揺るがなかった。

 残念。

 全力で後方に飛び下がる。

 近距離過ぎると、単純な力比べになるので、俺的に良くない。


 距離を取る前に一撃来た。



「オオッ!」



 踏み込んできての盾の攻撃(シールド・チャージ)だ。

 打ち込んだ筈が打ち返される。

 飛び下がる予定が、ぶっ飛ばされた。 

 そのままバックステップで距離を取る。

 仕切り直しだ。

 強いわ、このお兄さん。

 見た目に似つかわしい強さがある。

 どう攻略するべきか。


 更に距離を取ってみる。

 追撃はしてこない。

 様子を見ている様だ。

 鉄壁っぽいが、世の中に完璧は無いから何とか出来る筈だ。

 多分。


 息を整えながら考えていたら、ガルンストさんが入って来た。



「双方、待て。少し休め」



 有難い。

 少し体力の底が見えてきてたんで、実に有難い。

 打ち合うのもだが、剣を構え続けるのだって体力を喰われる。

 神経に関しては、試合中はずっと削られっぱなし。

 実に有難い。



「中々にやるな、ウィルビア・ゼキム」



 一緒に練兵所の隅へと動きながらだが、オズウェルさんには余裕が見える。

 俺は青色吐息なので正直、悔しい。

 ヘルメット替わりの革兜を脱げば汗びっしょりだ。

 水が飲みたい。

 水を被りたい。



「精一杯ですよ」



「謙遜せずとも良いぞ。俺とここまで打ち合える若手はそう居ないからな」



 自負が強いが、納得の強さである。

 同世代で言えばパークスがガチだが、オズウェルさんのは強さもだが、そうだ、強靭さがあるのだ。

 強く、そして柔らかい。

 (したた)かっていうのか、この場合は。


 しかし呼ばれ方がゼキム家の子ウィルビア・ゼキムってのから砕けたのは、良い事だ。

 有難い。

 このまま、試合が終わるともっと有難い。



「そう評してもらえるのは、嬉しいです」



「はっはっはっ………ん?」



 笑ってたオズウェルさんが俺をガン見している。

 俺。

 俺の右腕。

 右手首。

 クリスティアナのお守り(ハンカチーフ)


 にょっと握られ確認される。

 頷かれた。

 笑顔なのが、怖い。



「クリス、クリスティアナのだな?」



 確認というか、断言だ。

 だけど言いたい。

 聞きたい。

 白いハンカチーフなのに何故判るし。



「お守りとして、頂きました」



 口調が敬語になるは仕方なし。

 というか、当然だよね常識的に考えて(JK)



「………なあウィルビア・ゼキム。君は実戦に於いて休憩というものがあると思うか?」



「無い、ですね」



「ならば実戦形式というのも1つ、趣があるとは思わないか?」



 目つきが怖いです。

 助けて。

 そんな内心を鑑みず、社会的政治的に正しい発言をする(マイ・マウス)



「そうですね」



 考えるより先に同意するし。

 口よ、お前はどっちの味方だ!? と言いたくなるのはご愛嬌。

 いや本当に。



「では、これからが本番だ」



 練兵所の片隅、クリスティアナ嬢や王太子殿下が居た休憩所を前に劇的なターンが決定。

 乾いた笑いすら出ないっての。

 水飲みたい。



「ガルンスト卿!」



「どうしたのかね?」



「我らはもう少し実戦的な試合をしたいと思いました」



実戦的(・・・)、か。君の気持は理解したがウィルビア・ゼキムに異存は無いのかね」



「ありません」



 やる気満々なオズウェルさんだ、此処で断っても碌な事にはならないだろう。

 なら、後でグダグダになるよりも今やった方がマシというものだ。

 頭の痛い被害限定(ダメージコントロール)とも言う。





 革兜をかぶり直して、革小手の裾を引っ張って具合を調整する。

 汗をかいているので滑らないように、だ。


 相手も色々と(・・・)用意している。

 剣も盾も先ほどのままだが、護符(アミュレット)を外し、腰に下げてた魔道具に魔力を通しているのが見えた。

 本気モードって奴だ。

 溜息も出ない。

 気分は刑場の罪人だが、とはいえ一方的に負けてやる義理も義務も無い。

 歯はある牙もあるのだからには、一矢報いずして何が男子かと言う訳だ。



「ウィルビア・ゼキム」



「はい」



「君は剣だけではないのだろう? その本気を見せたまえ」



 俺も本気で来い、と。

 しかし、クリスティアナ嬢から聞いたのだろうか。

 俺の奥の手。



「挙動でな、分る」



 剣の技量を見れば判るという。

 剣の技だけに必要な動作と、それ以外が含む動作の違い。

 俺に隠した爪がある事が判るという。


 凄いなオズウェルさん。

 本気で剣を鍛えている人だ。



「私は剣だけしか出来ない。だがそれ故に剣に邁進したし他の手も探した。それら全てが私の強さだ。であればこそ、他人がどの様な形であれ強く成らんと修めた事を否定する積りはない」



 凄い気概だ。

 というかこの人、公爵家の嫡男だよね。

 指揮官として後ろで差配するのが本業なのに、この強さへのストイックさ。

 格好良いもんだ。


 シスコンっぽい所が無ければ最高だったのに。



「………良いのですか?」



「構わぬ」




 改めての全身全霊のガチバトル。

 とはいえ、体力の方が限界に近いので様子見無しの初手から全力投入だ。

 剣を中段に構えて、合図を待つ。

 切っ先と切っ先を合わせる。


 試合開始。


 先ず俺がするのはバックステップ。

 距離を取って、仕掛ける。



力よ(フォース)!」



 力ある言葉(パワー・スペル)

 魔法として魔力を転換するのではなく、純粋な魔力をそのままぶっ放す魔力弾。

 指先や魔法発動体で指向させる必要も無く、俺の思った場所に発射出来るお手軽な魔法だ。

 その分、威力は低いが、牽制用としては実に役立つ。

 例えば、硬く踏みしめられた地面に叩きこむとか。



「!」



 地表が割れ立ち上った土煙、そして跳ね上がった小石やら。

 煙幕。

 だが、それが生まれるよりも先に俺は駆け込む。


 咄嗟に盾を構えたオズウェルさん、その盾の側へと。

 盾を目くらましにして、更に走り込む。

 躰を屈め、少しでも見えづらいようにして走る。

 更に左側へ。

 抜けた。

 急制動。



「くぅっ!?」



 足がもつれそうになるが、何とか踏みとどまる。

 足のバネを溜め解放、踏み込む。

 中段の構えからそのままの打ち込み。

 突きにも似た一撃。



「アァッ!」



 狙うはオズウェルさんの背中。

 無防備なその背、の筈だった(・・・・)


――快音


 踏み込むよりも先に、踏み込まれました。

 踏み込みながら身を捻ってやがりまして、切っ先は盾で弾かれました。

 何でそこまで動けるよ!?

 化け物め。


 ダメージは通っている筈だけど、効果的な一撃とまではならなかった模様。

 そのまま剣を振り上げて来る。

 打ち込んで姿勢が崩れているので、そのままだとヤヴァイ。

 距離を取る。



「っ!」



 取る前に蹴られました。

 蹴っ飛ばされました。

 土の味が美味しいです。


 美味しくねぇよ!!


 血交じりの唾を吐いて顔を上げれば、オズウェルさんのお顔がそこに。



「悪く無い。実に悪く無いぞ」



 悪く無いと褒められました。

 凄く悪い笑顔で。



「そりゃどう、も!」



 残った力で体を跳ね起こす。

 倒れたままに止めを刺されるのは、悔しいから。


 甘かったですけど。



「逃がさんよっ!!」



 体が立ち上がるよりも先に剣が打ち込まれてくる。

 本当に、甘かった。

 綺麗な一撃(クリーンヒット)

 剣で直撃を避けるが、意識が持って行かれそうな威力がある。

 体が浮く。

 踏みしめる。

 だけど、倒れないだけで精一杯。

 そこから更に、滅茶苦茶に打ち込まれました。






「あっ?」



 気が付けば、知らない天井。

 知らないベットに寝てた。


 真っ白で清潔感あるけど、詰め物の少ない硬いベットだ。



「つぅつっっ」



 体を起こしてみる。

 体中が痛いが、外傷の類は無い。

 どうやら治癒魔法で癒された様だ。

 疲労感は凄いけど、コレは体力側の問題だから仕方がない。

 というか、体を使った代償なので、この疲労感を治癒魔法で抑えようとすると、体を使った経験がふいになるので、普通はしない。

 なので、仕方がない。


 倦怠感に包まれながら、先の戦闘を思い出す。



「見事に大負けか」



 勝てるとも思ってなかったが、ここまで見事にやられると爽快感が ―― 否、嘘だ。

 悔しい。

 ひたすらに悔しい。

 不貞寝したい。

 もっと強くなりたい。


 窓の外を見ればまだ明るい。

 昼過ぎに王城に来た筈だから、気絶してそんなに時間が立ってないみたいだ。

 遠くで歓声が聞こえる。

 感じからして練兵所だろうか。

 静かなこの部屋との落差が、胸にくるわ。

 コレ、キツイね。


 格好を見れば清潔だけど簡素な貫頭衣。

 治療用かな。

 ベット周りに俺の服が無い。

 どうしよう。

 というか、あんまり考えたくない。


 頭が回らない中で、扉が開いた。



「あ?」



 クリスティアナ嬢だ。

 メイドさんを1人、連れている。



「あら、目が覚めたのね。大丈夫?」



「体の方は、問題ない感じだ」



 傷心(ハートブレイク)だけどね、とは言わないよ。

 元気は出ないけど。



「良かった。ガルンスト卿が上位の治癒魔法を掛けて下さってたけど………」



 言葉を濁してくるクリスティアナ嬢。

 だよね。

 綺麗な一撃、食らってるからね。



「恥ずかしい所を見せたな」



 見えてたけど回避行動が出来なかった。

 体力不足だよね。



「そんな事は無いわ。ウィルビア、貴方は立派に戦ったのよ」



「一方的にやられたのに?」



 全力を尽くした。

 だけど、一撃を入れる事無く負けた。

 キツい言い方をすれば完敗(ワンサイドゲーム)だ。


 手に力が入る。

 勝てないと分ってたけど、勝てなかったら悔しい。

 人間とは何とも我が儘な生き物であるのか。

 嘆息しか出ない。


 と、手が優しく包まれた。



「クリスティアナ嬢?」



「大丈夫ですわ、大人げ無い兄上にはきちんとお話(・・)をしておきますから」



「は?」



 怒ってる。

 クリスティアナ嬢、結構本気で怒ってらっしゃる。

 どいう事ですか? との疑問符に、プリプリと怒りながらも答えてくれた。

 オズウェルさんの大人げない行為って奴を。


 正確には行為(・・)じゃなかった。

 魔法具(アイテム)だ。

 体力強化から始まって、筋力強化、敏捷強化、反応速度強化、耐魔法などなど。

 大量の、それも上位の護符(アミュレット)を携帯していたとの事だった。

 そりゃズルいと俺も思う。

 年下の俺相手にナイワーと思う。

 というか、それだけ魔法の護符を持っているという時点でフォルゴン家の財力ってどんだけ!? であるが。


 とも角。

 元々、それらの護符(アミュレット)は常用していたらしいのだが、試合の前にそれらの効果を抑止する護符(アミュレット)を付けていたらしい。

 だが、第2試合(ガチンコ)をする際に外していたとの事。



「あー」



 そう言えば、何かを外してた。

 アレか。



「正々堂々とは言い難いでしたわ」



 戦場ならともかく、練習試合じゃね。

 大人げないと言われても仕方がない。

 どんだけシスコンなんだろう、あのオズウェルさん。


 呆れるというか、言葉にし辛いというか。

 そんな気分で黙ってたら、抱きしめられた。

 頭を胸に抱かれた。

 良い匂いがする。



「悩む必要はありません。自分を、自分自身を信じて下さい」



 柔らかい、良い匂いだ。

 力を抜いて身をゆだねたくなる。



「有難う」



 でも我慢する。

 男子だから。





お兄ちゃんはガチです。

シスコンのお兄ちゃんがガチ仕様になるのは、この世界の基本かもしれません(え

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